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EV化に伴うバリューチェーンの変化

EXECUTIVE SUMMARY

ガソリン車からEVへシフトすることで、バリューチェーンにどのような変化が生まれるのでしょうか。それは単にエンジンが電動モーターに置き換わるという単純な話ではありません。自動車が電動化することによってエネルギーインフラやIoT、ネットサービスなどと繋がるコネクテッド化やサービス化が進み、モビリティの在り方が変わっていきます。そうなれば当然、自動車のバリューチェーンも変化していかざるを得ません。

バリューチェーンの変化

部品点数の減少

ガソリン車の部品点数はおよそ3万点にも及びます。これがEVになると約2万点か、それ以下にまで減少するといわれています。大きな理由の1つは、約1万点の部品からなるエンジンが比較的構造が単純な電気モーターに置き換わるからです。加えて、エンジンがなくなることで、燃料タンクなどの燃料系から点火プラグなどの燃焼系、オイルポンプをはじめとした潤滑系、マフラーなどの排気系まで、様々な部品も不要になります。

また、ガソリン車にはエンジンやトランスミッション、ブレーキ、サスペンションなどをそれぞれ制御する電子制御ユニット(ECU)が、60〜100個ほど搭載されていますが、EVになるとこのECUも半分以下に減るといわれています。このように部品点数が減っていけば、「すり合わせ」しなければならない手間も減少します。

例えば、ガソリン車の場合、エンジンやサスペンション、ボディといったモジュールのすべてが乗り心地に影響しています。そのため、個々のモジュールの品質だけを高めたり、各モジュールを単に組み合わせたりするだけでは乗り心地はよくなりません。そこで、自動車業界では、各モジュールが連携したときに乗り心地がもっとも良くなるように、OEMメーカーとサプライヤー間ですり合わせを繰り返し、モジュール同士に調整を加えながら組み合わせることで質を高めていく開発手法を長年採用してきました。すり合わせは、各モジュールを構成する部品ごとについても行われています。つまり、ガソリン車は、莫大な回数のすり合わせと、エンジンをはじめとしたOEMメーカーのコア技術によって、ブランドごとに競争優位性や特徴を生み出しているのです。

自動車業界が、OEMメーカーを頂点に、Tier1、Tier2、Tier3が素材や部品を供給する垂直統合型の構造になっているのは、すり合わせを行いやすいという側面もあります。OEMメーカーの考え方を理解しているサプライヤーが集まってサプライチェーンを構成していたほうが、「あ・うん」の呼吸が通用し、すり合わせの手間を減らせるからです。

ところが、EVになると、電子部品が数多く使用されるようになり、サプライヤーが大きく変わります。これまで付き合いのなかった電気/電子部品メーカーとの取引が増えていくことになります。バッテリーは、基本的に外部のバッテリーメーカーから調達するケースが多くなると考えています。外部から広く調達するようになれば、その分規格の標準化も進むことになります。

バッテリーメーカーにしてみれば、自分たちが標準でつくっている仕様で大量生産したいと考えます。OEMメーカー1社だけ、もしくは1つのブランドだけで採用されるよりも、複数社、複数ブランドにおいて採用されるほうが、コストメリットが大きいからです。そうなると、従来のようなすり合わせ型開発の必要性は下がるか限定的になっていくはずです。そして、家電業界がそうであるように、調達した部品やモジュールを組み合わせる「組み立て型」の開発スタイルが主流になっていくと考えられます。つまり、組み立てが容易になるわけです。

EVは参入障壁が低い

このような変化は、EV開発・生産への参入障壁を下げることも意味しています。

ガソリン車の開発・生産は、OEMメーカーが車両全体をインテグレートして、Tier1、Tier2、Tier3がOEMメーカーの指示のもと、部品や素材などの供給を担う垂直統合型の構造になっています。このほうが、OEMメーカーが思い描く自動車を効率よく開発・生産することが可能だったからです。

また、垂直統合型の開発手法だと、多岐にわたる部品や組み立てに関わるノウハウを囲い込みやすいというメリットもあります。そして、このノウハウをベースにし、各メーカーは新車開発のたびに何度もすり合わせを繰り返しながら品質を高め、ブランド独自の特徴や個性を磨き上げていました。そのため、ノウハウを持たない新参者が参入しようとしても、非常に高いハードルに跳ね返されることが多かったのです。

異業種EVの活性化

一方、EVの主要部品は、モーター、バッテリー、インバーターなどで、エンジンに比べればシンプルな構造で部品点数も大幅に減少します。その分、異業種からの参入が比較的容易だといえます。事実、中国の通信機器大手であるファーウェイは商用車メーカー・小康工業集団と共同でEVの新ブランドを立ち上げ、販売をスタートしました。

ファーウェイは、スマートフォンやパソコンなどの弱電から蓄電設備といった強電まで、電力変換と制御に関する幅広い技術を持っているといわれていますが、EVは専門外で異業種からの新規参入となります。アップルは、2025年に完全自動運転に対応できるEVを発売すると現地のメディアが報じていますし、 2022年 1月には、ソニーがEV事業のための新会社「ソニーモビリティ株式会社」を設立して、販売を含むEV事業への本格参入を表明しました。異業種EVが活発化している背景には、「ハードウェアとソフトウェアの分離」「ファブレス生産」というEV特有のキーワードがあります。

