COLUMN
【LiB Mobility経営 vol.9】
MaaS市場と地域における次代のカーディーラーの役割とは
株式会社AMANEは、『モビリティサービス×まちの空間をアップデートするまちづくり』をミッションに、MaaS・モビリティサービス・交通結節点・公共空間(広場、道路)・スマートシティ等をテーマに事業開発を行うコンサルティング企業。鉄道会社のMaaS実装コンサルティングや、トヨタファイナンシャルサービス×Mellowのアライアンス支援、HONDA×dwangoのアライアンス支援、カー シェアリングアプリ開発等々の実績を保有する。代表取締役の井上佳三氏は、ひと・まち・モビリティがテーマのメディア「LIGARE」を運営する株式会 社自動車新聞社の代表取締役も兼任されており、自動車業界の川上から川下まで精通している。今回は井上佳三氏に、MaaS市場と今後のカー ディーラーの役割について話を伺った。
MaaS支援に着手した背景
LiB 井上社長は、自動車新聞社にて業界向けメディア事業を手がける一方、AMANEの代表としてMaaSの支援も行っています。その背景について教えてください。
代表取締役 井上 佳三 氏
自動車新聞社は自動車業界各社に向けたBtoBのメディ アで、タクシー、バス、トラック、自動車整備、レンタカー、自動車ディーラーなど業界内の様々な人と接点を持ちます。その中で強く感じたのは、「戦うために必要な武器」を求めている経営層が多いということでした。具体的には、情報、パートナー、人材、ITツールを導入するスキルなどが不足していることが多く、そこで、メディアの役割である「伝える」から、企業とニーズを「つなぐ」ことや、新たな価値を「つくる」ことも視野に入れた事業を展開していく必要があると考えました。この「つくる」の部分、価値創造を担うのがAMANEです。ベースにあるのは自動車業界内のつながりですが、MaaSは小売店や自治体など業界の枠を超えて実現していきます。社名やサービスに自動車という言葉が入ると業界を限定してしまう可能性があるので、価値の創造や、その結果として暮らしが潤うといったことが「あまねく人々」に行き渡らせるということで、AMANEという社名をつけています。
LiB MaaSの注目度が高まり、言葉が一人歩きしているところも見受けられます。井上社長はMaaSをどう定義していますか。
従来のモビリティ業界では、自動車、バス、タクシー、鉄道といった各社がそれぞれのサービスを展開してきました 。自動車であれば、自動車ディーラーの他にタクシーやレンタカーがあり、最近ではシェアリングサービスもあります。このようなサービスを、移動の目的地はどこか、移動に伴う課題は何か、といった視点で1つにまとめるのがMaaSだと思っています。
MaaS市場の現状
LiB どんな業界の、どんな企業がMaaS市場のプレーヤーとなっているのですか。
業界は幅広く、鉄道などのインフラ系の企業もしていますし、不動産デベロッパーやエネルギー関連の企業も参入しています。もちろん自動車関連企業も多く、メーカー、OEM、ディーラーなども参入しています。我々がMaaS支援の過程で意見交換するレベルで言えば、広告代理店、商社、コンサルティング会社なども入ります。細かなところでは、道路標識の会社やコールセンターの会社などとも意見交換しています。MaaSは事業領域が広く、移動手段としてのサービスに生活サービスを加えたビヨンドMaaSまで 含めると、さらに領域が広がります。前述した業界では「自分たちの事業にも将来的に関連するのではないか」「自分たちの顧客も関わる領域なのではないか」という考えがあり、それがプレーヤー層の拡大につながっている要因の1つになっています。
LiB 地域に根差すカーディーラーは、どのようなプレーヤーと組むのが良いと思いますか。
可能性は色々と考えられますが、自動車という点から考えると、地 域でモビリティサービスを提供できる企業は、ディーラーのほか、タクシー会社、バス会社、リース会社などです。そういった企業とともに、地域の人たちの移動の目的地となるスーパーマーケットやロードサイドの店舗などは組みやすいのではないかと思います。例えば、地域の人たちの生活では、医療と買い物のニーズはどこにもあります。この2点が不自由な場合、自治体も地域課題として認識しているはずですし、地域の住民の方々も困っているでしょうから、移動手段の提供先になりやすいと思います。または、物流です。ただ、オンデマンド交通は時間指定があるサービスが難しく、地域ではすでに大手の宅配便サービスがネットワークを持っているので、個配ではなく、地元の農家と小売店を結ぶ物流とか、小口なら弁当宅配などが向いていると思います。
LiB 地域の生活や物流のニーズに対して移動手段を組み合わせていくということですね。
