COLUMN
EV×MaaSの融合によるビジネス
EV化に伴い、MaaSの価値が再定義されようとしています。MaaSという領域は、移動をより低コストで便利にする統合サービスとしての位置づけが主でしたが、今後EV車両へと置き換わると想定される中で、新しいビジネスの可能性が生まれています。
例えば、カーシェアの提供と電力の需給調整弁としての活用をすることで、カーシェア事業単体だけでない収益を上げられるモデルが実現できると考えられます。本モデルにおける課題はあるものの、EV×MaaSの融合によりユーザーにとってより便利な移動サービスが生まれてくる可能性が高まってきています。
MaaSとは
MaaSという概念は、できるだけ便利で安く、モビリティをアズ・ア・サービス
化していくということです。
自動車の「移動」機能を複数名で共有するカーシェアや「座席」を共有するライド
シェア、タクシーやバスなどのオンデマンド化といったように、すでに私たちの暮らしの中で利用されているサービスもあれば、1つのアプリで車や電車、バス、タクシーなど公共交通サービスの経路検索や決済が可能になる交通統合型MaaSのように社会実装に向けて検討を重ねているサービスもあります。
出典:国土交通省HP『日本版MaaSの推進』より
出光興産では、観光地である飛騨高山で「オートシェア」というEVカーシェアサービスを展開。入会費や年会費無料、スマホで会員登録してすぐに利用できる仕組みにすることで観光の足としての需要の取り込みを図っています。
EVとMaaSの融合における変化
このようなMaaSで利用されているモビリティがガソリン車からEVに置き換わ
ることで、いったい何が変わるのでしょうか。
1つは、事業にカーボンニュートラルという文脈が入ってくることです。例えば、MaaSビジネスの運営会社にとっては、事業のCO2削減効果を手にできます。環境対策に取り組んでいるというブランドイメージが浸透するのもプラスの効果でしょう。
また、環境意識の高いお客様から自社サービスを選んでもらえるというメリットも
あります。欧米など環境意識の高い国では、タクシーの配車を頼むときやライドシェアで車を手配する際、ガソリン車かEVかを選択できるサービスがあります。EVはガソリン車を呼ぶよりも多少割高であるにもかかわらず、EVを選ぶ利用者が少なくないといいます。このように利用料にインセンティブがつけられる点では、収益増につながりやすいともいえます。
しかし、「お客様から選ばれる」という優位性は、EVの普及に伴なって薄れてい
く、時限性の価値といえます。世界がカーボンニュートラルの実現に向けて普及促進施策や規制の強化に力を入れていることを考えれば、早晩、ガソリン車はEVをはじめとした電動車へ切り替わっていくはずです。EVが当たり前となった世界では、「EVだから選ぶ」という価値観はなくなってしまいます。そのため、やがてくる未来を見据えて、EV×MaaSにおける新たな収益確保の道を探っておく必要があります。
EV×MaaS領域で注目すべきバッテリー価値
EV×MaaSにおいてもっとも注目すべきは、バッテリー価値だといえます。MaaSで利用されている車両は、すべてが常時稼働しているわけではありません。カーシェアにしろ、オンデマンド交通にしろ、駐車場などで待機している時間がそれなりにあるものです。
近年、コインパーキングとカーシェアを一体化させたサービスが普及していますが、平日、パーキングに停車したままのカーシェア用自動車をよく見かけるはずです。自家用車のほとんどが平日に使われていないことを考えれば、こういった状況は容易に想像できるでしょう。
この稼働していない車がガソリン車であれば、そのまま置いておくしかなく、有効
活用することは難しいかもしれません。しかし、EVの場合は、バッテリーを蓄電池として利用することができます。例えば、停車中のEVのバッテリーを束ねて電力需給の調整力として活用(詳細はVPP参照)する方法が考えられます。
そうすることによって、シェアリングサービスとしての収益だけでなく、調整力取引による収益も見込めるようになるわけです。
分譲マンションの場合、EV用の充電設備を設置しにくいためにEV導入が進まな
いという問題があります。多くのマンションでは、設備導入に管理組合の承認が必要ですが、マンション住人全員がEVを購入するわけではないため、導入費用やランニングコストの負担をどうするのかといったことで意見がまとまらないケースが非常に多いのです。しかし、敷地の一角を利用してマンション住民が優先して使用できるEVカーシェアリングサービスを提供するだけでなく、バッテリーの蓄電池利用によって得られる収益の一部をサービス運営会社がマンション側に還元するスキームを組めば、マンションへのEV導入が進むかもしれません。
ただし、バッテリーの蓄電池利用を促進する場合にも課題があります。それが、ユーザビリティとバッテリー価値のバランスをいかに設計するかという点です。バッテリーを蓄電池利用して調整力を提供する場合、例えば、「30分後に放電してください」、「〇月〇日の15時〜17時の間は充電しないでください」といった指令に従わなければなりません。指令に従わない場合、ペナルティが発生してしまうことになります。そうなると、その時間帯にEVを使いたい利用者がいても断ることになります。利用者の利便性を阻害してしまうことになるわけです。
このようなことが幾度も繰り返されれば、カーシェアリングサービスの提供は難し
くなってしまいます。一方、運営会社側の視点で考えれば、仮に蓄電池利用のほうが多くの収益を上げられるのであれば、カーシェアリングを縮小してでも蓄電池利用のビジネスを優先していきたいという判断もあり得ます。
いずれにしても、何を優先して、何を妥協するのか。両者のバランスをどのように
考え、ビジネスを最適化していくのかが、EV×MaaS領域でバッテリーの蓄電池利用を検討する際の大きなポイントになるのは間違いありません。
この点を考える際のヒントになるかはわかりませんが、スクールバスが昼間は稼働していないように、ある程度稼働時間がはっきりしているEVを活用するという方法はあると考えています。これであれば、利用者のユーザビリティを確保しつつバッテリー価値を最大化することができるかもしれません。
ただし、MaaSと蓄電池利用の併用モデルはコストとトレードオフであり、バッテリーが非常に高価な現状ではコストアップになってしまうケースが少なくありません。また、バッテリーは充放電を繰り返すほど劣化が進むため、併用した場合の劣化度合いといったデータを取得していく必要があるかもしれません。
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- UPDATE
- 2023.06.01