異業種EVの活発化要因1.ハードウェアとソフトウェアの分離

「ハードウェアとソフトウェアの分離」がなぜ起こるのかを説明するには「CASE」について触れておく必要があります。「コネクテッド(Connected)」、「自動化(Autonomous)」、「シェアリング(Sharing)」、「電動化(Electric)」の頭文字をとったCASEは、今後の自動車の進化軸だとされていますが、これらの方向へ高度化していく自動車を開発するには、これまで自動車業界が培ってきた機械技術を進化させていくだけでは対応できないのが現実です。最先端の電気・電子技術やAI、IoTといった情報処理技術も連携させながら開発しなければならないからです。

現代の自動車は「走るコンピュータ」などといわれるように、エンジンや駆動系の制御、ウインドウの駆動など、数多くの車載電気・電子機器が搭載されています。しかし、今後、高度化していく自動車には今以上に多種多様な用途が求められるようになります。EVの快適な運転性を向上させるためにはモーターやバッテリー、インバーターの制御が欠かせません。自動運転を実現するには、画像処理技術や交通インフラと通信することで得たデータを処理して、自動車の挙動を制御するシステムと連携させることが不可欠です。シェアリングサービスなどのモビリティ・サービスを提供するには、サービス・プラットフォームと連携する必要があります。電力の調整弁としてEVが活用されるようになれば、当然、充放電を制御する機能も進化させていかなければならないでしょう。さらに、こういった各機能同士も連携させる必要があるため、従来の自動車とは比べものにならないほど複雑で大規模なシステムを構築しなければならないことになります。

システムが複雑になればなるほど、増大するコードに対処しなければならず、ソフトウェア人材の確保という問題も発生します。こうなると、ハードウェアとソフトウェア両方をOEMメーカーが担うという従来の垂直統合型の開発スタイルは現実的ではありません。徹底した安全性の確保が求められる部分ー車体をはじめとしたハードウェアの部分ーとそこに付随する「走る」「曲がる」「止まる」といった基本機能に関する制御については、これまで通りOEMメーカーの領分ですが、その他、大部分を占めるソフトウェアの領域は切り離さざるを得ないでしょう特に、モビリティ・サービスに関わるシステムは、サービスの開発サイクルが短いうえ、サービスの質向上のために頻繁にバージョンアップする必要があるなどハードウェアからは切り離してクラウド上にソフトウェアを置いておくほうが何かと便利だからです。そうなると、ハードウェアとソフトウェアはそれぞれの専門プレイヤーが担い、互いに連携する水平分業化が進展していくことになります

異業種EVの活発化要因2.ファブレスEVメーカーの台頭

異業種からの参入増加を考えるうえで、もう1つ重要なキーワードが「ファブレス生産」です。部品点数が減り、従来のすり合わせによる開発の必要性が減少したことで、ファブレス生産がしやすいというのがEVの特徴の1つだといえます。

ファブレス生産とは、自社工場を持たずに企画や設計だけを担い、製造は他社に委託する開発・生産スタイルです。実は、ソニーのEV事業もこのファブレス生産を採用しているといわれています。EVの企画などを担う新会社を設立して、試作車両の製造については、独自のEV車体製造プラットフォームを持つカナダのマグナ・インターナショナルがパートナーになっています。マグナは世界最大の自動車受託製造会社であり、かつ大手部品サプライヤーです。2021年10月、物流大手のSBSがラストワンマイル用EV商用車として国内初導入したEVトラックも、京都のファブレスEV・ベンチャーと中国の自動車メーカーが共同で開発・生産したものです。海外でも同様のケースはいくつも例があります。

アメリカのフィスカー社はアメリカで初となるファブレスEVメーカーであり、自社ではデザインやアイデアだけを提供して、生産はもちろん、メンテナンスなどのアフターサービスもすべて外注で賄っています。アップルのiPhone最大の製造受託先である台湾のホンハイは、新規事業としてEVの受託製造事業を始めるにあたり、EV開発・製造の技術力を潜在顧客=ファブレスEVメーカーにアピールするため、独自開発したEVの試作車を公開しています。

このように、車体の受託生産を請け負う企業の存在が、車体製造のノウハウを持っていない異業種からのEV事業参入を後押ししているのは間違いありません。それは、従来のOEMメーカーを頂点とした垂直統合型の開発・生産構造が大きく様変わりしていくことを示唆しています。これまでは自動車業界をけん引してきたOEMメーカーが「移動」を前提とした「良い自動車」をつくるために企画から組み立てまでを担ってきましたが、これからは異業種が従来の発想とは異なる新しい視点から自動車の価値を生み出していくことができるようになります。ここに新しいビジネスのチャンスが生まれてくるというのがリブ・コンサルティングの考えです。

UPDATE
2023.06.01
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