COLUMN
【LiB Mobility経営 vol.4】
成長を続けるマイクロモビリティ市場におけるカーディーラーの新たな機会
glafitは、電動モーター駆動の2輪車(電動バイク)を製造・販売する和歌山発のベンチャー企業。まだマイクロモビリティという言葉が普及していなかった頃から短距離移動のニーズに目を向けてきた。移動を楽しくしたいという思いから生まれた同社の電動バイクは注目度が高く、取り扱い代理店も北海道から沖縄まで全国で増えている。
また、同社は創業の地である和歌山県にて地場の企業や自治体と協業しながら事業を進めている点にも特徴がある。
今回は、代表取締役の鳴海禎造氏を迎えて、マイクロモビリティがカーディーラー業界にもたらす可能性と、地域とつながるためのポイントを伺った。
マイクロモビリティのニーズと提供価値
LiB glafit 様は、マイクロモビリティの製造・販売でモビリティ業界に新しい変化をもたらしています。事業立ち上げの経緯を教えてください。
僕が事業を始めたのは今から 25 年以上前のことで、中古車販売からスタートし、新車販売、車の修理と整備、カスタマイズ、カスタマイズのパーツの製造と販売を手がけてきました。その中で、将来の事業の方向性を考えたときに、トヨタやホンダのような日本を代表する自動車メーカーになりたいと思いました。幅広く自動車関連の事業に関わってきて、最終的には自分たちが思い描いた乗り物を作り出したいと思ったのです。
LiB glafit 様が思い描く乗り物はどのようなものだったのですか。
本来、移動は楽しいものです。歴史を振り返っても、多くの人が乗り物に乗って移動することに憧れてきました。
テーマパークに行ってお金を払い、長時間待つのも、乗り物に乗ることを楽しむためです。こういったことを踏まえて、当社は「移動エンターテイメント」を企業理念に掲げて、移動を楽しめる乗り物を創造します。glad と fitを組み合わせた glafit という社名にも、いろいろな人が楽しみ、いろいろなシーンにフィットする移動体を生み出したいという思いを込めています。理想としては、通勤や通学がアトラクションのようになり、移動時に生まれる楽しさによって生活が豊かになるモビリティを追求しています。
LiB そこで開発したのが電動モーター駆動の2輪車だったのですね。
はい。大きな目標は日本を代表する自動車メーカーになることですが、いきなり車(4輪車)を作るのはハードルが高いため、最初のステップとして2輪車を作ろうと考えました。大手自動車メーカーも、4輪車の前に2輪車の製造からスタートしていますので、自分たちもそのステップに沿って大きな目標に近づいていこうと考えています。
LiB glafit 様のマイクロモビリティは、どのようなシーンで価値を発揮するのですか。
当社の製品は現時点で3機種あり、自転車型の GFR シリーズが2機種と、キックボード型の LOM が1機種です。これらはいずれも小型のパーソナルモビリティで、個人が短距離移動の手段として使うものです。
活用シーンは大きく2つあります。
1つは都市部での活用です。交通手段が発達している都市部では、車を使うほどではないくらいの短距離移動があります。また、車に乗ったり保有したりする場合は、住居の近くで駐車場が確保できない、移動先で駐車場が見つけづらいといった都市部ならではの課題もあります。その点、小型の電動モビリティであれば置く場所が確保でき、持ち運ぶこともできます。自転車より楽に移動でき、移動が楽しくなります。
もう1つは地方での活用です。地方は車移動がメインですが、例えば、釣りやアウトドアなどに出かけた時に、目的地までのラストワンマイルで車が使えないことがあります。目的地近くの駐車場に車を停めて、そこから先は歩いたり自転車を使ったりするといったケースです。そのような時に GFR や LOM を持っていけば、目的地までの移動手段を確保できます。車に代わる乗り物にするのではなく、車や電車といった既存の中長距離の移動手段とパーソナルモビリティの組み合わせで、移動を楽に、楽しくすることができます。
地域貢献は事業領域を超えた発想が大事
LiB 事業作りでは、和歌山県の企業と協業し、地域経済の発展に貢献しています。地域に根ざした経営という点でどのようなことを心がけているのですか。
glafit は、地域の既存企業、組織、人との関わりによって成立し、その関わりの中で新しい流れが生まれています。そのような関係性が作れていることには大変感謝していますし、見方を変えると、glafit が地域経済や地場の企業を巻き込むインキュベーション HUB になっていると思います。
