創業111年目以降の成長を見据え 外部の視点を取り入れながら 経営基盤を強化する
PROJECT

事例概要

1.次の時代に向けた変化とチャンスを模索し続ける貝印株式会社を核とする貝印グループ。その視点は商品ラインナップの構築に活かされているが、一方で、経営スタイルの変革にも着手。事業継承の準備を視野に入れながら、集団経営を目指す。

2.経営基盤を強化すべく、選択と集中によって現状の事業の見直しと再構築を図る。また、実効性のある中期経営方針を策定し、経営方針を現場に浸透させ、理解度向上を高めた。結果、現場社員の当事者意識が高まり、自分たちが主役と考えて変革に取り組む姿が見られるようになった。

事業内容とコンサルティング導入について



権田  貝印グループの成り立ちと現在の事業を教えてください。

遠藤  当社は1908年(明治41年)に、鎌倉時代から日本刀の産地として有名な岐阜県関市で創業しました。当時はすでに廃刀令が施行されていたため、刀鍛冶は野鍛冶と呼ばれる包丁や農具など身の回りで使われる刃物類の生産者に転じており、当社も創業者である初代遠藤斉治朗がポケットナイフ作りを始めたのが起源です。1932年には日本初の国産カミソリ替刃を作り、その後、包丁、爪切り、はさみといった身の回りの刃物を生産するようになりました。
一方で、カミソリや爪切りなど身だしなみに関わる刃物や、包丁やキッチンばさみなどを作っていたことから、刃物以外のビューティーケア用品やキッチン用品にも商品ラインナップを拡大していきました。国内外の自社工場における刃物商品製造業と、協力メーカーと刃物以外の商品を生み出すプロデュース事業を両方行っているのが今の貝印です。また、身の回りで使われる商品だけでなく、医療用刃物や工業用特殊刃物など、いわゆるB2Bの分野でも事業を展開しています。

権田  御社の社長は、代々、創業者の子どもが受け継ぎ、現在の三代目社長は創業者の孫に当たります。社内であらゆる意思決定を行うファミリービジネスとして成長してきた中で、外部コンサルタントを使おうと考えたのはなぜですか。

遠藤  当社は「切れ味」という言葉に代表されるように「切る・剃る」ための技術・ノウハウをコアとしながらも、事業の中身は時代とともに変わっています。取り扱い品目にもその変化が表れており、現在の約1万点のアイテムは、新しいものを取り入れ、古いものをやめてきた結果です。当然、次の変化に向けた準備も進めなければなりません。
また、遅かれ早かれ事業継承のタイミングが来ます。次の世代を見据えながら成長戦略を考えていくという点で、外部環境の変化がわかるコンサルタントの力を借りるのが良いだろうと考えました。また、もう1つの理由はグローバル化です。1996年以降、海外の生産拠点も順次拡大してきており、グループにおける海外売上比率もこの20年ほどの間で急激に大きくなっています。グローバルカンパニーとしての歩みを進めていく中で、業務の中身や構造が適正か、さらなる成長に対応できるかといったことを外部の視点からも確認したいという考えがありました。

リブのコンサルティングについて



権田  今回の支援では、主に貴社の経営戦略本部とやりとりをさせてもらいました。次代の事業継承を見据えた準備のため、従来のように社長の強いリーダーシップだけで会社を引っ張る経営スタイルからの変化を志向し、チームとして貝印グループ全体の経営課題を分析し経営戦略を考える機能を持った横串の組織を社内に作ったことが大きな変化だと感じます。

遠藤  現社長(3代目)が社長に就任されて間もない頃、先代社長(2代目)による”鵜匠経営”で当社は成り立ってきたと外部コンサルティングの方に表現されたことがあったそうです。創業の地・岐阜県では長良川での鵜飼が今もなお続いていますが、それになぞらえて、鵜匠が複数の鵜を手元が絡むことなく上手にさばくように社長が絶妙なバランス感覚をもってあらゆることを取り仕切っていくという経営スタイルです。
現社長の体制においても、それが本意ではなかったかもしれませんが、結果としてこの”鵜匠経営”が続いているように思います。しかし、会社としての規模も大きくなり、内部環境・外部環境が大きく変化・複雑化する中、一人だけで全てのバランスをとることはより困難になってきており、将来的に私が社長職を引き継いだ際、社長1人で引っ張っていくことには限界があると感じており、チームによる集団経営に移行していきたいと考えています。そのための準備として経営戦略本部を創設することにしたのです。

