営業戦略

2024.06.17 ビジネスモデルのブラッシュアップと型化で新規事業開発の「実行力」強化に貢献

パイオニア株式会社
パイオニア株式会社は1938年に創業。同年、創業者の松元望氏によって国内初のダイナミックスピーカーが開発され、日本を代表するオーディオメーカーとしての地位を築いた。その後、同社はカーナビゲーションなどの車載機器事業に進出。現在はカーエレクトロニクス事業を中心に、多方面に事業を展開している。

モビリティサービスカンパニー プロダクト統括グループ ダイレクター
小川 慶輔 様

https://jpn.pioneer/ja/

EXECUTIVE SUMMARY

  • 1. 小川氏が所属するプロダクト統括グループでは、パイオニア社における新規事業開発を担っており、メンバーがそれぞれプロダクトオーナーとして案件を進行していた。しかし、リソースやノウハウの不足から、事業開発の検討の質を高めることに難航。そこで、事業開発の支援実績が豊富で、実行力に優れた外部のパートナー企業に協力を仰ぐことを決断した。
  • 2.リブ・コンサルティングは、パイオニア社の事業開発プロセスの再構築プロジェクトを担当。同社のビジネスモデルの案をブラッシュアップし、各案件のフェーズアップに寄与。また、社内の新規事業開発の実行力を高めるために、実行手順マニュアルを作成した。

自社アセットを活かした新規事業開発に難航

リブ・コンサルティング 坊将徳(以下 リブ坊) カーナビゲーションシステムは今や、車のオプションとして取り付けるものから「付いていて当たり前」という存在になりました。

 それに合わせて、多くの人々が純正品のカーナビゲーションを取り付けるようになり、パイオニア様にとっては厳しい環境に業界が変化したと思います。パイオニア様は、この状況をどのように捉えているのでしょうか?

パイオニア小川様(以下 小川)おっしゃるとおり、外部から見た弊社は厳しい状況に立たされていると感じるかもしれません。

我々はカーナビゲーションのメーカーとして、自動車メーカー様向けにも商品を提供していますし、後付けの市販市場においても業界シェアの上位を走り続けています。主力ブランドである『カロッツェリア』は、4050代の男性を中心に広く愛されています。

パイオニアが多くのお客様に信頼いただいている要因として、「きめ細やかさ」があると考えています。グローバルに世界を見渡しても、日本の道路事情は非常にユニークです。平地が少なく山道が目立ち、道も狭小で交差点も非常に多い。こうした道路環境において、弊社は高精度なルート案内のソリューションを提供してきました。

近年、自動車メーカーは車載OSを搭載した車種を市場に投入しており、今後カーナビゲーションは車載OS上のアプリケーションとしての選択肢も加わることになります。加えて、市場ではスマートフォンでアプリケーションが広く使われています。このようにナビゲーションは、クラウド型の形態が今後広がっていく見込みですが、ユーザーは様々な選択肢の中から自分に合ったアプリケーションを使うことになります。

その中で我々としてはこれまで培ってきた日本にフィットした高精度なルーティングなどを強みとして、多くのユーザーに選んでいただけるチャンスがあるととらえています。

リブ坊 大手企業として培ったノウハウや顧客基盤を活かしつつ、変革を起こそうとしているのですね。今回、私たちはパイオニア様の事業開発プロセスの再構築をお手伝いさせていただきました。外部のコンサルティング会社を活用しようと考えた経緯について、教えていただけますか?

小川 私が所属するチームでは、昨年(2023年)まで10名程度のメンバーがそれぞれプロダクトオーナーとなり、複数の事業開発案件に携わっていました。それぞれの案件のフェーズを管理するためにさまざまなKPIを設定していたものの、いくつかのプロジェクトが停滞してしまっている点に課題を感じていました。

フェーズを前へ進めようにも、検討の質を高めるためのリソースが不足していました。そこで、新規事業開発を支援してくれるパートナーを、社外に求めるほうがいいのではないかという意見があがったのです

パートナーの条件として、弊社の動向に伴走していただきつつ、私たちの行動の質を高めてくれることが挙げられました。加えて、メンタリングやリサーチの手法を学ぶといった抽象的な支援ではなく、プロジェクトを具体化してくれる実行力も重要なポイントでした。

それぞれの条件をもとにいくつかの企業に相談した結果、リブ・コンサルティングの提案が希望にフィットするものだったため、ぜひお願いしたいと考えたのです。

ビジネスモデルのブラッシュアップに貢献

リブ坊 実際に、弊社による事業開発プロセスの再構築プロジェクトが始まってからのご感想もお聞かせいただけますか?

小川 プロジェクトを通じて強く感じたのは、スタートアップの支援実績が豊富なリブ・コンサルティングならではの提案力でした

スタートアップは基本的に、専門領域の最前線で事業を展開しています。そこに深く関わる貴社だからこそ、新規事業開発の最新事情や、リーンキャンバスなどスタートアップならではのフレームワークをよくご存知でした。

特に印象的だったのが、スタートアップ事情としてもPMF度合いが高まっており、プロダクトの完成度も高く、市場の中で大きく活躍しているという状況を教えてくださったことです。この状況下に対して、弊社が従来の戦略で挑んでも成功は難しいという率直な意見から、弊社がどのように戦うべきかを指南してくださいました。

リブ坊 大手企業は顧客資産や製品、製造技術など、スタートアップに対して優位な点が多く存在します。一方、スタートアップは特定の領域に経営リソースを注ぎ込むこともありますし、外部からの資金調達を行っていることも踏まえると、実はスタートアップのほうが大手企業よりも一つの事業にかけられる資金力が高いことが珍しくありません。

