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再生可能エネルギーを効率的に活用するための方策VPP

EXECUTIVE SUMMARY

VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)とは、企業・自治体などが所有する生産設備や自家用発電設備、蓄電池やEV(電気自動車)など地域に分散しているエネルギーリソースを相互につなぎ、IoT技術を活用してコントロールすることで、まるで1つの発電所のように機能させる仕組みです。発電して余った電気は足りないところに回され、さらに余剰電力は蓄電に回されるなど、地域全体の発電量を分配して効率良く使うことで、再生可能エネルギーの有効利用を促すシステムとして注目されています。

VPPとは

通常、電力は火力発電所や水力発電所、原子力発電所などの大規模発電所で発電された電気が供給されています。しかし、東日本大震災の発生後、電力需給がひっ迫する事態が発生するようになりました。それ以前は、省エネを強化することで電力のひっ迫を回避してきたのですが、それだけでは不十分だと考え、電力の需給バランスを意識したエネルギー管理の必要性が認識されるようになったのです。加えて、震災後に太陽光発電などの再エネの導入が大きく進みました。ただ、こういった再エネは天候などによって発電量が左右されるために供給量を制御することができません。

なぜ、これほど電力の需給バランスを意識しなければならないかというと、電力需給は「同時同量」が原則だからです。一致していないと電気の品質(周波数)が乱れ、電気を正常に供給することができなくなります。2018年に発生した北海道全域のブラックアウトも電力需給のバランスが崩壊したことが影響しています。

日本のモノづくりの精度が非常に高い理由の1つも、この電力品質の高さにあります。海外へ行くと停電したり、電球が点滅したりすることは珍しくありません。これは、電気の品質が下がっていることが原因の1つです。一方、日本では電力会社が精度高く制御しているおかげで電気の品質が高くなり、生産設備の性能をフルに引き出すことができるため、精度の高いモノをつくることができるのです。

しかし、電力の品質を高く保つのは並大抵の技術ではありません。そこへ再エネなど供給量が不安定なエネルギーが加わったため、電力需給調整に活用できる新たなエネルギーリソースを使ったエネルギー管理の必要性が高まったというわけです。
この新たなエネルギーリソースとして白羽の矢が立ったのが、太陽光発電や家庭用燃料電池などのコージェネレーション、蓄電池、そして、EVなど、地域のそこかしこに分散しているリソースでした。

VPPのイメージ

出典:経済産業省資源エネルギー庁より

これら一つひとつは小規模ですが、IoTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術によってこれらを束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することによって、あたかも一つの大規模発電所のように機能させることをVPPといい、VPPによって、電力需給の調整力やインバランス回避、出力抑制回避、電気料金削減といった価値を提供するサービスを『エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)』といいます。

ERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)のイメージ

出典:経済産業省資源エネルギー庁より

ちなみに、インバランスとは電力の需要量と供給量の差分のことです。実は、小売電気事業者は一般送配電事業者に電力の需要量や発電量を想定した計画値をあらかじめ提出しています。その後、実際に使用・発電された需要量や発電量の実績を比べたときの差分(インバランス)に対して、一般送配電事業者から請求や支払いが行われます。これも「同時同量」を精度高く制御するための仕組みの1つといえます。

アグリゲートした電力を取引できる

VPPを制御するポジションには2つあります。1つは、需要家とVPPサービス契約を直接締結してリソースの制御を行う『リソースアグリゲーター』です。もう1つは、このリソースアグリゲーターが制御している電力を束ねて、一般送配電事業者や小売電気事業者と取引を行う事業者である『アグリゲーションコーディネーター』です。この両者の役割をまとめて、『アグリゲーター』と呼ぶこともあります。では、アグリゲーターは何をコントロールしているのかというと『上げ下げDR』ということになります。『上げ下げDR』とは、需要側のリソースをコントロールすることで需給バランスを図る手法です。

ディマンドリスポンスについて

出典:経済産業省資源エネルギー庁より

例えば、供給側が過剰になったときは、リソースとしてつながっているEVや蓄電
池で過剰分を充電し(上げDR)、需要が上回ったときはEVの充電や生産設備の稼働を停止して需要を抑えます(下げDR)。このような『上げ下げDR』に対応する需要家との間で契約を結び、指令に従った需要家にインセンティブを払うDRをインセンティブ型DRといいます。

アグリゲーターは、こういった調整力を電力市場で取引することもできます。VPPを活用できる電力市場として「将来の供給力(キロワット)」を取引するのが「容量市場」で、電気の需要と供給を一致させるために必要な電力「調整力(デルタキロワット)」を全国的に取引するのが需給調整市場です。

容量市場は、電気が必要なときに発電できる能力(供給力)を提供して、供給力の提供に対して対価が得られるとあらかじめ想定できるようになる仕組みです。何か回りくどい表現ですが、実はそこに容量市場の必要性が隠されています。電力の需給バランスの調整には、すぐに発電できる火力発電が使われています。しかし、老朽化が進むと新たに発電施設を建設しなければなりません。それには莫大な投資と年単位の時間が必要です。ところが、電力自由化後、電源投資は市場取引や市場価格を指標とした相対取引の中で回収しなければならなくなりました。

要は、先の見通しが立ちにくいため長期間に及ぶ投資がしづらくなり、需給バランス調整に欠かせない発電所がつくれなくなる可能性が出てきたのです。このような事態を是正して、発電所建設に投資が行えるよう、4年後に必要になる電力を入札によって購入できるようにしたのが容量市場というわけです。これによって4年後に入ってくるお金が見通せるため、安心して投資が行えるようになります。その最初の入札が2020 年度に行われ、24年度に最初の実需給が行われることになっています。

容量市場の仕組み

出典:関西電力HPより

一方、調整力を取引する需給調整市場とは、文字通り需要と供給を一致させるため、需要に対して供給が足りないときは需要を減らして対応するといった調整力を取引しています。こちらの市場は応動時間がもっとも長い「三次調整力②」が
2021年度から取引が開始され、2022年4月から「三次調整力①」が、2024 年度にはすべての調整力の取り引きが開始される予定になっています。なぜ、両市場について説明したのかというと、これまで何度も出てきた「調整力」を使ったマネタイズというのが、これら市場での取引を指していたからです。ただ、EVをVPPに活用する取り組みはまだ実証段階にあり、社会実装されるまでには今しばらくの時間が必要だと考えられます。そして、今後、実証が進んで実装フェーズに入っていったとき、事業化のポイントになってくるのは、需給調整とEV利用はどちらの価値が高いのかという点です。

EVを調整力のリソースとしてVPPに組み込むことで利益を得ることと、モビリティとしてEVを活用できないという不便さをどこまで許容できるのかというバランスをどこで図るのかは課題になってくると考えます。例えば、使えないことが数日前に確定するのであれば、それに応じてスケジュールを組むことも可能ですが、当日50分前に使えないとなったら受け入れられるのかといった話です。その点、交換式バッテリーであれば、EV利用者のユーザビリティを損なうことがないため、VPPのEV利用における課題解決の一つとしても注目されています。

参考:三次調整力とは

一般送配電事業者が調整力として活用する電源は、周波数を制御する一次調整力、周波数を基準に回復させる二次調整力、需給バランスを調整する三次調整力があります。三次調整力①は経済的に需給調整を行う高速枠の調整力。 応動時間は15分以内、継続時間は商品ブロック時間(3時間)、三次調整力②は経済的に需給調整を行う低速枠の調整力。 応動時間は45分以内、継続時間は商品ブロック時間(3時間)を指します。

参考:用語解説「調整力」(JEMA)

UPDATE
2023.06.02
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