COLUMN
生産性向上のための3つのカクシンと経営者としての役割
2017年、政府は戦後最大級といわれる労働制度改革を推進し、「働き方改革」が流行語のように各メディアに取り上げられている。
そこでいう「働き方改革」は、長時間労働の是正や同一労働同一賃金など、労働者の権利を保護する施策として語られることが多い。しかし企業経営の視点から見るならば、「働き方改革」こそが企業競争力を高めるために内部資源を効率化し、生産性を向上させることができる絶好の機会として捉えるべきだろう。
カーディーラー企業が将来を見据えた体質改善を行うため、今取り組むべき「生産性向上」に必要な3つの「カクシン」を考えてみたい。
カクシン① 働き方改革の「核心」は 生産性の向上
生産性は、“成果”(分子)と“時間”(分母)の割り算で考えることができる。ということは、今までと同じ成果を、今までよりも少ない時間で出せば生産性は上がる。
日本では1990年に公務員が隔週週休2日制度となって以降、一人当たり年間総労働時間数は微減にとどまっている。その1990年頃は、まさに「時短」がブームとなっていた時期と重なっており、減らした勤務時間の中でいかに生産性を向上させるかが経営課題として大きく取り上げられていた。
そして現在の「働き方改革」においても、厳しい残業規制などによって労働時間を一層効率化することが求められ、生産性計算式の分母である“時間”は削減される一方である。経営効率を上げていくためには、従業員のワークライフバランスを尊重しながらも、分子である“成果”を大きくするための取り組みが求められる。
生産性を向上させることを目的とした「働き方改革」こそが、経営的な視点から見た問題の「核心」なのだ。
カクシン② 生産性向上のために 「革新」すべき4つのポイント
では、生産性を高めるために、企業としてはどんなことができるだろうか。
一番重要なことは、付加価値の高い注力すべき事業に適切に人員やコストを投下していくことである。効率の悪い事業でどれだけ働き方を改革しても会社全体の生産性は上がらない。注力すべきビジネスを見定め、選択することは、経営トップにしかできない重要な役割の一つである。
その上で業務の進め方や働き方という点で「革新」できるポイントは四つある。
①プライシング
「おもてなし」を美徳の文化とする日本では、「サービス」は無料で提供されて当然だと認識されることが多い。しかし、カーディーラーにおける「サービス」は顧客に価値を提供する商品である。「顧客満足」を社是として日々ホスピタリティ強化やサービス力向上に取り組むカーディーラーは多い。しかし、本当にその行為は価格や最終利益に結びついているだろうか。CS向上それ自体を目的化せず、提供価値として利益を回収できる仕組みにできているか、ぜひ自社を振り返ってみていただきたい。
CSを向上させることによる効果は、例えば顧客の購買頻度が上がる、関係性が長期化する、口コミなどによる新規顧客の獲得数の向上、そして契約金額の高額化など、幅広く挙げることができるだろう。大事なことは、自社のホスピタリティやブランドが、現場スタッフの成果に結びつくような商流や値決めのルールを経営者が決めることである。かの京セラ創業者稲盛氏も「値決めは経営そのもの、社長の仕事である」と明言している。事業の選択と適切な値決め=プライシングを経営層が行うことが、生産性を向上させるための基礎・土台となるのだ。
②デジタル化
カーディーラーにおいてもデジタル化は避けて通ることができない。しかし、いきなり業務の全てをシステムに置き換えることはできない。ゼロかイチかの発想ではなく、顧客のカスタマージャーニーや営業フローの中には、デジタルに置き換えやすい箇所が必ずあるはずである。
他業界と比較するとカーディーラーの営業スタッフの役割は顧客開拓から新規接客、提案、契約、フォローまで非常に多岐にわたる。役割範囲が大きすぎるために難易度が高く、育成に時間が掛かる。そこで、営業フローの中で適切なプロセスをデジタル化することによって、人が対応すべきところにスタッフが集中できるようになり、習熟スピードも格段に上がる。成果を上げるために理想とするきめ細やかなフォローや中長期顧客管理をデジタル化すれば、その営業品質を標準化できることになる。
もしくは、ウェブサイトやメールなどを使った顧客との接点をデジタル化することにより、例えば来店する見込み客の特徴や属性などを事前に分析できるようになる。年齢や家族構成、どの車種情報に興味を持ったかなどの属性情報がわかれば、その商談を得意とする適切な担当者をマッチングすることができ、受注確度が上がるはずだ。
しかし繰り返しになるが、いきなり全てを変えようとするのではなく、5年から10年くらいの中長期目線で顧客接点のデジタル化を進めていくことが重要である。
一方、顧客接点だけでなく、営業スタッフの日々の営業活動をデジタルによって効率化することもできる。ルートセールスでは、例えば移動経路の分析にITを取り入れることで無駄な時間を削減することができるだろう。いつ、どの顧客を訪れたかをデータ化することで、次に訪れるべき顧客を選別することも可能だ。
