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【LiB Mobility経営 vol.3】
“MaaS”はなぜ儲からないのか?

EXECUTIVE SUMMARY

MaaSによって、人々の移動体験は大きく変わろうとしている。
国内においても都市部・地方部を問わず、様々なエリアでMaaSの取り組みが行われており、令和2年度「スマートモビリティチャレンジ」では合計52箇所の実証地域が採択されている。
地域の公共交通の衰退が叫ばれる中、MaaSの重要性は今後更に高まる事が予想されるが、その一方で国内においては未だ、採算ラインを超えている事業は決して多くない。
筆者も仕事柄、MaaS領域に関わる企業とのミーティングが多く、その中で最も頂く質問は、
「なぜ、MaaSは儲からないのか?どうすれば採算ラインを越えられるのか?」という質問である。
今回は、MaaSに取り組む事業者が抱えるこの課題に対して、解決の糸口を考えていきたい。

そもそものMaaSの思想とは「より安く、より効率的に」

そもそもMaaSとは、フィンランドのヘルシンキで生まれたサービスコンセプトであるが、MaaSが誕生した背景には、ヘルシンキが持つローカルコンテクストが存在している。
《ヘルシンキが持つローカルコンテクスト》

  • 地球温暖化という問題への高い意識
  • 自家用車を減らすという明確な政策目標
  • ノキア発祥の国としての情報通信先進国のプライド
  • もともと公共交通が行政に一元管理、運営されている

このような背景の中で生まれた新たな概念がMaaSであり、

  • 自家用車の購入&維持コストよりも安く移動が可能
  • 各種公共交通機関をシームレスに繋ぐ事により、都市部の移動においては、
    自家用車での移動よりも利便性が高い
  • 行政主体で別々に管理していた鉄道やバスなどが持つデータを一元管理/運用し、ストレスフリーな移動が可能

というポイントがあり、結果として多くのユーザーの支持を獲得し、現在に至っている。

世界はビジネスモデルの誕生を待っている

上記のような背景の中でスタートしたMaaSだが、現在ではビジネスサイドの可能性の高さから、世界各国でMaaSの導入が進んでいる。
では一体、“MaaSのビジネスサイドの可能性”とは何なのか?
それは “人の移動・モノの移動”というビッグデータを活用した新たなビジネスであり、一説ではモビリティサービス(MaaS)の世界市場規模は2020年の推計47億ドルから、今後2030年には704億ドルへと大幅な増加が予測されている。
このようにMaaSへの期待値が増す一方で、国内においては十分に利益をあげているMaaSサービスは存在していない。
十分な利益が出ない(=儲からない)理由はシンプルであり、“そもそも儲かるビジネスモデルが存在していない”というのが筆者なりの解釈である。
例えば、Googleを代表とした「検索エンジン×検索連動型広告」というのは誰もが知っているビジネスモデルだが、このような儲かるビジネスモデルが、MaaS領域には未だ存在していない。
つまり、「MaaS×●●」の「●●」が未だ発見されていない、という事である。
そして、MaaSビジネスモデルの発見の旅は、2000年代のGoogleを中心としたインターネット業界の歴史をなぞっていると考える。
Googleも創業当時は世界で最も洗練された検索エンジンを開発するという事が出発点であり、最初から今のビジネスモデルがあった訳でなく、検索ワード数が爆発的に増加する過程の中で、検索連動型広告というビジネスモデルが生まれた事は有名な話である。
1つの可能性としてMaaSも同じようなプロセスを踏むのではないか?世界中でMaaSの進化が進む中、どこかのタイミングでコップから水が溢れるかのように、これまでの歴史を変えるような新たなモデルが誕生する日は近いと考える。

1つの可能性は「移動」×「まちづくり」×「生活/暮らし」の共創

様々な視点からMaaSのビジネスモデル開発が進む中、直近でのキーワードの1つはやはり、「移動」×「まちづくり」×「生活/暮らし」の共創である。
トヨタのウーブンシティのようなスーパーシティ構想がその代表例だが、要は、まちづくりを中心としたフィジカル領域の中にMaaSや生活サービスを組み込むという発想であり、その世界観ではMaaSはあくまでも1つのパーツとなる。
どれだけ洗練された移動手段やストレスフリーなUIを準備したとしても、移動の目的となる”コトづくり”や、移動のべースとなる”まちづくり”とセットで考えなければ、それは絵に描いた餅。
空気を運ぶ導線が増えていくだけであり、そこに経済圏は生まれない。
実際に大阪メトロではこのような考え方を持ち、次代のビジネスへのチャレンジが始まっている。

※出典:大阪メトロ 2018‐2025年度 中期経営計画(2020年12月改訂版)

これまで乗降が少なかった駅やバス停に、新たな「にぎわい」のハブつくることによって、そこに商圏が生まれ、また、その場所に行くための手段としてMaaSを活用し、より多くの移動を実現する。
また、その世界観の実現に向けては他業界とのアライアンスを前提に考えており、近年注目を集めているフードトラックとの協業を開始させる予定である。
また、別の事例だが、昨年末の道路法の改正によって、新たに「歩行者利便増進道路」(通称:ほこみち)制度が創設された事も変化の兆しの1つである。

※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/road/hokomichi/index.html

国土交通省によると、「ほこみちに指定された道路の特例区域(利便増進誘導区域)では、無余地性の基準が緩和され、道路占用許可が柔軟に認められます。」と記載されているが、要は、「歩道のなかに歩行者が滞留する空間(賑わいが創出される空間)を作りやすくする制度」であり、ほこみちエリアでは今後、イベントやオープンカフェなど街の賑わいスポットとしての活用が期待されている。
※国土交通省は2021212日(金)、ほこみちの全国初の指定事例として、大阪市と神戸市、姫路市にある計3か所の歩道を指定したと発表
このように、今後は主要な駅に偏っていた移動目的地が分散し、様々なエリアでその地域の特性を活かした“街のにぎわいづくり”が始まっていく事が期待されているが、MaaSのビジネスチャンスもここにあるのではないか。
つまり、MaaS単体でビジネスを考えるのではなく、「どのような場所に行きたいのか?」を起点として、街づくりやコトづくりといったフィジカル領域とセットで考える事により、マネタイズの可能性は大きくなっていくはずだ。
そして、事業者の視点としては、3つの変数(移動×まちづくり×生活/暮らし)をトータルにマネジメントする機能が今後の1つの勝ち筋ではないだろうか。

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UPDATE
2021.06.09
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