また、協力いただいている会社のほとんどはモビリティ関連の会社ではありません。わかりやすい例として、当社の製品は、地域の写真現像機メーカーの工場の一部で製造しています。glafit を通じて、既存企業に向けた新規事業のきっかけを提供しているという面もあります。
LiB 地域との結びつきが強くなることで、会社、商品、サービスが認知され、やがて顧客として返ってくるケースはあるでしょうね。
そうですね。カーディーラー事業で言うと、和歌山県内はある大手メーカーの直営店が多いのですが、販売台数は地場のカーディーラーの方が上です。これも地域との結びつきが顧客獲得につながっているケースと言えるでしょう。直営店と地場の店を見分けてもらうために、地場のカーディーラーは自社のキャラクターを作っています。そのキャラを見て、消 費 者 は「この 店 は 地 場 のカーディーラー」と認知しているわけです。地域への貢献や応援でつながりを深めるのでれば、それが自社のアイデンティティの1つであることを知ってもらう方法の1つとして、キャラクターやアイコンなどを活用するのも良い方法だと思います。
マイクロモビリティはカーディーラーの新たな機会
LiB マイクロモビリティ市場の今後についてどう見ていますか。
伸びると思っています。理由としては、国内の人口減少によってコンパクトシティ化が進みます。その中で近距離移動のニーズが大きくなり、マイクロモビリティが価値を発揮する機会が増えるだろうと思っています。そう考えれば、カーディーラーも車以外に目を向ける意味が十分にあると思います。
LiB 人が減って車の販売台数も減っていくとすれば、マイクロモビリティなど新たな事業の可能性を模索する必要があるということですね。
はい。昨今は MaaS やシェアリングなど新たなモビリティサービスが生まれていますが、サービスの維持や管理をする人が不在、または不明確だと感じています。
サービスは放ったらかしでは育ちません。サービスのインフラとして地域のモビリティサービスを支えられるのは、自動車に関する知見と地域の信頼がある会社、つまり、カーディーラーが適任ではないかと思っています。
LiB カーディーラーが新たなサービスを提供する拠点になる、ということですか。
いいえ、例えばシェアリングサービスを作るとして、車の貸し出しはカーディーラーでなくてもできます。しかし、シェアする車の修理ができなければサービス全体として機能しません。そういったメンテナンスなどを担い、サービス全体の受け皿となれるのはカーディーラーだろうと思うのです。
当社の製品についても、販売の代理店をやりたいという問い合わせは多いのですが、メンテナンスは……となりがちです。1台修理するより、1台売る方が売り上げが大きいので、メンテナンスを避けたくなる気持ちはわかります。ただ、僕が事業を考えるのであれば、むしろメンテナンスに目を向けます。修理や整備のことを考えずに買ってしまった人は、購入後のメンテナンスで必ず困ります。そういった人たちが駆け込める避難場所になることが、本当の意味での困りごと解決だと思います。
販売台数が減れば営業スタッフなどの仕事も減ります。
スタッフが「整備はやったことがないからできない」と考え、会社が「整備士の数が限られているからマイクロモビリティの整備はできない」と考えてしまうと、そこから先の展開は生まれません。
新たなことに挑戦したり、そのために勉強したりするスタッフの意識を醸成しつつ、会社がスタッフの努力を正しく評価する仕組みを構築することが、人口と販売台数が減少する時代を生き抜く重要なポイントになるだろうと思います。
LiB 最後に今後の展望を教えてください。
会社としては、移動を楽しくできる会社として引き続き日本を代表する自動車メーカーを目指していきます。地域においては、和歌山県は上場企業が 10 社もないくらい少なく、仕事や働き先が不足しているという課題があります。大学も県内では限られ、進学する人は県外に出てしまい、そのまま就職してしまいます。
このような現状を踏まえると、地域に根ざして経営している我々は、地域出身の人たちの優良な働き先とならないといけません。電気を地産地消するように人材も地産地消できれば地域は活性化します。地元で就職先を探す人に選んでもらい、県外に出た人が U ターン就職してもらえる会社となり、地域を支えたいと思っています。
LiB ありがとうございました。
- UPDATE
- 2021.07.08