だからこそ、一点集中で臨むスタートアップと同じ土俵で競うには、戦略を工夫する必要があるというのをお伝えさせていただいたと記憶しています。

さらに今回の支援で特徴的だったのは、ゼロから事業開発の方向性を考えていくのではなかったという点です。すでにパイオニア様が培ってきたビジネスモデルについて、弊社が評価をしつつ事業の精度や確度を高めるというアプローチを取らせていただきました。

小川 プロジェクト開始前の弊社は、「移動」をテーマとした枠の中であればその内容や種類は問わない、という制約下で個々のプロダクトオーナーの企画ベースでアイデア検討を進めておりました。

しかし、明確な戦略を決めるのに試行錯誤しており、経営陣も、輪郭があいまいなプロジェクトに資金を投入することはできなかったのです。

その点、リブ・コンサルティングが私たちの考えていたビジネスモデルを評価し、ブラッシュアップの方向性を議論するという支援の形は、想定以上の効果を発揮しました

実行手順マニュアルに大きな手応え

リブ坊 弊社とのプロジェクトについて、「リブ・コンサルティングに依頼してよかった」と感じたことはございますか?

小川 大きく2つあります。

1つ目は、貴社が非常に解像度の高いファクトを持っていたという点です。リブ・コンサルティングは過去の支援実績から、私たちが展開しようと考えている新規事業の方向性に対しても、多くの一次情報を提供してくださいました。

情報を提供してもらうたびに、弊社の検討の質の浅さを痛感しましたし、スピーディに事業の方向性に対する解像度を上げてくださったことに、とても驚かされました。その姿勢に、貴社の事業開発支援に対する「隙のなさ」を感じました。

例えば、貴社が考えたアイデアの1つに、カーナビを「情報配信の手段」として位置づけるというものがありました。弊社のカーナビは、すでに多くのお客様にご利用いただいております。

その環境をうまく活用すれば、多くの企業にとって重要なインターフェースになる。このアイデアは、弊社にとって素晴らしい気づきにつながりました。リブ・コンサルティングが、弊社の引き出しを棚卸ししてくださった気がします。

2つ目は、事業開発を型化するためのドキュメントをまとめてくださった点です。今回のプロジェクトで、リブ・コンサルティングは具体的なビジネスモデル構築にとどまらず、社内で事業開発を続けられる汎用的な実行手順マニュアルを作成してくださったのです。

弊社にとって、マニュアル化は優先順位の低い依頼事項であったにもかかわらず、貴社は、期待を大きく超える手順書を作成してくださいました。

(実際に作成したマニュアルの一例)

リブ坊 小川様からマニュアル作成のご依頼をいただいたとき、弊社のチームでは「このドキュメントがパイオニア様の社内でひとり歩きしても、齟齬がないものにしよう」と考えました。その結果、60ページを超える大作になってしまいましたが(笑)。

小川 非常に分厚い資料ではありましたが、内容はまったく冗長ではなく、むしろ必要最低限の情報がまとめられていました。

パイオニアの強みを活かしつつ市場開拓に挑戦したい

リブ坊 弊社とのプロジェクトの成果について、改めてお聞かせいただけますか?

小川 まずは、弊社が進行していた新規事業のプロジェクトの多くをフェーアップできたということが、大きな成果として挙げられます

また、先ほど触れた事業開発の型化についても、リブ・コンサルティングが作成した資料がすでに、社内でも機能し始めています。マニュアルをもとに、事業開発のアイデアをブラッシュアップさせ実行するというプロセスが出来上がったのは、弊社にとって大きな成果でした。

リブ坊 作成した資料が、皆さまの手によって順調に運用されているのは非常に嬉しいです。最後に、今回のプロジェクトを通じて、パイオニア様が新規事業に対してどのような考えをお持ちなのかを教えてください。

小川 弊社を取り巻くカーナビゲーションシステムの業界は、大きな再編期に立たされているのは間違いありません。その大きな要因となるのが、カーナビゲーションというハードウェアのなかで動いていたソフトウェアが、クラウドコンピューティングに移植されつつある、ということにあるでしょうか。

その結果、ルート案内などのソリューションは車載機で利用されるだけでなく、スマートフォンでも利用されるようになりました。今後、パイオニアはナビゲーションというアセットを、どのような方法・機器にも適応できるようにすることが、現在の重要な戦略だと考えています例えば弊社は今年4月、バイク用音声ナビ「MOTTO GO」のプレリリース版をAndroidデバイス向けに公開しました

このアプリでは、「この先の道路は路面の状況が悪いので気をつけてください」など、音声によるインターフェース開発に力を入れています。

これはまさに、私たちが培ってきた道路情報に関する知識・ノウハウがあるからこそ提供できるソリューションです。ナビゲーションという枠に収まらず、ドライバーの皆様が求める情報を、適切なタイミングでプッシュする。そうした仕組みづくりもまた、パイオニアが提供できる新しい体験だと考えています。

加えて、今後は「EV」というテーマにも取り組みたいと思っていますEVに最適化したナビゲーションシステムの開発はもちろんのこと、EVへの切り替えを支援するようなサービスも提供していきたいですね。

それによって、日本にEVを浸透(普及)させる一助になればと思っていますし、それが結果として、弊社のビジネス拡大にも寄与すると捉えています。市場を形成するチャレンジャーとして、果敢に挑戦していきたいです。

リブ坊 パイオニア様の動向を見守りつつ、何かあればすぐに弊社でもサポートさせていただければと思います!

(※本記事は2024年5月の取材時の情報をもとに作成しています)