COLUMN
EVシフトに伴う事業機会の探索
モビリティを電動化することによって、部品数が減りEVをつくりやすくなること、自動車以外の電気・電子機器との親和性が高まりコネクテッド化が進むこと、ファブレス生産の広がりによって自動車の企画と車体製造が分離することなどさまざまな変革が起きています。
その結果、EVに求められる価値が「移動」だけにとどまらず、用途の重要性が高まり、電力インフラやエンターテインメント空間など「移動以外」へと大きく広がっていくことで、今後、さまざまな事業機会が生まれ異業種の企業もこのチャンスを手にすることができます。用途が「移動」に限定されていたこれまでと「移動以外」へと大きく広がりをみせていく今後では、何のニーズに焦点を当てるかで事業機会は大きく広がっていきます。
異業種によるEVの生産と販売
佐川急便
佐川急便は、EVの企画・開発を手掛けているASF株式会社と共同でEVの企画・開発を行い、中国の五菱汽車に車体製造を委託するファブレスEVモデルで、宅配業務に特化したEVを生産しました。自社の軽自動車ドライバー7200人にアンケートを実施し、ドライバーの使いやすさを追求した仕組みを数々盛り込んでいます。
例えば、使用頻度の少ない助手席の幅を狭くした分、運転席の幅を広くしたり、ダッシュボード中央部にタブレットを設置してバッテリー使用量といった車両データや運行管理データなどを表示したりでき、荷室は夜間作業時に使用する照明が暗いという意見をもとに明るいLED照明を採用。荷物の積み下ろし時に腰に過度な負担がかからないよう荷室を少し高めに設定したり、荷台下に台車と伝票を収納するスペースを設けたりといった仕様は、宅配専用EVならではの工夫といえます。
Xiaomi(中国企業)
スマートフォンメーカーとして知られる中国のシャオミ(Xiaomi)もEVの生産・販売に取り組むことを明かしています。同社の会長兼CEOである雷軍氏は「スマートEVは今後10年間で最大のビジネスチャンスの1つであり、スマートライフに欠かせない要素。このビジネスに参入することは当然の選択」だと語っています。それほどEV関連ビジネスには魅力があるということであり、今後も新たなビジネス機会を求めて異業種から参入してくる企業は間違いなく増えていくはずです。
ビッグデータの活用による事業機会
EVのコネクテッド化やサービス化が進むことで、もう1つ大きなビジネス機会が生まれます。それが、EVを通じて得られる多種多様なデータの活用です。すでに自動車には数多くのセンサーが取り付けられ、多様なデータが取得されており、どのような場所、走り方をしたときに車両各部にどういった負荷がかかるのかがわかれば、走行性能や乗り心地を向上させるヒントが得られます。発進、加速、停止などの挙動データと破損した部品のデータを分析すれば、部品の耐久性を高めるヒントを得ることができるし、そろそろ部品が壊れそうなタイミングでドライバーにアラートを出すこともできます。
日本特殊陶業はコネクテッドカーから収集した走行データと過去の整備履歴とを組み合わせて最適な整備時期と内容を抽出しています。そのデータを自動車整備工場に提案することで、整備工場がユーザーへデータの裏付けをもとに精度高く整備の提案ができるというサービスのテスト運用を始めています。このように、センシング技術や通信技術が発達したことで自動車のコネクテッド化も進み、収集したデータを自動車開発やユーザー向けサービスなどさまざまなことに活用しています。
この流れは、EVの普及によって一層加速していくことが予想されます。例えば、リース会社がEVの充放電データや走行データを収集できれば、法人ユーザーに対して最適な車両数や充電タイミングなどのフリートマネジメント、リース・プランを提供できます。
自動車保険会社にとっては、故障や事故、運転者個人、利用頻度などに関するデータはEVに特化した保険商品を開発するうえで貴重な財産になるはずです。運転中の車内で運転者や同乗者がどのようなサービスを利用しているかというデータは、エンターテインメント系企業にとって、喉から手が出るほど欲しいものでしょう。アップルやAmazonなどのテックジャイアントが積極的にEV業界へ参入してきている背景には、そこから得られるビッグデータを収集し、EVやその周辺ビジネスへ展開していくという思惑もあります。
ガソリン車の頃からこのようなデータ活用はすでに始まっていましたが、EVの普及に伴いハードウェアとソフトウェアの分離が進み、車両から収集したビッグデータを安全かつ堅牢なシステム環境で管理しやすくなったことで、データ活用の可能性は大きく広がったといえます。また、5G通信が当たり前のようにコネクテッドカーに対応するようになれば、さらに多くのデータを短時間でやりとりできるようになるため、ビジネス機会は今以上に広がっていくはずです。
エネルギーバリューチェーンの変化
エネルギー業界からみたとき、EVシフトが業界にどのような影響を与え、バリューチェーンにどういった変化が起きるのかをみていきたいと思います。とはいえ、結論からいうと発電→送電→売電というエネルギーバリューチェーンの機能に大きな変化はありません。ただし、中身は変わっていきます。ここでキーワードの1つとなるのが、「スマートグリッド」です。
スマートグリッドとは、ICTを活用した次世代の電力ネットワークのことです。発電所と送電網、電力の消費地である住宅や商業施設、工場などをネットワークで結び、需給データを双方向でやりとりして効率よく電気を供給できるようになります。また、収集した電力需要のデータを分析することで、電気消費量予測を精度高く予測できるようにもなるため、最大ピーク消費量をベースに電力インフラの最適化を行うことにも役立ちます。
出典:経済産業省
分散型電源のキーデバイスとなるEV
このようにスマートグリッドのもともとの目的は、柔軟な電力供給を実現することで停電といったリスクを回避することでした。しかし、カーボンニュートラル実現に向けて再エネの利用促進が世界各国の大きな課題となったことで、スマートグリッドがますます注目されるようになりました。これまで電気を消費するだけだった場所に太陽光発電などのクリーンな自家発電の仕組みが導入されたことで、さまざまなところに分散した電源が生まれました。
スマートグリッドであれば、これらの電源を束ねて電力の地産地消の仕組みを構築したり、火力発電所や原子力発電所といった集合型電源と融合させることで、電力網のさらなる安定化を促進させたりすることが可能になります。この分散型電源のキーデバイスの1つとしてEVが利用されるようになり、サービスの多様化が進むことを「中身の変化」と表現しました。このようにモビリティの在り方が変化することで生まれる事業機会は多様であり、「移動」だけにとどまらない視点で捉えるとチャンスが見えてきます。
関連資料ダウンロードリンク
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- UPDATE
- 2023.06.01