営業スタッフは、行くべきところではなく自分が行きたい・行きやすい顧客を重点的に訪れてしまいがちである。居心地がよい出先で長居をしてしまうこともある。IT化によって担当者ごとのムラを削減することが、営業現場の生産性向上に大いに効果を発揮するはずだ。
③分業化
生産性を向上させるための王道の取り組みは、日々何に時間を使っているのかを明らかにし、成果につながりやすい業務を増やしていくことである。働いている時間の中で、本当に必要なことに取り組んでいる時間は、営業組織であれば総工数の15~20%以下であることが多い。優良企業といわれる企業は、優秀な社員が多いのではなく、社員が必要な業務に必要なだけ時間を投下できているから生産性が高まっているのである。
では、成果につながりやすい業務とは、どんな業務なのか。まずはここを明確にすることが大事だ。営業スタッフにとって価値を生み出す時間とは何をすることだろうか。
経営の役割は、部署や業務ごとに期待する役割と目指すべき成果を決め、何をすれば評価されるかを理解してもらうことだ。その上で、各部署・スタッフが成果につながる業務に使う時間(主体工数)を増やす。
例えば、営業スタッフが提案資料を都度手作りしているなら、業務分担を変えたりアウトソースすることによって顧客と会う時間を増やすことができるだろう。アポ取りや契約成立後の書類作成といった業務も分業化しやすい。慣習化している会議は無駄な時間となっていないだろうか。そのような視点で労働時間の配分を変えていくと、成果につながりやすくなり、生産性が高まる。残業時間の削減にもなる。
④働き方
書籍などでよく見られる働き方改革の手法は、個人として生産性を上げるための取り組みであることがほとんどどである。しかしその個人の取り組みが組織全体の生産性を上げるとは限らない。経営者として考えるべきは、「組織として」会社全体の生産性を上げることだ。
そのためのポイントは二つある。一つは、仕事に明確なゴールを設定することだ。今日一日働く中で自分はどのような成果を目指すのか、毎日朝礼で相互に確認する。重要なのは、単なるその日のスケジュール確認ではないということだ。その業務は、何の成果のために、いつまでに、どのレベルまでを完了させるべきなのか。業務開始のタイミングで、業務の優先順位や目指すべき品質レベルを上司・部下の間ですり合わせることが、無駄な業務の排除と必要な業務の効率化にはとても有効である。
もう一つは、組織全体が業務に集中できる時間を確保することだ。パワータイムや頑張るタイムと名付けて導入している企業が増えている。決められた2時間だけ、とにかく自分の業務だけに集中する。この時間は、部下への指示や上司への確認など社内連絡はもちろん、社外からの電話取り次ぎを禁止としている企業もある。集中している最中に上司から話しかけられることが一番の生産性阻害要因だという笑えない話は、実は多くの社会人が経験していることだろう。互いの業務を阻害する要因を排除することを組織のマナーとすることで、会社全体の業務の効率と生産性を高めることにつながる。カーディーラーの場合はお客様からの電話などのため仕組みづくりに工夫が必要だが、過去の例や他業界の例を見ても効果が大きいことが実証されているため、ぜひ導入を検討していただきたい。
カクシン③ 非効率な活動に 「確信」を持って取り組む
前項四つの「革新」を通じ、生産性が向上していくほど、将来の労働力不足に耐えうる力が高まる。労働時間の短縮を実現し、例えば時短で働きたい女性やシニア層などを巻き込み、多様な雇用形態・勤務形態を取り入れながら、会社の活動を発展させていくこともできるだろう。
経営者の役割も変わっていくはずだ。デジタル化が進むことにより、あらゆる業務の生産性や成果が数値化できるようになる。効率がよい方法と悪い方法がデータによって一瞬で選別できるようになる。AIが普及すれば、選別の正確性がさらに高まる。従来、経営者が下してきた判断や評価も、経営者以外の役職者やAI自身ができるようになる。
そのような環境になったときに、では経営者は何をすべきか。
会社全体で生産性向上を追求できる体制ができたなら、経営者自身はむしろ「非生産的」な事柄に注力すべきである。売上や利益だけでなく、例えば、3年後に自社はどうあるべきか、もしくは顧客やスタッフの満足度など、数値化しにくい部分の成果を追求する。そのような判断が、3年後、5年後に花開き、新たな会社の価値を創造できるかもしれない。現時点では生産性向上につながらず、非効率的に見えることに対して、「人、時間、資金を投じる価値がある」と判断すること、また、その結果として「自社はこのような会社に成長していくことができる」といった確信を持つことが、これからの経営には非常に大事だ。つまり、生産性という軸で測れない領域の中でこそ、経営者の手腕が問われるようになっていくのだ。
- UPDATE
- 2018.01.05