はい。生活ニーズで言えば、目的地となるスーパーに向けて共同でバスを走らせるようなケースです。消費者と直接的に接しない部分でも、例えば、物流面で小売店向けの物流をつないだり、地域の農家と組んで一緒に野菜を納品する仕組みを作ったりできるかもしれません。スーパーに対しても、人を運ぶだけでなく、売り場作りなどに関わっていくこともできます。ただ、問題は事業として成り立つかどうかだと思います。そのための施策として、スポンサー広告をつけるなど事業の運営費を出してくれる人を多く巻き込んでいく必要があります。
LiB その点はカーディーラーでも課題に感じている企業が多く、地域課題を認識している一方で、MaaSの事業性はどうかという不安があります。
ビヨンドMaaSを見据えた生活ニーズ向けのサービスは事業化できる可能性はあると思いますが、1社(の資本)のみで実現していくのは難しいでしょう。また、利益を考えるのであれば、電動車が増えていく過程でエネルギービジネスに参入していくことも検討したほ うが良いかもしれません。例えば、地域の企業向けと電力販売の契約を結び、安定した収入を確保したり、個人向けに販売した電動車を蓄電池として活用するといった案を検討してみるということです。
カーディーラーのメリット
LiB 事業化以外の面では、MaaSはカーディーラーにとってどのようなメリットが期待できますか。
顧客接点が増えることは大きなメリットだと思います。カーディーラーは基本的には自動車販売を通じて顧客と接しますが、MaaSで地域の人の生活を支えることにより、その関係性が広がっていく可能性があります。というのも、生活に近いところでサービスを展開することで、従来にない切り口で消費者の困りごとを確認できるようになるはずだからです。例えば、リフォームのニーズがある、介護のニーズが大きいといったことが見えてくるかもしれません。街中に薬局が少なくて困っているといった課題が見えてくることもあります。事業としては副業的になりますが、そういったニーズを踏まえた上で事業として解決策を提供するという考え方はあるかなと思っています。
LiB 事業の具体的な計画はどのように作っていくのですか。
オンデマンド交通を例にすると、地図を広げることによって目的地となりうる店舗などが地域にどれだけあり、どこにあるかがわかります。また、どのエリアに公共の交通機関があり、どこが交通空白地になっているかも見えていきます。このような情報を整理しながら、「ここは交通空白地で移動のニーズがありそうだ」「この店やこの病院がパートナーになるかもしれない」といったことが見えてきます。地域の地図からニーズや事業化の可能性を読み解きながら、人流と物流をセットで考え、販売店を中心に検討していきます。ニーズが見えてきたら、さらに深く分析します。例えば、移動のニーズは変化します。朝は通勤がありますから目的地の1つである駅に向けて一方通行に流れますが、昼はその流れが止まり、病院へ行く人の流れや物流の流れが生まれます。オンデマンド交通はモビリティの中が空になる時間をできるだけ少なくすることが重要ですので、例えば、コンビニやスーパーの入出荷のタイミングなどを見ながら、地域内でのモビリティの動きを最適化していきます。そこまで見えたら、あとは利害関係者との調整です。
MaaS時代のカーディーラーの役割
LiB 今後の取り組みについて教えてください。
MaaS支援という点では、地域のニーズや困りごとを解決するためのコーディネイションに取り組んでいきたいと思っています。また、これまではモビリティサービスを中心としてきましたが、今後はインフラもセットにして、サービスとインフラを活用したエリアマネジメントにも取り組みたいと考えています。
LiB カーディーラーのMaaSの取り組みでも、地域内でのコーディネイションはできそうな気がします。
そう思います。カーディーラーが地域のニーズの真ん中に入り、コーディネイトすることは十分可能だと思います。例えば、地域ビジネスのマッチングを支援することができるかもしれませんし、店舗をオンデマンド交通の情報ポイントにすることもできます。地域の野菜の販売所にしたり、エネルギー契約の場として活用しても良いわけです。どのようなきっかけであれ、1回地域で話題の中心になり始めると自然と人が向き始めます。地域を面的に捉えることで、新たなにぎわいを創出できますし、そのようなエリアマネジメントを通じて、新しい切り口でエリアを開発し、地域の価値を向上させていく取り組みがこれから求められていくと思っています。
LiB カーディーラー側は店舗の使い方も再考する必要がありそうですね。
すでに多くのカーディーラーが実感しているように、車を売る事業だけで人を呼ぼうとしても限界があります。イベントや教室を開き、地域の人に足を運んでもらおうと取り組んでいるカーディーラーもあります。重要なのは、にぎわう場を作ることであり、そのために店舗をどう活用していくのか考えることだと思います。とくにデジタル化の時代では、これまで店舗で行ってきた業務が減り、効率化していきます。選択と集中の考え方で、サプライチェーンの中で店舗をどう活用していくか、地域内でどう攻めていくか、MaaSの中で誰に、どんなサービスを提供していくかといった戦略はこれから重要性を増していくだろうと思います。
LiB ありがとうございました。
- UPDATE
- 2021.12.07