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EV新規事業開発における事業性評価の極意

EXECUTIVE SUMMARY

事業仮説の構築を終えたら、次はその事業性を正しく評価して、Proof of Concept(概念実証)や実証実験へ進むかどうかの判断材料とします。評価項目は「リターン」「リスク」「インパクト」の3つの大項目に区分し、それぞれ中項目、小項目と解像度を上げながら評価していきます。

新規事業開発の極意

仮説の事業性を評価する

上図の評価項目は例であり、すべての企業、事業に当てはまるわけではありませんが、重要な項目を選んで設定しているので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。この3大項目の中でも、近年重視されているのが、「インパクト」です。これは、事業活動を通じて生じた環境的、社会的な変化や便益などのアウトカムのことであり、ESG経営、ESG投資が重要視される昨今の流れの中で、注目度が高まってきています。社会的インパクトを正しく評価する仕組みを構築してインパクトファイナンスを実施しようという動きも金融機関や投資家の間で広がっています。

例えば、「経済効果」という項目では、「地域経済や雇用創出に、プラスの影響があるか?」という視点で評価します。仮に、オンデマンド交通を事業化して、過疎化が進んでいる地域の交通弱者といわれる方々の外出を10万人サポートするという事業モデルだったとしましょう。この場合、思うように外出できなかった人たちが街の中心街まで出かけられるようになり、そこで買い物をすれば、地域にお金が落ちて地域経済が潤います。地域の企業が元気になれば、雇用も促進され、地域全体の活性化にもつながっていくなど、経済効果が期待できるといった具合です。

「先進性・独自性」という評価軸であれば、Gachacoがいい例でしょう。交換式バッテリーを積んだ二輪車によるバッテリーシェアリングサービスというビジネスモデルは国内初のものであり、オートバイの国内大手4社が提携して電動二輪車の標準化に取り組んだという点も特筆すべき試みだと思います。

EVX領域のリターンとコストは長期的視点で判断

「リターン」と「リスク」で設定している評価項目はどのような事業でも行うものです。ただ、EVX領域の場合、リターンを長期的にみることが大切になります。通常の事業開発では、「3年で黒字、5年で数10億円〜100億円ビジネス」といったスケジュール感で事業性を判断するケースがありますが、EVXにこの考え方を当ては
めるのは非常に危険で、短期的に見てしまうと、ほとんどのビジネスが赤字になってしまう可能性があるからです。

今後、成長が約束されている領域だけに事業開発に挑んでいる企業はたくさんありますが、そのほとんどが実証実験段階で止まっている状況であり、社会実装フェーズまで進んでいるものが少ないという現実があります。しかし、EVフリート領域でいえば、アマゾンのようなテックジャイアントが取得可能な膨大なデータの中でマネタイズ可能なビジネス展開を創造すれば、一気に収益化を図っていくことが可能だったりします。

また、規制緩和や法整備が進んでいないため、四輪車の交換式バッテリーなどマネタイズしたくてもできないというビジネスもあります。そのため、リターンに関する評価は、2030年をターゲットとして設定するなど、長期的な視点を持ちつつ、EVの普及状況や充電インフラの整備動向などを見ながら判断する必要があるでしょう。そうなると、必然的に「コスト」の評価基準となっている「初期投資額+ランニングコスト額が、全体利益の半分以上か?」もGo/No Goを判断する際には比重を下げることになります。

「リターン」の評価項目のうち「参入可否」についてもしっかり議論する必要があるでしょう。充電インフラ事業などを例に考えるとわかりやすいと思いますが、シェアを大きく押さえなければ収益化が難しいことがわかっているため、先行している大手企業が大きな投資を行い、シェア獲得に力を注いでいる状況です。そこへ後発として入っていく余地が残っているのか、参入後に自社の優位性を発揮できる差別化要素があるのかは、非常に重要な論点になります。これらを総合的に考えると、EVX領域で事業を成功させるには、継続的に投資を行える体力がある企業や大手企業の出資を多く集めるだけの技術を有したベンチャー企業が中心になるだろうと予想されます。

事業性の評価の視点設定事例
各事業性評価における総合判断基準

EVX領域の継続性

ここまで厳しい話ばかりになってしまいましたが、継続性については評価を辛口にする必要はありません。EVシフトは世界中がコミットして推進していることであり不可逆性のあるドメインだからです。一過性のブームやトレンドで終わるようなことは決してないでしょう。さて、このような評価を一つひとつ吟味しながら事業性を判断していくわけですが、結果が芳しくない場合もあります。そのとき「多少悪くても、苦労してここまで来たのだから」と実証段階へ進めてしまってはコストがかさむだけでいいことはありません。そのため、事業性評価は、大項目のすべてに「〇」以上の評価がつくものが「Go」、中項目、小項目で「×」がいくつ以上つくと「No Go」というように、明確なGo/No Goの判断基準を事前に設計したうえで厳格に行うことが重要です。

UPDATE
2023.06.02
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