事例概要
1.日機装株式会社は、1953年に化学プラント向けや 発電所向けポンプの輸入販売、その後の国産化にはじまり、多くの世界初の製品を生み出した大手工業メーカーだ。メディカル事業においては、1969年に 日本で初めて血液透析装置 を開発し、現在でも国内市場シェアはトップである。しかし、追随する競合他社の営業攻勢によりシェアを奪われる危機感を感じ始めていた。
2.メディカル事業本部では、基盤強化と収益力の向上を目指し「営業組織の変革」を行うべきだと考えていた。通り一遍の人事異動や社員教育ではなく、営業社員の意識を変える抜本的な変革である。そのような状況下でリブ・コンサルティングは抜本的な変革プロジェクトの伴走者としてかかわることとなった。
3.2020年12月期の決算において、メディカル事業部は前年比8.8%増の68,127百万円の受注高を計上した。新型コロナウイルス感染症の影響で営業活動の制約を受けた中にあっても、見事変革を成し遂げた結果でもあるといえるだろう。さらに、2021年12月期においては受注高84,500百万円(前年同期比24.0%)と2桁成長を見込む。
透析市場を取り巻く環境
「メディカル事業本部は、日本国内の透析市場の成長に応じ、必然的に伸び続けてきた事業体です」取締役執行役員として、医療部門長とメディカル事業本部長を兼任する木下取締役は語った。
日本透析医学会の2019 年調査報告によると、日本で透析が必要な患者は現在およそ34万人。ここ10年は毎年5000人ずつ患者数が増えているが、一時期に比べ伸びは鈍化している。透析市場はすでに成熟市場だ。
「日本の人口減に伴い、いずれ国内の市場は頭打ちを迎え、縮小するだろう。20~30年前からずっとそう言われてきました。しかし、実際にはわずかながら伸びています。結果的に、この市場を争うプレーヤーの数も減っていない状況です。もはや『良い機械を作れば売れる』拡大路線はありません。競合他社とのシェアの取り合いをしなければならないのです」
成熟市場の中で感じた危機感
日機装株式会社では、2016年~2020年にかけて、5ヵ年の中期経営計画「日機装2020」に取り組んできた。掲げた基本施策は「『技術の日機装』の確立」と「成長に向けた基盤強化と収益力の向上」の2つだ。まず、手を付けたのは事業改革。当初の2016~17年における売上収益は厳しかったものの、2018年には改革の手ごたえを感じ始めたという。
「しかし、営業手法は昔ながらのものでした」横山副本部長は述懐する。メディカル事業本部の営業社員は、現場で透析を担当する臨床工学技士や看護師ら現場スタッフへのルーティン営業をこなしていた。もちろん、このやり方でも現場のお客様の一定の評価は得られる。しかし医療事業の経営環境も大きく変わった。
「確かに現場スタッフの声は大事です。しかし、現場の声だけでは高価な透析装置の導入や継続の決め手にはならない。競合他社はどんどん経営層にアプローチし、コネクションを作っていました。結果、個別の案件で負けが目立つようになってきたのです」
訪問回数を増やしたり、説明の時間を多く取ったりしても契約には繋がらない。「これまでのやり方」が通用しないことに、現場は疲弊し、社員の離職が目立つようになった。ここで問題だったのは「会社として確固たる営業手法」が確立されていなかったことだ。
時代の変化と社員の意識の綻び、木下取締役は明確な危機を感じていた。
リブ・コンサルティングが、日機装株式会社とご縁をいただいたのは、そんな時であった。
木下取締役は、実は最初は気乗りしなかったという。
「またコンサルティング会社か。そんな気持ちでしたね」
それには理由がある。これまでも、多くのコンサルティング会社に営業変革の要望を伝えてきた。しかし結局は、基本的な社員教育に話が終始してしまったのだ。
「われわれが求めているのはそんなものではない」木下取締役は、コンサルティングそのものに失望していた。
