COLUMN
【LiB Mobility経営 vol.12】
挑戦を繰り返し人財を育てる時代のカーディーラー経営とは
兵庫県尼崎市に本社を置くネッツトヨタ神戸株式会社は、地域に根差したカーディーラー経営を体現する会社。県内19店舗がそれぞれ主体となって、各自治体との連携、移動支援サービスの提供、クルマのファンづくりに向けた各種イベント等々、お客様との接点を大事に地域に向けた様々な活動を広げ商圏内の支持を獲得している。猪名川町ではオンデマンド交通「チョイソコ」も展開し、地域の交通不便の解消にも貢献している。地域と共生しながら成長する同社の戦略について伺った。
地域に恩返しをしよう
LiB ネッツトヨタ神戸様は、乗合型オンデマンド交通の「チョイソコ」ほか、店舗を構えるそれぞれの地域に向けて様々な活動を展開しています。どんなきっかけがあったのですか。
代表取締役社長 四宮 康次郎 氏
設立50周年を迎えるにあたって、これから我々はどういう会社を目指せば良いのだろうかと考えはじめたことがきっかけでした。当時、16店舗の店長たちと共にネッツトヨタ神戸の今後のあり方を考える合宿などを行いながら、1年ほど議論を重ねました。その時にたどり着いた答えが、地域への恩返しです。50 年にわたってこの土地で商売をさせていただいていることへの感謝と、地域と一緒に成長していくことを目指し、地域のためにできることを考えて実行していこうと決まったのです。
LiB どのようなことから取り組み始めたのですか。
そこが実は問題で、「地域のために」と号令をかけたまでは良いのですが、「で、何するの?」と迷うわけです。そこで、私がたまたま学生の頃にテニスをしていましたので、明石市出身の車いすテニス選手で、東京パラリンピックで銀メダルを獲得した上地結衣さんの支援をはじめました。店長たちの中にも過去にスポーツをやっていた人が何人かいましたので、地元のスポーツチームを支援したり、知り合いが監督をしているチームを支援したり、そこから活動が広がっていきました。
LiB 車を主体とした支援ではなかったのですね。
他社様の取り組み事例を参考に、車を寄付したりリースする案を検討しましたが、それでは当社らしくないと思いました。現在は「チョイソコ」を始めたり、店舗にてミニ四駆のイベントを行うなど車と関連する取り組みも行っていますが、根底には、車を売ることよりも地域の人たちとのつながりを深めたいという思いがあります
LiB ネッツトヨタ神戸様のオリジナルミニ四駆があるそうですね。
はい。タミヤさまとアライアンスを組んで親子参加型のイベントを行っていく中で自社オリジナルモデルが出来ました。親子で店舗に来てもらうという点では、店舗併設で、キッズコーナーがあるカフェも営業しています。幼稚園や保育園が終わると近隣のお母さんと子供たちが来てくれて、お誕生日会やクリスマス会でも利用してくれています。
LiB 「チョイソコ」はどのような経緯で始めることになったのですか。
NPO団体から高齢者支援の話を受け、何かできることがないだろうかと考えていたときに、たまたまNHKのニュース番組で「チョイソコ」を知りました。これはいいと思い、さっそく現地に見に行き、仕組みや運用について教わり、サービスの生みの親であるアイシン様にも色々と話を聞きました。その内容を踏まえて猪名川町と話をして、資金についてはトヨタ・モビリティ基金に申請し、当社が主体となる事業として2020年5月から「チョイソコいながわ」の実証実験を行うこととなりました。
店舗主体でスピードと多様性を重視
LiB 各店舗の取り組みはどのように舵取りしているのですか。
スタート当初から、地域のため、というテーマだけ共有し、ほぼ全ての施策を店長たちが考えて実行しています。地域向けの施策を本社主導で展開している会社もありますが、ネッツトヨタ神戸の場合は本社向けのプレゼンをしたり稟議書を通したりすることもなく、店舗が主体で本社はサポートです。
LiB 店舗主体にした狙いを教えてください。
まず、店舗主体にすることで店舗がやってみたいと思ったことを、スピード感を持って実行できます。また、地域向けの施策は当社として前例がないことが多いため、企画の段階で私が良し悪しを判断することはできないと思っています。同じ理由で、施策の振り返りも各店舗に任せています。私や本社が意見を出すと私たちが好むイベントになってしまいますので、各店舗でどんな反応があったのかを踏まえて、お客さまが喜ぶ改善案を考えてもらっています。
LiB 社員の皆さんに企画を考える素養があったのでしょうか。
あると思っています。例えば、ネッツ店とビスタ店を融合して新ネッツ店に再編となった時も、各店舗の店長が市場でどうやって戦っていくか考え、イベント案などを出してくれました。
