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BaaSとは?EVのバッテリーを使い尽くすBaaS ビジネス

EXECUTIVE SUMMARY

BaaSとはバッテリーのサービス化のことです。バッテリーはEVを構成するモジュールの中でも重要な存在ですが、航続距離、充電時間、中古車価格、大型輸送というEV普及を妨げる4つの課題があります。

バッテリー交換BaaSモデルやバッテリー利用後は解体して希少資源を取り出しリサイクルするカスケード利用によりBaaSビジネスの拡大は見込まれています。また、日本ではすでに二輪車のバッテリー交換BaaSモデルが存在するため、EVの成長の過程に注視していく必要があります。

BaaSとは

BaaS(Battery as a Service、バース)とはバッテリーのサービス化のことです。バッテリーはEV(Electric Vehicle、電気自動車)を構成するモジュールの中でも非常に重要な存在ですが、EV普及を妨げる次の4つの課題にも密接に関わっています。

  1. 航続距離
  2. 充電時間
  3. 中古車価格
  4. 大型輸送

EVの航続距離は基本的にバッテリーの容量とエネルギー密度に関係します。バッテリー技術の進展によって、航続距離も充電時間も短縮されてきてはいますが、まだまだ満足のいくレベルではありません。しかし、BaaSはこれらの課題を解決する可能性を秘めたサービスとして注目されています。

バッテリーの劣化問題とコスト問題

バッテリーの劣化問題は中古車価格の低下という問題にもつながっています。バッテリーの劣化は急速充電の頻度や充放電の回数など、複合的な要因によって度合いが変わってきます。しかし、劣化度合いと用途の関係性の究明や二次利用、三次利用のライフサイクルが整備できていないこともあって残価率(新車価格に対して年数経過した際の価値を示す割合)の測り方が難しく、中古EVに適正な値段がつけられない結果、中古市場での取引が活性化していない状況が続いています。

また、バッテリーにはコストの問題があります。現状、バッテリーはEVの価格の3分の1を占めており、これがEVが割高になっている原因でもあるのです。
参考:EV普及のカギをにぎるレアメタル(資源エネルギー庁)

このような問題を解決するビジネスモデルとして中国で普及しつつあるのが、交換式バッテリーのBaaSモデルです。

BaaSが秘める可能性

バッテリー交換式BaaSモデルへ

バッテリー交換式BaaSモデルは車体とバッテリーの所有者が別という点に特徴があります。EVユーザーはEVメーカーから車体のみを購入してバッテリーはBaaS事業者(EVメーカー、バッテリーメーカー、バッテリーを所有するサービス運営会社など)へ利用料を支払いレンタルする形式を取ります。サブスクリプションモデルで定額制サービスとして広がる可能性もあります。

充電が必要になった場合は、ユーザーはBaaS事業者が設置しているバッテリー交換所へ行き、フル充電されている交換用バッテリーに入れ替えるという仕組みです。これによって充電ステーションで何十分もかけて充電する必要がなくなります。EVのバッテリーは非常に重たいため交換は機械式になりますが、待ち時間は5分くらいですので、ガソリンスタンドで給油するのとほとんど差はありません。

バッテリー交換式BaaSビジネス

中国でバッテリー交換式BaaSビジネスを展開しているNIO(蔚来汽車)の場合、自社のバッテリー交換ステーションであれば、わずか3分でバッテリーを交換できるようになるといいます。これで充電時間という問題を解決できます。バッテリー交換所の数が増えていけば、航続距離や長距離輸送の課題解決にもつながります。EVではガソリン車よりも給油回数が多くなりますが、目的地までのルート上にあるバッテリー交換所に立ち寄ることを繰り返せば、バッテリー容量以上の距離を走行できるようになるからです。

また、バッテリーを購入する必要がなくなるため、その分、安くEVが買えるようにもなります。交換式バッテリーに対応した車種が増えていけばガソリン車以上に、気軽に買い替えることができるようになるかもしれません。

バッテリー交換式BaaSモデルは、商用EVとの相性がいい点も見逃せません。まず、ユーザー側にとっては、車体価格が安くなる分、初期投資額を抑えられるからです。商用の場合、一度に数十台〜100台以上導入するケースもあるため、投資額の削減効果がより大きいものになります。また、バッテリーの劣化による修理費や交換費用を考慮する必要がなく、ガソリン代の価格が高止まりしている現在、ランニングコストの削減効果も期待できます。

バッテリー交換BaaSモデルは、OEMメーカーにとってもメリットがあります。商用車は用途が明確な分、標準化しやすいためです。車体の標準化が進めば、車体構造に形状が左右されるバッテリーの標準化も進めやすくなり、生産コストの削減効果が期待できます。また、メーカーの垣根を越えて、バッテリーが利用できるようになれば、サービス規模を一気に拡大することも可能です。

BaaSと蓄電池利用の関係

バッテリーを活用したサービスとしては、バッテリーライフサイクル事業への期待も高まっています。

バッテリーをつくるにはレアメタルを利用するため、原料資源の確保が大きな課題の1つです。その一方で、EV用バッテリーの需要が世界中で急速に高まっているため、バッテリーのリユース、リサイクルなど、バッテリーを有効活用する事業の拡大が見込まれているのです。

出典:沖為工作室合同会社Element Energy

このような背景もあり、今後はバッテリー寿命を延ばすために、リサイクルの技術革新に依存するだけでなく、まずはリユースで利用してからリサイクルしていくことがトレンドになると考えられます。

