COLUMN
【LiB Mobility経営 vol.14】
社員と会社で良い未来を目指す次代のカーディーラー経営
株式会社神戸マツダは、兵庫県全域を地場として、マツダ車、ジャガー、ランドローバーの新車と中古車の販売を手掛けるカーディーラー。マツダから「経営優秀賞」を受賞し、「健康経営優良法人」のホワイト500に認定される優良企業であるだけでなく、10年後を見据えた自社の姿を描く中期計画「バリュー・チェンジャー」を策定し、コミュニティバスの運行を通じた地域MaaSや、ステークホルダー全てに幸せを届ける「5HAPPPY」を掲げる社会貢献に力を入れている。カーディーラーの枠にとどまることなく、新しいことに挑戦していく意図と意義について話を伺った。
イベントを通じて地域の接点を強化
LiB 2021年から中期計画「バリューチェンジャー(VC)」が進行中です。VCの特徴について教えてください。
株式会社神戸マツダ
代表取締役社長 橋本 覚 氏
VCは10年先を見据えた中長期の経営計画で、今年が2年目です。その前の中計は「創新」で、これも9年間で取り組んできました。VCは、2030年の自分たちのあり方想像し、その姿に近づくためにはどうするか、どんなことに、どうやって取り組むかをバックキャスティングの考え方で明らかにした計画です。
LiB VCがスタートし、すでに「イベントスクエア」や「みんなのバス」など新たな取り組みに着手しています。どのような理由で始まった取り組みなのですか。
イベントスクエアは、ファン向けのイベントを常に行っている店舗があれば、ディーラーに足を運ぶハードルが低くでき、いろいろな人に来てもらえるのではないかと考えたことがきっかけでした。イベントは、親子向けの整備体験や、女の子に人気のショールームアテンダント体験などがあります。他にもクラフトデザイン、塗り絵教室、地元のFM局との連携で歌手を呼んだり、公開収録をしたり、毎週さまざまなイベントを行っています。
LiB 来店する人が増えるほどお客さまのデータも貯まりますね。
そうですね。イベントで初めて接点ができたお客さまも多く、これからデータをどう利活用するかがテーマです。
LiB データの利活用では営業部門などがお客さま情報の入力を面倒に感じてしまい、きちんと使えるデータベースにならないという課題があります。
当社もかつてはそうでした。65歳以上のお客さまにDMを出そうと考えた時、蓄積しているはずのデータを見てみたら生年月日が分かるお客様が3割しかいないということがあったのです。データの入力など、できることをちゃんとやることは大事です。データが貯まれば、趣味という切り口でお客さまをグルーピングしたり、趣味のイベントでお客さま同士をつなげることもできます。そのような積み重ねによってファンも増えるでしょう。ペルソナを踏まえたマーケティングも展開できます。
誰かの役に立つ価値を全員が理解する
LiB 「みんなのバス」はどのようにしてスタートしたのですか。
「みんなのバス」は2020年12月にスタートしましたが、構想そのものは当社創業70周年の2011年前後からありました。縦長の兵庫区を南北に結ぶ交通が不足していると聞いていたことがきっかけでコミュニティバスを走らせたいと思ったのです。ただ、停留所1つ作るにしても、神戸市、交通局、警察などの許可が必要で、縦割り行政と規制の多さがハードルになってしまい、その時は実現できませんでした。その後、神戸市交通局出身の兵庫区長と知り合うことができ、相談してみたところ「それは面白い」と評価され、尽力していただきました。許可が取れて、バスの運行会社も紹介してもらい、構想から10年越しでスタートすることができたのです。
LiB 当時から社会の役に立とうという意識は強かったのですか。
「5HAPPY」を掲げたのが、ちょうど創業70周年の頃です。
「5HAPPY」は、何のために仕事をするか、という問いの答えとなるもので、我々は人々を幸せにするための仕事をしたいと考えていますし、ここで言う人々は、お客様、社会と環境、地域、協力者であるパートナー、社員とその家族です。つまり、我々の周りに向けて5つの幸せを提供することが[5HAPPY」で、「創新」の頃から「5HAPPY」の実現に取り組み続けています。
LiB ステークホルダーとの向き合い方が「5HAPPY」として言語化されると社会貢献の取り組みも推進しやすくなりますね。
誰かの役に立つという企業文化が醸成されやすくなったと思います。70周年の時も、普通なら記念に社員全員でハワイに行こう、といった内容になるのでしょうが、その年は東日本大震災があり、我々はバス3台に乗り込んで東北復興を手伝いに行きました。神戸も震災被害を受けた街ですから、その時の恩返しをしたいという気持ちも根底にあったのだと思います。今も東北では陸前高田氏などでのボランティアを続けていますし、同じように自然災害を受けた兵庫県丹波市、広島県広島市なども訪れています。
LiB 社会貢献は重要ですが、現場目線で見ると目の前の業務と両立しなければならない難しさもあります。会社全体で推進できた理由は何だったのですか。
