COLUMN
充電マネジメントを後押しするEVフリート
Fleet(フリート)という言葉の意味は「ものの集まり」です。ただ、法人車両を持つ企業においては、所有する車両そのものをフリートと表す場合があります。そのため、車両管理のことは「フリート管理」と表現されています。また、フリートという言葉で表す車両は、法人所有の車両(あるいは事業で使用する車両)のことであり、自家用車などの個人所有の車両のことはフリートとは表現しません。EVフリートの概要と役割について説明をしていきます。
フリート管理とは
フリート管理とは、法人や団体で所有している車両の管理と運行管理です。例えば、運送会社の場合、定刻どおりに荷物が届けられているのか、車両の点検は怠っていないか、ドライバーが危険な運転をしていたり事故を起こしたりはしていないか、事故があった場合、被害者やドライバー、荷物、会社を守ることのできる保険商品を選べているか、これらコストは適正か…。
このように車両には管理すべき項目が数多く存在します。この煩雑な管理を最適化、効率化するためのマネジメントをフリート管理と呼んでいるのです。
充電がフリートのあり様を変える
従来のフリート管理は、車両の現在位置や走行履歴、保険情報といった車両の管理がメインでした。これが、ガソリン車からEVへシフトしていったとき、どう変わるのでしょうか。もっとも大きな変化は、「給油」が「充電」に替わることです。
今までのフリート管理におけるエネルギー供給の調整は、ガソリン費の削減程度でした。そのため実施事項は、大手石油会社との法人契約というのが一般的です。しかし、EVになった場合、単に電気代の安い電力会社から充電するといった単純なことではなくなり、エネルギー領域のマネジメントの重要性が増すことになります。電力プランや充電量、充電する時間帯、充電場所、放電量などさまざまな要素が絡んでくるからです。
例えば、営業車を10台保有していたとしても、乗車する営業担当者の担当エリアや顧客数によって走行距離が変わってきます。車によってバッテリーの残量が異なるということです。営業所に急速充電設備があれば、フル充電まで数十分で済みますが、普通充電設備の場合、充電量によっては何時間もかかる可能性があります。時間的なコストを考えれば、急速充電設備のほうが効率的と思うかもしれませんが、電気代は最大デマンドで決まるため、普通充電の何倍もの電力を一気に充電する急速充電器を複数台同時に稼働させては基本料金がとんでもない額になりかねません。 そもそも、急速充電器は普通充電器よりもかなり高価なので、何台も導入するのは初期投資が膨らみ過ぎるという課題があります。また、電気代は時間帯によって価格が違うため、安い時間帯にいかに効率よく充電するかが大切になってきます。フリート管理において重要な要素に移動ルートの最適化があります。配送車であれば、荷物の集荷場所や配達先、配達時間、渋滞状況などのデータをもとに最適な配送ルートを割り出し、配達時間を効率化して配達遅れを防ぐことで、利用者の満足度を向上させることができます。また、生産性も高める効果が期待できるため、多くのフリート管理システムで導入されています。 EVの場合、ここに経路充電の要素が加わります。営業所外で充電の必要が発生した場合に、近くの充電ステーションや充電時間を考慮したルートの最適化を行う必要が出てくるわけです。こういった話はほんの一例でしかありませんが、ガソリン車がEVへ替わることで、フリート管理にどれほど影響が出るのかは感じていただけたと思います。
データの利活用こそがフリートの価値
こういった新たなニーズに応えるフリート管理システムを開発してお客様の利便性を高めるという事業モデルは容易に想像できますが、EVフリートが秘める可能性はこの程度のものではありません。
EVフリートを適切に行うには、充電の最適化のために企業のエネルギー利用におけるデータを収集し分析する必要があります。つまり、その企業にとって最適な電力プランを把握できるということで、もっとも適した電力プランの提案や熱源などガスの提案にもつながるということです。
EVの使い方や走行データとバッテリーの劣化データを組み合わせることで、どのような走り方、充放電サイクルをしたEVのバッテリー劣化が激しいのかというデータを取得できます。このデータは充放電の制御に活用できるだけでなく、EVの大きな課題の1つである中古車価格の改善に使うこともできるはずです。また、EVの移動に関するデータを活用することで、最適な車両構成や入れ替え時期を割り出すことができ、車両の入れ替えタイミングを見計らった営業が可能になります。
そして、エネルギーとEVの走行データの両方を持っていれば、VPPやリソースアグリゲーションビジネスに活用できるため、より大きなビジネスへつなげることもできるでしょう。
EVフリート領域の可能性に気づいている企業は、いち早く動き出しています。例えば、Amazonの子会社であるAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は、ABB社と共同でEVのリアルタイムフリート管理のためのクラウドベースのデジタルソリューションを開発する提携を結んだと2021年 3月に発表しました。これによって、アマゾンは収集したビッグデータを活用してアマゾン電気やアマゾンEVの販売を視野に入れていると思われます。
アマゾンは自社の配達車をEVにしようとしており、そこのグリッドデータをABBと共同開発するEVフリートシステムで取得しようとしているのではないでしょうか。国内においても、パナソニックや富士通といったテクノロジー企業がクラウドを活用したEVフリートビジネスに乗り出しています。今後、間違いなく競争が激化していくであろうEVフリート領域ですが、ここで事業化を試みるには、取得したデータを活用してどのようなビジネスを展開するのかをきちんと精査することが必要です。EVフリート領域はフリートを通じて取得できるデータからいかに価値を生み出していくかが、事業価値の拡大につながります。
しかし、取得できるデータはとても幅広く膨大なものになるため、明確な戦略のもと、取得データを絞り込んでおかなければ、データの利活用にたどり着く前にとん挫してしまう可能性があります。データ分析には収集するにも、AIで解析するにも、その準備としてデータを加工する際にもコストが発生するので、展開するビジネスから逆算して必要なデータを明確にしておくようにしましょう。
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- UPDATE
- 2023.06.02