企画などを考える力はそのような経験を通じて身についてきましたし、自分たちでやるという意志も持っています。また、他社さまの取り組みと違う点として、イベントなどの施策で車が何台売れたか、どれくらい売れそうか、といったことは聞きません。そこに紐づけると車を売る施策という発想となってしまうからです。我々としては、目先の販売台数よりも将来のお客さまを増やしていくことのほうが大事だと思っていますので、施策もその視点で考えてもらっています。
LiB カーディーラー業界では、地域貢献に取り組みたいが人手が足りないという声もあります。通常業務と地域向けの施策兼務で取り組むポイントはどんなことでしょうか。
自分の右腕となって活躍してくれる後輩や部下を育成することが大事です。店長だけの力で店舗を回していくことはできませんので、No.2を育成します。No.2は店長を支えながら、自分の右腕となるNo.3を育成します。このようにして全員が自分の右腕を育てていくことで、仮に誰かが休んだり抜けたりしても店舗としては業務がきちんと回るようになります。これはコロナ禍でも大事なことで、1つの業務を複数の社員で共有し、メインとサブがいるような状態にすることによって「この人にしかできない」「あの担当者にしかわからない」といった属人的な状態を変え、安定した店舗運営を実現することに結び付きます。
LiB 既存事業と地域向けの施策はどんなシナジーが期待できますか。
地域の方々との接点が増えることにより、将来のお客さまが増えます。例えば、ミニ四駆のイベントは10歳くらいの小学生がメインで、一緒に参加した保護者の方々などが、子供が喜んでいるから、孫がいつも楽しんでいるからといった理由で、代替の時に当社を選んでくれます。ミニ四駆で遊んだ子供たちが、いずれ当社のお客さまになってくれる可能性もあるでしょう。また、購入には至らなくても、お店、カフェ、イベントなどに来てくれたお客さまが喜んでくれればスタッフも嬉しく感じます。それが仕事の楽しさにつながるのも良いことですし、イベントの企画や運営で能力を発揮する社員も多く「彼にこんな能力があったのか」「彼女にこんな発想力があるのか」など、社員の魅力をあらためて認識することもできます。
常に次の一歩を考え続ける
LiB 会社として目指している姿について教えてください。
2年前に社長になったときから、20年後を見据えた経営を実現しようと取り組んでいます。カーディーラー業界は、3年や5 年ではそれほど大きく変わらないでしょうが、20年も経てば大きく様変わりしているはずです。車の技術が向上し、事故がなくなり、修理も減っているかもしれません。今とは環境が大きく異なる中で、どうすれば車を買ってもらえるか考える必要がありますし、販売台数が落ちても別のところで収益が得られるような会社に変わっていく必要があります。その頃には私や今の店長たちは引退していますが、会社としては、今の20歳前後の新入社員がきちんと働ける場として、20年後も機能していないといけないのです。
LiB 地域とのつながりを深め続けていく上では、どのような人財が必要だと思いますか。
地元愛がある人財だと思います。以前、福島県で地元の高校生とディスカッションしたことがありました。彼らは小学生だった時に東日本大震災が起き、その後、一時的に福島県を離れましたが、高校で地元に戻ってきました。戻ってきた理由を聞くと「地元が好きだから」といいます。また、今後の進路についても「高校を卒業して地元で働くつもり」といいます。その話を聞いて、地域の発展には地元愛を持つ人が重要なのだと思いました。私自身も本社がある尼崎市生まれで、この町と近隣が好きです。社員の中にも地元のためにと考えている人が多くいます。地域と会社が両方発展していくためには、そういう人の力が必要だと感じます。
LiB 地域のためにいろいろな案を考える店長さんたちが、まさにそのタイプの人財といえますね。
そう思います。あとは、自主自律で、考えたことを実行していくことも大事です。その過程では失敗もするでしょうが、失敗を経験と捉えて、挑戦し続けられる人が必要だと思います。実際、地域向けのイベントなどは新しい挑戦の繰り返しですから、経験が大事ですし、経験するから次の挑戦ができます。もちろん、イベントなどが成功すれば、それは成功体験として良いですし自信にもなるわけですが、成功事例は他社も真似できます。我々は挑戦する意欲を持って、真似できない領域に入っていく必要があります。ですから、私はいつも店舗の取り組みなどを聞いた後に、「次はどうするの?」と聞いています。1つ成功して終わりではなく、常に次を考えて、考働していくことが大事だと思っています。
LiB 次の一歩を踏み出していくことが社員の皆さんの成長にもつながりますね。
そうですね。成長という点では、一緒にイベントなどを行う会社とも、夢があることに取り組みながらお互いに成長していけると思っています。どの業界も、お客さまが来るのを待っているだけでは商売になりません。お互いができることを考えて、協力しながら、地域の中で一緒に成長していきたいと思っています。
LiB ありがとうございました。
- UPDATE
- 2022.04.05