「みんなのバス」についてはトヨタ・モビリティ基金の助成金が背中を押してくれることになりました。メーカーに関係なくこれだけの助成金を出すトヨタ自動車の度量の大きさは素晴らしいと思います。社内に向けては、地域のため、社会のためと言い続けることが大事ですし、言うだけではなく、行動することも大事です。時間はかかりましたが、バス運行もできましたし、今年から保育園も始めました。このような取り組みを通じて、社員は「社長、本気だな」「本当にやるのだな」と思ってくれますし、その価値も感じてくれています。創新が終わる頃、メーカーの従業員意識調査がありました。その中に「我が社は社会に貢献していると思うか」というと問いがあり、そう思うと答えた人の割合が当社はダントツに高かったのです。
LiB 社会のために活動する意義を社員の方々にきちんと理解しているわけですね。
そう思っています。もう1つ影響が大きかったのは、「創新」の時に原田教育研究所の「原田メソッド」を全社で受講したことです。これは「5HAPPY」とすごく合っていて、根本的な考え方として利他の心を持つ大切さを学びます。私も利他の経営とよく言いますが、人生の目的はなんだろう、働く目的はなんだろうとメソッドの中で考えていくと、給料をもらうと言う目的もあるのですが、お客さんに喜んでもらう、家族を幸せにしたい、両親の笑顔を見たいといった価値が分かるようになってきます。
自発的に動く風土と仕組みを作る
LiB 車販以外の取り組みは従来の組織マネジメントでは通用しない部分もあると思います。挑戦できる風土づくりはどうすればよいと思いますか。
数字を追いかけ過ぎないことが大事です。私は数字は結果に過ぎないと思っています。一橋ビジネススクールの楠木建さんが言っていた「数字より筋」で、筋、つまりストーリーがあることが大事です。社員が苦しみ、健康を害しながら数字上げる会社で働きたいと思う人はいないでしょう。数字に至るまでの過程を見る必要がありますし、当社が「健康経営優良法人」のホワイト500に選ばれている理由も、そのような考えと取り組みがあるからだと思っています。
LiB 新たな事業や施策の内容は本部が企画しているのですか。
ボランティアや「みんなのバス」などは本部ですが、店舗から生まれた取り組みもあります。例えば、伊丹店や姫路東店などでは近くの小学校の登下校時に社員が黄色い旗を持って子供の見守り活動をやっています。これは店舗の発案で、店長が警察に行って話を聞いたり、近隣の学校の校長先生に会いに行ったりしてスタートしました。
LiB 自発的に動けるところが素晴らしいですね。
結局、自発的でなければ面白くなく、続かないと思います。その一例として、当社は5年ほど前に奨励金制度をやめました。と言うのも、1台売ったらいくらか報酬が出るというのは外発的な動機付けて、大事なのは内発的動機だと考えたからです。また、より自発的に動きやすくするために、店舗が自分たちの意思でお金を使える仕組みとして「感動ファンド」を作っています。感動ファンドは、お客さまのためなら何にでも使って良いお金で、納車式で花束を送る、誕生日に花を送るとか、その月の誕生日のお客さまを呼んでお祝いをしたり、イベントをするといったことを各店舗で行っています。
LiB 仕組みの面でも工夫しているのですね。評価制度などについてはどのような工夫がありますか。
働き方という点では、5月からジョブ型の組織作りに取り組み始め、これはVCの柱になると思っています。評価や報酬などについては、当社は社員に対して、社員の換算時給を倍増すると約束しています。働く時間を減らし、休みを増やし、給料を増やすことによって時給換算を高くするという意味で、2030年までに休日は107日から120日まで増やし、報酬制度では今年のベースアップで1万円以上増やしました。これも「社長、本気だな」と思ってもらうためのものです。人件費は経費という考え方もあります。
LiB 社員の育成や社内制度も本気さが伝わることで信頼関係が構築できますね。
そう思います。私は常々、世界中の誰よりも社員を愛する社長でいたいと思っていますし、労使協議会でも組合に向けてそう断言しています。細かなことかもしれませんが、社員1人1人の誕生日にはメッセージを送り、これは20年間くらい続けています、今までは手書きで、ハーゲンダッツのアイスのチケットを贈っていましたが、今はDXというほどではありませんが、ボイスメッセージに変えて、ギフトもモバイルギフトにしました。
LiB 神戸マツダの将来のあり方はどのようにイメージしていますか。
当社はバーパスとして、「みんなに寄り添い付加価値を提供する5HAPPYモビリティカンパニー」を掲げています。これを忘れずにいたいですし、付加価値を提供し続けていかない限り、将来は決して安泰ではないと思っています。ただ、あり方についてはまだ分からない部分もあります。2050年にはネット契約で車を買うのが当たり前になり、カーディーラー業務が変わるかもしれません。未来が分からないからもがいているのが実態ですし、よりよい未来に向かうために、個々の社員の力と会社の信頼関係が大事だと思います。
- UPDATE
- 2022.07.12