COLUMN
EV普及のカギを握るエネルギーマネジメントシステム(EMS)
エネルギーマネジメントシステム(EMS)は、その名称の通り、エネルギーマネジメントをサポートしてくれるシステムのことです。エネルギーマネジメントとは、施設や工場、ビルなどで使用されているエネルギーに関するデータを収集・分析し、可視化した後に最適化してエネルギー消費のムダを省く取り組みです。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)
EMSにHouseの「H」がつくと住宅のエネルギー効率化を行う「HEMS」になり、Buildingの「B」がつくと「BEMS」といって、ビルのエネルギー効率化をマネジメントするという意味になります。そのため、EVが紐づいた場合も目指すところは同じで、EVのエネルギー効率化、主に充電の制御という話になります。
EVを複数台導入すると、どうしても電力使用量のピークを調整する必要が出てきます。ピークを調整する主な方法には2種類あります。ピークカットとピークシフトです。
ピークカットとは、昼時などもっとも電力使用量の多い時間帯にEVへの充電を行わないようにして使用量を削減することでピークを低くする方法であり、ピークシフトとは、電力使用量が少ない夜間などへ充電時間をシフトすることでピークを低くする方法です。
いずれも制御方法自体は簡単です。ピークカットであれば、充電をオフにすればいいだけですし、ピークシフトについても充電時間を夜間にタイマーで設定するだけです。ただ、簡単な操作とはいえ、人が毎日、この作業を行うのは煩わしいものですし、うっかり忘れてしまうということもあります。ところが、一度でも制御し忘れてピークが高くなってしまうと1年間は高い電気代を払わなければならなくなってしまいます。そこで、間違いなく制御するためにシステムを導入するのです。この制御システムがEMSです。
また、工場や事業所のエネルギー使用状況を詳しく把握しようと思えば、EVだけでなく、事業所全体のエネルギー使用量に関するデータを収集し、ムダなものがないか分析しないといけません。これを人の手によって行うには大変な労力が必要になります。こういった手間を省き、分析・制御の正確性を高めるためにも、EMSは使われています。
目的に応じたEMSの制御レベルを見極める
EMS領域で事業化を考える上でポイントとなるのは、どこまで精緻に制御するのかという点と、どこまでのデータを取得するのかという点です。ピークカットやピークシフトを制御するだけであれば、対象が事業所などであってもそれほど難しいことではありません。
例えば、事業所の電力使用状況を時間単位で取得し、1日のうちの1時間ごとの平均的な電力使用量がわかれば、もっとも使用量の多い時間帯だけEVへの充電をオフにするか、少ない時間帯に充電タイミングをズラすだけですみます。しかし、より精度高くピークを抑えようとすると、事業所の設備毎の電力使用状況、それによるデマンドの変化など多くのデータを収集してAIに学習させ翌日、数時間といった未来を予測しながら制御する必要があります。さらに、VPPによってEVを調整力として活用するとなると、より精緻な制御ができるようにシステムをつくり込まなければなりません。
当然ながら、システムが高度化していくほど開発コストは上がっていきます。また、精緻な制御を目指すほど収集すべきデータの種類も量も膨大なものになり、そのビッグデータを蓄積・解析するためのコストも、データを集めるためのセンサーといったデバイスにかかるコストも膨らんでいくことになるのです。そのため、EMS領域に参入する場合は、自社がターゲットとする顧客層とそこで求められている制御の精度を丁寧に調べ、設定する必要があります。そこが明確になれば、逆算して必要なデータとそれを収集するためのデバイス、ビッグデータ量に見合ったストレージや分析システム、EMSの機能を明らかにして、無駄な投資を避けることができるでしょう。
現実的な話をすれば、EMSにもっとも多く求められる機能は、エネルギー使用の効率化によるコスト削減です。アグリゲーターとしてVPP事業を手掛けるところまで見据えていないのであれば、それほど精緻なEMSは必要ではありません。
関連資料ダウンロードリンク
- UPDATE
- 2023.06.02