COLUMN
EV普及にあたっての課題
課題①走行距離:バッテリーには充放電できる量に制約があり、また劣化もしていくため、ガソリン車と同じように走行距離を担保できない
課題②充電時間:急速充電であっても充電に約15-30分かかってしまうのが現状であり、給油に比べてかなり時間がかかる
課題③中古車価格:充放電の繰り返しによるバッテリー劣化により、中古車価格がガソリン車と比べ大きく下がってしまう
課題④大型輸送:長距離を走るためにはバッテリーを大きくせざるを得ず、充電時間もその分長くかかってしまうので、大型車両のEV化は難しい
EV普及における課題①走行距離
現状、バッテリーのエネルギー密度は低いため、EVの実質エネルギー搭載量はガソリン車の3分の1程度だといわれています。季節によって冷暖房をつけっぱなしで走行すれば、その分、余計に電力を消費するため、航続距離は短くなってしまいます。そもそも、バッテリーには充放電できる量に制約が課されています。バッテリーに充電されている電気を100%放電しきってしまうとバッテリーが損傷したり寿命が短くなってしまったりするため、完全に放電しきらないよう、また容量100%まで充電できないよう多少の余裕を持たせる設計になっているからです。
エネルギー密度やバッテリーサイズの課題を技術的に解決しながら航続距離を伸ばすのは容易ではありません。とはいえ、バッテリーの性能は年々向上し、航続距離は大きく伸びてきています。例えば、2020年に発売されたメルセデス・ベンツのEV「EQS450+」の航続距離は最大770キロメートルだとされています。テスラの「モデルS」で652キロメートル、現状、日本製EVで航続距離が最も長いのは、日産「アリアB9 limited」の610キロメートルとなっています。初期型リーフが200キロメートルほどだったことを考えれば、技術の進歩は目覚ましいといえます。
しかし、ガソリン車はタンク容量によって差はあるものの、車種によっては1500キロメートルほど走るものもあります。今後一層バッテリー技術が進化していったとき、ガソリン車の航続距離を抜けるかどうかは専門家によって意見が分かれるところですが、現状の技術の延長線上では難しいと考えられます。
今、エネルギー搭載量を飛躍的に向上できる全固体電池という技術が注目を集めていますが、技術的課題とコスト面から社会実装にはまだしばらく時間がかかりそうです。実用化できれば、航続距離の課題は解決できるはずですが、それがいつになるのかは今のところ不透明です。
EV普及における課題②充電時間
ガソリン車に乗り慣れているユーザーにとって給油に必要な時間は5分程度といった感覚が染みついています。ところがEVは、図にあるように、急速充電であっても80キロを走れるようにするための充電には約15分かかってしまうのが現状です。現在充電施設は全国に約2万か所(2023年3月時点)ありますが、そのうち急速充電に対応している施設は全体の42%ほど、およそ8000か所にすぎません。そのため、EVが普及するスピードに合わせて、今以上の速さで急速充電施設を整備していかないと、施設に充電待ちの大行列ができてしまうことになります。この不便さをユーザーが容認するのは難しいでしょう。
中国や欧州は、このことを十二分に理解しているため、EVを普及させるにあたって、国主導のもと充電施設整備に莫大な投資を行っています。施設の建設には多大なコストが必要になるため、民間企業が1社で負担するのには限界があるからです。そのため、日本でも国が主導して充電インフラの整備を早急に進めなければ、EV普及にブレーキをかけることになりかねません。
EV普及における課題③中古車価格
3つ目の課題である「中古車価格」にはバッテリーの劣化問題が関わっています。バッテリーの寿命は車体の寿命と同程度といわれていますが、それはあくまでも理論値であって、使い方次第でバッテリーの寿命は大きく変わってきます。もっともポピュラーな劣化原因は、充放電の繰り返しによる容量の低下です。特に、急速充電は大電流をバッテリーに流して充電することになります。バッテリーの温度は流れる電流に比例して上昇するので、急速充電を何度も繰り返すとバッテリー温度が想定以上に上昇してしまい劣化が進む可能性が高くなります。
また、充放電をせずに長期間放置するのも劣化につながります。バッテリーは使っていないときでも少しずつ放電していますが、充電が完全になくなっても放電反応は止まりません。放電する電気がないのに、「なぜ」と思うかもしれませんが、電解質や電極などを溶かしてリチウムイオンを生み出すため、これが電池の急速な劣化を引き起こしてしまうというのです。
このように、バッテリーにはデリケートなところがあり、ユーザーの使い方次第で劣化の度合いが違ってきます。そして、劣化の進んだバッテリーを搭載したEVは、中古市場ではいい値段がつきません。つまり、残価率が低くなるわけです。
近年、自動車を購入する際は残価設定ローンの利用が広がっています。販売店が将来の買取価格を保証することで、ユーザーは車両価格から買取価格を差し引いた部分に金利を加えた金額を払えばよく、安く新車を購入できることが人気の理由となっています。この買取価格に影響するのが残価率です。例えば、車両価格300万円、3年後の残価率が4割の車種であれば180万円に金利を加えた金額を3年間で払うことになります。
ところが、EVはガソリン車に比べて残価率が低く設定されています。日産『リーフ』の3年落ちの平均残価率は40%ほど、6年落ちになると約15%まで下がってしまうそうです。一方、トヨタ『プリウス』の場合、5年落ちで約40%の平均残価率と明らかにリーフよりも高く設定されています。ガソリン車になると、車種も多く一概にはいえませんが、5年落ちで50%程度が平均的な値だといいます。もちろん、EVの残価率が低い原因には、中古車の売買実績が圧倒的に少なく、中古市場におけるEVの需給バランスを見込みづらいということもあるでしょう。今後、バッテリーの性能が向上して劣化の度合いが抑えられれば、さらに中古EVバッテリーの劣化状況を適切に評価する技術が進み、中古市場における売買実績が増えていけば、中古市場での評価も変わってくるはずです。
EV普及における課題④大型輸送
現状のバッテリー技術では、長距離を走るためにはバッテリーを大きくせざるを得ず、その分車両重量が重く、積載量は減ってしまいます。また、バッテリー容量が大きくなるということは、その分、充電時間も長くなってしまうということです。長距離輸送では稼働率と輸送効率が非常に重要で、いかにトラックが遊んでいる時間=休んでいる時間を減らし、かつ荷室に余裕ができないよう、複数の物流会社が共同で積み荷を集めてくるなど並々ならぬ苦心をしています。それなのに、トラックを長時間充電施設にとめ置かなければならないとなれば、EVを導入するメリットよりもデメリットのほうが大きくなってしまいます。
EV普及の課題を解決するために
ここで紹介した4つの課題は、当然ながら日本に限った話ではありません。EVシフトが急速に進んでいる欧州や中国でも、ガソリン車やハイブリッド車と比較したとき、充電の待ち時間は長くなりますし、走行距離も劣ります。中古車市場で高く買い取られているわけでもなければ、大型輸送についても状況は同じです。
欧州、中国でEVシフトが進んでいるのは、この問題を棚上げしてでもEVシフトを推し進めると国が決断しているからです。課題を感じていても、対日本戦略を背景に「エコである」ことを大義名分にして、政府が本腰を入れて仕掛けているからこそ、日本と大きな差がついているのだと考えます。では、この文脈における日本の課題は何か。それは、国と自動車メーカーが一体となって、これからの自動車ビジネスをどう盛り上げていくのか、その中で日本がどのようにイニシアチブを取っていくのかということに真剣に取り組んでいくことであると考えます。
参照
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- UPDATE
- 2023.03.24