COLUMN
EVXとは?成長戦略にかかわるモビリティとエネルギー
EVをハブとしてモビリティ領域とエネルギー領域におけるビジネスが急激な変化を遂げようとしています。この新しく生まれようとしている市場を、リブ・コンサルティングではEVX(EVトランスフォーメーション)と定義し、EVXカオスマップを作成しました。モビリティ、エネルギー、サービス提供、マネジメントという4軸でEVXを俯瞰したとき、2022年時点では10の事業カテゴリに分けられるというのがリブ・コンサルティングの考えです。
EVトランスフォーメーション(EVX)とは
2021年11月19日、米ブルームバーグ通信により、アップルが完全自動運転に対応するEV(Electric Vehicle、電気自動車)を早ければ2025年に発売するという内容が発表されました。このニュースを知り、「なぜ、アップルがEVを」と疑問に思った人もいるかもしれません。しかし、このような動きは珍しいことではなくなってきています。
参考:Apple Accelerates Work on Car Project, Aiming for Fully Autonomous Vehicle(Bloomberg)
昨今、自動車のEV化と脱炭素化に向けた動きの進展を背景として、モビリティ領域のプレイヤーが新しくエネルギービジネスを始める事例や、逆にエネルギー領域のプレイヤーが新しくモビリティ関連事業を始める事例が活発化してきています。このような動きは、北米で見られていたものですが、日本でも動きが目立つようになり、EVをハブとしてモビリティとエネルギーの領域におけるビジネスが急激な変化を遂げようとしています。
この新しく生まれようとしている市場を、リブ・コンサルティングではEVX(EVトランスフォーメーション)と定義しました。
EVXの背景にあるカーボンニュートラル
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000042601.html
リブ・コンサルティングでは2021年と2022年にEVXカオスマップを作成しましたが、EVXが進展する背景にはカーボンニュートラルというキーワードがあります。
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します
カーボンニュートラルとは何かを生産したり、活動をしたりする際に、大気中に排出される二酸化炭素と大気中から吸収される二酸化炭素が等しい量となり全体としてゼロとなっている状態を指します。
民間企業がカーボンニュートラルに取り組む必要性はいくつかありますが、大きいものは持続可能な社会を実現するために企業としての責任を果たすためです。
近年、ESG投資やESG経営がクローズアップされたり、環境規制の強化がニュースで取り上げられたりしていることからも、世の中の関心の高まりがうかがえます。企業や自治体も社会の一員として、このような社会からの要請に応える努力をしていかなければなりません。これまで日本企業が環境のためにおこなってきた活動の多くは、事業活動とは切り離された社会貢献活動や既存事業や会社そのものを守るためというニュアンスが強かったように思いますが、EVXという新しい市場が形成されつつある今、カーボンニュートラルに取り組むことは、大きなビジネスチャンスを掴むことにもつながるのです。
カーボンニュートラルは、世界が持続可能性を維持するために必要とされており、世界的に見てコミットしなくてはいけない、いわば、成長することが約束された市場です。そのため、各国は成長戦略としてカーボンニュートラルをとらえており、ボストンコンサルティンググループによると、2020年〜2050年までの間に世界で累計約122兆ドル(約1.3京円)もの関連投資が必要だと試算されています。
参考:Climate Finance Markets and the Real Economy(2020年12月)
日本でもNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2兆円のグリーンイノベーション基金を創設して、今後10年にわたり企業を継続して支援することを表明しています。これにはこの2兆円の基金を呼び水として、約15兆円とも想定される民間企業の野心的なイノベーション投資を引き出そうという狙いもあります。これほど莫大な資金が流入してくる市場にチャンスがないはずがありません。
参考:グリーンイノベーション基金(NEDO)
EVをハブにモビリティとエネルギーが融合する理由
EVをハブにモビリティ領域とエネルギー領域が融合する理由は大きく2つあります。
- CO2の大量排出が運輸部門と自動車の生産に関わるから
- EVのエネルギー源が電気だから
CO2の大量排出が運輸部門と自動車の生産に関わるから
日本においてCO2を大量に排出しているのは、運輸部門と自動車の生産に関わる部分です。このうち運輸部門で使用される自動車がEVに置き換わっていくと、走行中のCO2排出量はなくなります。もちろん、火力発電がベースロード電源である日本では、走らせるための電気や製造時に使う電力が火力で賄われるため、EVがCO2を排出しているのは事実です。しかし、将来カーボンニュートラルを目指すうえでは、先行してる海外の状況を見ても、EVへの移行は抗えません。
EVのエネルギー源が電気だから
EVをハブにモビリティ領域とエネルギー領域が融合する理由の2つ目は、EVのエネルギー源が電気だからです。EV化前は自動車と生活の領域は分かれていましたが、自動車のエネルギー源が電気に替わったことで自動車と生活領域の融合が進み、最適化の必要性が生じています。例えば、燃料の供給場所はガソリンスタンドから自宅や充電スポットに変わりますし、それに伴って、自宅に充電設備が普及していきます。
エネルギー領域に関わる企業にとっては、EVが普及して自動車のエネルギー源がガソリンから電気に変わると、自社の既存事業とのシナジー効果が高くなります。日本は人口減少時代に突入しており、今後は人口も世帯数も減っていきますので既存事業が下降することは明らかです。企業としてこれからも成長していくためには新しい事業を開発していかなければならず、電力系やガス系のようなエネルギー関連企業にとって既存事業と親和性が高い事業ドメインが何かを探っていくとEVに関わる領域に行きつくことになります。
一方、モビリティ領域に関わる企業にとっても周囲を取り巻く環境に違いはありません。人口が減っていくだけではなく、最近は若者の自動車離れも取り沙汰されるようになり、自動車販売会社のような事業環境は厳しくなっていくばかりです。そのような中、自動車のエネルギー源が電気になることで、EVを販売するときに電力会社と連携してEV充電に合わせた電気プランをセットで提案するというような付加価値を出しやすくなります。
EVX市場におけるモビリティとエネルギー
EVX市場で付加価値を出すための軸になるのはモビリティとエネルギー、そして、サービス供給とマネジメントです。サービス供給×モビリティ領域でいえば、EVの販売やリース、EV導入に伴うコンサルティングサービスなどが考えられますし、移動手段の提供ということであれば、MaaS(Mobility as a Service、マース)もこの領域のビジネスに該当します。サービス供給×エネルギー領域となると、電気の供給やバッテリー、エコキュート(EQ)などの販売が考えられます。
このようなエネルギー源や移動手段の提供が高度化していく中でマネジメント領域へと深化しながら、モビリティとエネルギーが融合していくイメージです。
例えば、緊急時にも電気を供給できる方法を模索していけば、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)におけるEV活用という分野が考えられますし、電気の利用を効率化してコスト削減していく方向へ進めば、EMS(Energy Management System、エネルギーマネジメントシステム)、VPP(Virutual Power Plant、仮想発電所)が視野に入ってきます。
一方、モビリティ領域を高度化させてマネジメント領域へ向かっていくと、充電インフラを軸にした事業やBaaS事業(Battery as a Service、バース)、さらにはEVを電源として利用することで家庭の電力を補うV2X(Vehicle to X)といった事業へ深化していくことになります。
このようにモビリティ、エネルギー、サービス提供、マネジメントという4軸でEVXを俯瞰したとき、2022年時点ではカオスマップに挙げられる10の事業カテゴリに分けられるというのがリブ・コンサルティングの考えです。ただし、今後も変化してくであろうことは十分に考えられます。
参照
- UPDATE
- 2023.03.15