COLUMN
日本版EVシフトの現状と問題点
日本では中国や欧州と比較しEVシフトが遅れ、充電施設の数も十分ではないという課題が目立ちます。しかし、EVX(EVトランスフォーメーション)という観点ではEVシフトのみ先行している中国や欧州よりも日本の技術力、システム構築力をもとに世界と戦うことは十分に可能です。実証実験については海外にておこない、成果を日本に持ち帰るという手法が考えられます。
日本国内で進むEVの二極化
日産自動車の新型EVサクラが順調な売れ行きを見せていると報道されています。2022年5月に発売が発表されてから3週間で1万1000台、2ヶ月で2万3000台、4ヶ月半で3万3,000台以上も受注しており、2021年に日本で販売された全EVの販売台数が約2万1000台ということを考えるとEVとしては異例のことだといえます。
参考: 10月で補助金終了か? 軽×EV相性抜群!!「日産サクラ」が大ヒットしてる理由とは(ベストカーWEB)異例!たったの5か月/たったの1車種 全EV販売を塗り替え 日産サクラ3つの魅力(AUTOCAR JAPAN)サクラも追い風!日産は電気自動車(EV)販売台数ナンバー1(日産)
内外装のデザインは違うものの、メカニズムや基本構造をサクラと共有している三菱自動車工業の軽EV「ekクロスEV」も6600台と好調な滑り出しのようです。補助金を適用すれば180万円という手ごろな価格で購入できるところも人気の要因と考えられます。
日本国内ではEVの二極化が進んでいます。これまで日本で発売されていたEVは400万円以上するものが多く、国産の代表的な小型EVである日産リーフでも370万円以上はかかりますので、新車で300万円前後で購入できるガソリン車と比較すると割高感がありました。これはEVの価格の30%はバッテリーが占めており、走行距離をガソリン車に近づけようとするとバッテリー容量を大きくしなければならないため、必然的に販売価格も上昇してしまうからです。
一方、街乗りが中心で長距離を走る機会が少ない軽自動車であれば、バッテリー容量を削ることで発売価格を抑えることができます。しかも、軽自動車なら車両も軽くなるので、加速の際などに大きなパワーを必要とせず、電飾の消費量を少なく抑えられるというメリットもあります。このような背景から今後、軽自動車を生産している全メーカーが軽EVをつくるようになるといわれています。
ただし、高級路線と軽EVの中間に位置するEVが、ぽっかりと抜けてしまっているのが現状です。このポジションにあたるEVとしては、日産リーフやトヨタbZ4xがあり、それぞれ注目されています。特にトヨタbZ4xは車のサブスクリプションサービスKINTOで取り扱われているリース専用車なので、購入という観点ではなく、利用するという発想で手にすることができます。
ガソリン車の代替手段としてのEV
一般ユーザーへのEV普及を促進する場合、ガソリン車の代替という観点で中間層を埋めるEVのラインナップが充実することも重要なポイントだといえます。韓国の自動車メーカー現代自動車(ヒョンデ)が2022年から日本で再び乗用車EVを発売する決断を下したのも、この中間層が手薄だということを意味しています。ただし、高級路線も軽EV路線も車種が少ないことには変わりがないため、今後、普及を加速させていくためには車種の充実に力を入れていく必要があると考えます。
しかし、日本でEVが出遅れているのには、ガソリン車が売れているからという実情もあります。ガソリン車の需要が確実に見込まれるのに、EV開発に大きくシフトして、その需要を取り損なってしまうのは機会損失になるとメーカーが考えてもおかしくはありません。
そのため、欧州ではEV以外の自動車に厳しい規制を設ける一方、EVには多額の補助金を出すことで半ば強制的にEVシフトを推進しているのです。
自動車メーカーによるEVシフト
2022年以降、国内メーカーもEVへのシフトを鮮明に打ち出しています。ホンダは2022年4月12日の記者会見で2030年までにグローバルで30車種を展開し、年間生産200万台以上を目指すと発表しました。
日産も2030年までに15車種のEV展開を目指すとともに、次世代電池として期待されている全固体電池を搭載したEVの2028年度市場投入を打ち出しています。トヨタは2030年までに自動車の電動化投資として8兆円、そのうちEVに関してはバッテリーの開発などに4兆円を充てることを発表し、当初2030年までにEVだけで世界販売台数200万台を目指すとしていた目標を350万台にまで大幅に引き上げています。
こういった動きが加速していけば、EVのラインナップも充実していき、ユーザーの購買意欲を刺激していくことになるはずです。ただし、補助金のように国がバックアップすることで、ガソリン車よりも購入メリットが出るというのが前提です。
トヨタ |
2030年 |
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ホンダ |
2030年 |
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日産 |
2030年 |
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スバル |
2030年 |
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マツダ |
2030年 |
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EV普及のためには充電施設の拡充が不可欠
EVが普及するためには、EVに欠かすことのできない充電施設の拡充も不可欠です。日本のEV充電施設を検索できるサイトGoGoEVに掲載されている全国の充電施設数は、約22,000か所(2023年2月時点)です。
ただし、充電時間が短くてすむ急速充電器は、このうち、約8000か所しかありません。ガソリンスタンドに比べると、まだまだその数は十分とはいえないのが現状です。
政府は2030年までに急速充電設備を全国30,000基に拡大する目標を掲げ、補助金制度も設けていますが、思うように進んでいないのが実情です。設置費用は補助金でその多くを賄えるものの、ランニングコストやメンテナンス費などを考えると、現状の利用頻度では利益を見込むのが難かしいという事情があります。
EVの台数が少ないため、稼働率が上がらず利用料だけではビジネスとして成立しにくいのも現時点の課題です。そのため、現状では商業施設や遊興施設など利用者が大勢集まる施設が、利用者向けのサービスの一環として設置するケースが多く、ガソリンスタンドのように充電サービスだけを提供する充電ステーションといった施設の普及はそれほど伸びていません。
EVシフトは遅れるが新しい領域に活路を見出す日本
EVシフトという点では欧州や中国が、再生可能エネルギーへ展開していく点では欧州が日本の先を行っているのは間違いのないことです。しかし、EVX(Electric Vehicle transformation、EVトランスフォーメーション)という新たな領域にカテゴライズされるビジネスはEV開発や生産、インフラ整備だけではありません。
- EMS(Energy Management System、エネルギーマネジメントシステム)
- VPP(Virutual Power Plant、仮想発電所)
- EVフリート:商用車を電動化し、デジタル技術を用いて、車両を管理するシステム
- V2X(Vehicle to X):自動車と自動車以外の相互連携を総称する技術
上記のようなEV周辺のビジネスでは、欧州や中国が先行しているわけではありません。むしろ、欧州や中国ではEVシフトが先行し、このあたりは棚上げにされています。さらに、このようなサービスは、日本がこれまでに培ってきた技術力や繊細なサービス構築を活かせる領域でもあり、これからでも十分、世界と戦うことのできるビジネスであるといえます。
日本の先行企業は上記領域において、すでに事業開発に取り組んでいます。しかし、その多くは市場に投入されているEVの数が少ないために小規模な実証実験にならざるを得ず、社会実装のフェーズに進めずにいます。この問題の解決方法として「実証実験はEVが数多く普及している欧州でおこない、そこで得た成果を日本に再輸入する」というものがあります。
参照
- UPDATE
- 2023.03.13