車載用バッテリーは、最大容量が80%以下になると電池交換することが推奨されています。80%を下回ると急激に劣化が進む可能性が高くなり、危険だからです。そのため、まずはそのタイミングでバッテリーを改修してリビルドして、再度EV用バッテリーとして利用する道を探ります。

バッテリー残容量が車載用に適していない場合は、リユースバッテリーとして大容量バッテリーを必要としないフォークリフトや踏切の補助電源などの用途へ転用し、最終的に容量が20%以下まで低下すると再利用の経済効果がなくなるため、解体して希少資源(レアメタル)を取り出し、再びバッテリー材料としてリサイクルしていく、これがバッテリーのライフサイクルで、カスケード利用と呼ばれています。

バッテリーのカスケード利用

リサイクルに比べ、比較的技術的難易度が低いリユースのほうが参入するハードルが低く、単独の企業で事業化に臨む例が散見されます。一方、バッテリー原料資源の再資源化はOEMメーカーや電池メーカーなどが単独で事業化するにはハードルが高いため、リサイクル事業者などとの提携を進めながら事業化の道を探っているケースが多いようです。

例えば、トヨタ自動車は、豊田ケミカルエンジニアリング、住友金属鉱山、PEVE社とともに、使用済みのハイブリッド車用ニッケル水素電池に含まれるニッケルを電池原料として再資源化する技術を世界で初めて開発し、リサイクル事業を共同でおこなっています。三菱自動車はアウトランダーPHEVのリユース電池を活用した蓄電システムを構築、実証していて、CO2排出量の削減と電力消費のピークカットを実現したり、電動車の使用済みバッテリーを用いた自律型街路灯の開発を検討しています。海外においては、電池メーカーがリサイクル業者と提携し、企業の蓄電池工場の隣にリサイクル工場が多数建設される計画が進んでいるようです。
参考:「ハイブリッド車用ニッケル水素電池の原料化事業」を開始(トヨタ自動車)
参考:三菱自動車、MIRAI-LABO、電動車の使用済みバッテリーを用いた自律型街路灯の開発検討を開始(三菱自動車工業)

BaaSはバッテリーを蓄電池として活用するビジネスモデルとも相性がいいといえます。ユーザーがバッテリー交換をしようとしたとき、交換所に予備のバッテリーがないといった事態を防ぎ、スムーズに交換できるためには、EVの台数以上のバッテリーが必要です。そのため、BaaSのサービス運営者は大量のバッテリーを保有し、20〜30とエリアごとの必要数に応じてバッテリー交換所に配置していくことになります。EV用バッテリーは60キロワットや70キロワットと家庭用蓄電池の数十倍の容量があり、それが20〜30と同じ場所に集積しているので、交換所をちょっとした蓄電施設として利活用できるわけです。緊急時に蓄電池として使うこともできるし、VPP(Virutual Power Plant、仮想発電所)向けのリユースとして活用することも可能になります。

サービス運営者にとっては、高額なバッテリーの導入コストを、こういったBaaS以外にも活用することで吸収できるため、蓄電池利用との掛け合わせを積極的に進める事業者も出てきています。

BaaSの実現事例

バッテリー交換式BaaSモデルは大きな可能性を秘めていますが、日本で社会実装するには、バッテリー交換式EVは車検を通らないという大きな課題があります。この点は規制緩和が期待されますが、規制のないEV二輪車では、すでに社会実装されたGachaco(ガチャコ)という事例が存在します。
参考:株式会社Gachaco(ガチャコ)

ガチャコは電動モビリティの普及を目指し、ENEOSホールディングスと本田技研工業株式会社、カワサキモータース株式会社、スズキ株式会社、ヤマハ発動機株式会社の5社によって設立された株式会社ガチャコが運営するバッテリーシェアリングサービスです。ビジネスモデルは、EVのバッテリー交換式BaaSをほぼそのまま電動二輪車に置き換えたものになります。

ENEOSがバッテリー交換ステーションの設備を担うとともにBaaSプラットフォームの構築を進め、二輪4社は電動二輪交換式バッテリーの相互利用を可能にする標準化に合意、適合電動二輪車の開発を進めていくことになっています。2022年10月には西新宿に国内第1号機となるバッテリー交換ステーションを設置し、すでに稼働を開始しています。
参考:バッテリー交換ステーション「Honda Power Pack Exchanger e:」の販売を開始(本田技研工業)

ガチャコが事業化できたポイントは規制に引っかからなかったことだけではありません。BaaSのもう1つの大きな課題である規格の標準化という壁を乗り越えられたことが非常に大きかったといえます。

実は、BaaSが社会実装され、成熟化しつつある中国でも、規格の標準化は進んでいません。そのため、利用者はサービス提供しているOEMメーカーのEVしか選べず、車種の選択肢が少ないという不利益を被っています。単独の事業者だけでは交換所を増やしていくことにも限界があるため、必要になったときに近くでバッテリー交換ができないのが現状です。バッテリー規格や搭載する側の車体規格が標準化されていけば、複数事業者が参入しやすくなり、インフラの設備も急速に進んでいくはずですが、各社の思惑が絡み合い、なかなか標準化の方向に進んでいかないのが現状です。

その点、ガチャコは標準化を実現した事業モデルとして参考にすべき点が多々あると考えられます。この流れを四輪車へ広げていくためにも、今後、規制緩和に向けた議論が進むのか、バッテリー交換式BaaS以外の展開が登場するのか、成長の過程に注視していく必要があります。

UPDATE
2023.03.15
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