権田  長寿企業やファミリービジネスの要素を持つ企業において、新たなことに挑戦する際に注意するのはどのようなことですか。

遠藤  歴史の長さと比例して過去の成功体験が増えますので、それが変化の邪魔をすることがあります。「今までうまくいっていたやり方を、なぜ変えるのか」という疑問が生まれ、それが抵抗になってしまうということです。そのため、どんな変化を取り入れるにせよ、先人の功績に敬意を払い、過去の否定ではなく、さらに良くするための変化だと理解してもらうことが大事です。変化の目的・意義が明らかになり、腹落ち感が醸成されることで、変革は一気に進みます。
当社は離職率が低く、プロパー社員の社歴が長いという特徴があります。当然、社員一人ひとりの顔と名前が一致しますし、それぞれの特性・性格もわかります。一丸となった時の実行力が大きい点は、長寿企業やファミリービジネスの特徴の1つだと思います。

権田  支援がスタートしてからどのような感想を持ちましたか。

遠藤  当社は商材が多岐にわたり、前述したようにメーカーとプロデュースという2つの事業の側面があります。そのため、強みやコア事業を見つける際も、一般的な分析手法が当てはまりにくく、全体戦略の組立が難しかっただろうと思います。
そのような状況の中で、リブ・コンサルティングさんには選択と集中によって筋肉質な企業となる支援を実施していただきました。選択と集中を実行するためには、会社として実現したい夢や現状の事業の優先順位をつけ、必要に応じて一部の事業に関わっている人がいますので、彼らに会社の全体像踏まえて説明し、納得してもらう必要があるからです。社内のみで進めていたら、おそらくその事業に対する想いや感情が邪魔をして、たとえそれが合理的な判断であっても、「止める・減らす」といった厳しい決断はできなかったと思います。
リブ・コンサルティングさんには、現場の想いと経営が考える数字の両方を踏まえ、縮小や撤退を検討する「物差し」づくりを支援していただきました。第三者の視点を持つ人と一緒に進めることができたのが良かったと感じました。

今後の展望について



権田  これから実行のフェーズに入っていきます。実際に変革に取り組む社員にはどのようなことを期待していますか。

遠藤  社長が引っ張る経営は、社長が意思決定しますので、施策がうまくいかなかったとしても最終的な責任は社長が取ります。つまり、指示を受けて動く方は安住できてしまうのです。そのやり方では集団経営は実現できません。自分たちが主役になるという意識を持ってもらう必要があります。今回の支援を受けて、部長層の会議や、その下で現場を回している次長層の会議では、会社の方針がよく見えるようになったというポジティブな声がありました。そこに何か変わりつつある期待感を持ちました。次世代を担う部門長クラスが当事者意識を持てるようになった1つの良い変化だと感じます。
また、これまでは現場まで踏み込んでリブ・コンサルティングのコンサルタントが支援してくれていました。野球に例えるなら、チームとして弱い三遊間の穴をリブ・コンサルティングがカバーしてくれていた状態です。実行フェーズは、その状態を抜けて自発的に変わるフェーズなのだと思っています。いつまでも外部の人を頼るのではなく、自分たちで穴を埋める意識を持つことで、変革を単なるお題目と捉えるのではなく、チームの具体的なアクションとして反映させていく流れが生まれるだろうと思います。
変革の取り組みを会社の内側と外側に分けて考えると、当社は長いこと内側の取り組みを積み重ねてきました。今回はコンサルタントという外側の力を借り、これまでとは違うよい成果を得ることができました。ここからは再び内側の取り組みです。いずれまた外部からアドバイスもらうといったことも想定しつつ、内側から変革する力と、外側からの支援を使いこなす力を両方高めていきたいと思っています。