営業変革を実現するためには組織の強化が必要となるが、具体的なニーズとして幹部教育が顕在化されることが多い。しかし幹部教育だけでは組織の変革にはつながらない。営業組織変革において大事なことは、組織内での主体的な変革を引き出すための伴走にある。
この度、なぜリブ・コンサルティングとご契約いただいたのかを木下取締役にお聞きした。
「われわれの思いに対して、企業文化を大事にしながらも、どういう風に取り組むかをしっかりと提案してきた。やりっぱなしじゃなくて、ちゃんとパートナーとして伴走してもらえると感じたからです。今までのコンサルティング会社とは違うと思いましたね」
まず必要なのは幹部メンバーの意識合わせ
日機装のメディカル事業本部は、事業本部長である木下取締役と横山副本部長、その下の職位は部長、そして課長職にあたるグループリーダーという組織である。
「当時は組織変更したばかりでした。よりスピーディーな意思伝達を図るため、それまで独立していた営業本部を事業本部の下に組み入れたのです。」
横山副本部長は当時を振り返った。
「事業本部と営業本部を一体化して、同じ方向を向いて進む必要があったための改組ですが、営業担当からしたらどうでしょう。自分たちの組織がなくなってしまい、事業本部に所属することが、モチベーションダウンにつながっていました」
最終的には一般社員まで経営戦略を浸透させる前に、まずは幹部社員がどのような認識でいるのかを探る必要があった。組織内を主導する幹部の目線が合ってないと、変革を進めることは困難だからである。どういった形で行うべきかミーティングを重ね、変革への想いを実現する形で提案したのが「幹部合宿」であった。懇親会を入れることで、さまざまな事柄についても、ざっくばらんに腹を割って話し合う機会にもなる。
「いま思えば、合宿が変革の起点でしたね。変革チームのチームビルディングになりました」
「経営幹部合宿」で何を行ったか
経営幹部合宿は、「事業本部のありたい姿・あるべき姿(事業戦略・組織戦略)の議論および現状を把握したうえでの組織・人材における優先して解決すべき課題について幹部で共通認識にし、一枚岩になること」を目的とした。
リブ・コンサルティングでは、ありたい姿(ビジョン)を「5つの成果」、すなわち「業績」「CIS(顧客感動満足)」「EIS(社員感動満足)」「人財育成」「よりよい仕組み」のレベルをバランスよく高めていくことであると定義している。
「合宿は、外部環境や自社と組織をどのようにとらえているかを、ワークショップ形式で改めて考え、79期(2019年度)の方針と戦略を解説という段階を踏んで、他社事例をもとに『5つの成果』について議論するという流れで行われました。」
横山副本部長は語った。
「わかったことが2つありました。1つ目は、部長職以上の幹部社員は、わたしたちと同様の危機感を持っていたこと。そして、2つ目は、当社が優先しているのは『業績』『CIS(顧客感動満足)』であり、『EIS(社員感動満足)』の認識がほとんどなかったことです。
合宿では『EISってそもそも何の意味ですか?』『本当に重要なんですか』という状況でした。禅問答のようなやり取りが、懇親会まで続いたんです。リブ・コンサルティングは、参加者に対して粘り強く、真摯に説明を重ねてくれました。われわれが目指す目標の『業績』『CIS(顧客感動満足)』は、『よりよい仕組み』によって行われる『人材育成』からの『EIS(社員感動満足)』の上に成り立つものだと。おかげで皆に『5つの成果』の価値の連鎖が腹落ちし、2日目にはガラッと変わりましたね」
「経営幹部合宿は、きっかけとしてとても良かったですね。環境変化を共通の認識とした同一の危機感を醸成することに成功し、『5つの成果』もみんなで確認し合うようになりました。」
木下取締役も賛同した。そして、こう付け足した。
「実は、この合宿前まで改革にいちばん否定的だったところが、今ではもっともうまく回っているんですよ」
「仕組みづくり」を起点とした営業改革はどのように行われたのか?
次回はその内容についてお話していただいた内容を本記事続編にて公開いたします。