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4年間で成長率2倍を実現したヤフーのセールスイネーブメントとは
Yahoo!ショッピングは1999年からECプラットフォームとして活動しており、eコマース革命と題して、出店料と売上ロイヤリティの無料化をすることによってeコマースを活用する企業を増やしていきました。そのヤフーではどのように営業活動を行い、どのようにセールスイネーブルメントを実現したのかをご紹介いたします。
セールスイネーブルメントとは
セールスインネーブルメントとは、日本では2021年〜2022年頃から取り上げられるようになった概念であり、営業が成果を出し続ける仕組み、アプローチのことを意味します。
成果が出ない営業組織の特徴
セールスイネーブルメントは成果を出し続ける営業の仕組みやアプローチのことです。あるべき姿としては次の3点の一貫性が取れているという特徴があります。
- 外部環境(競合や市場の動向など)を踏まえて誰にどのようなサービスを提供するのか
- 戦術としてどのように提供していくのか
- 実施するための組織や人材
反対に、営業組織がうまくいってない会社では次のように、どこかに歪みが起きていることが非常に多い傾向があります。
- 環境と戦略・戦術の整合性が取れていない
- 戦略と戦術の間で分断が起きている
- 環境と戦略・戦術は一貫しているが実施に最適な組織体制になっていない
狭義のセールスイネーブルメントと広義のセールスイネーブルメント
環境から戦略・戦術、組織人材の一貫性を正しく作っていくことがセールスイネーブメントです。会社によっては単純に次のように狭義の意味で捉えているところもあります。
- 営業教育
- 営業ツールを活用した社内のナレッジ共有
- 営業のスキル開発
しかし、継続的に成果を出していくという意味では、全体の一貫性が大きなポイントになってきます。
セールスイネーブルメントの4つの要素
セールスイネーブルメントを実現するための一貫性をとるためには4つの要素があります。
- ワーク領域
- ナレッジ領域
- ラーニング領域
- ピープル領域
ワーク領域
ワーク領域は営業活動のプロセスを組織内で標準化をしていくことです。営業プロセスを環境から戦略・戦術まで考え、どの商材をどういう顧客に対してどう売るのかという部分のことです。
ナレッジ領域とラーニング領域
ナレッジ領域は営業活動しやすいようにナレッジやノウハウを整理、資料化をすること、ラーニング領域はOJTや1on1ミーティング、営業研修などのやり方で定着させることを意味します。実際に戦術を実行する際にはナレッジによるものが大きく、習得していくのがラーニング領域です。
ピープル領域
ピープル領域は営業に必要なスキルや経験を定義することです。組織や人材の採用・育成・評価・活性化などが該当します。
Yahoo!ショッピングの営業について
Yahoo!ショッピングでは、eコマース革命ということで基本的に無料で出店ができます。ただ、それではヤフーの売り上げにならないため、ヤフーの営業担当は出店企業の売上目標を達成するための有料広告の提案を行っていきます。Yahoo!ショッピングはAmazonや楽天と比較するとビハインドしている状況ではありますが、無料で出店できるということもあり、SMB(Small and Medium Business、中堅・中小企業)が中心に利用しています。
そのSMBに対して営業活動を行っていくというのがYahoo!ショッピングの営業の中心です。
ヤフーの営業の特徴
ヤフーの営業の特徴は以下の3つです。
- 圧倒的稼働率
- 潜在課題の発見
- 適切なソリューション提案
圧倒的な稼働率
普通の企業では提案資料作成や社内手続きなどに追われ、営業の割合は10%〜15%くらいが平均です。対して、ヤフーの営業の稼働率は76%となっています。通常の企業の5倍以上は営業をしている計算になりますが、原則的には余計なことは全くしないことを徹底しています。
月曜日は調整で1on1ミーティングで上司と1週間の動きを確認していますが、そこからは本当にアポ取りと案件フォロー電話を行い続けます。1日に2回ほど商談がありますが、これは既存企業に広告の提案や出稿量の提案などの活動を行っています。そして、1日の終わりに必ずKPI修正を行い、毎日の活動を振り返るようにして、19時までに業務を終えて次の日に臨むというサイクルを繰り返しています。
このように、極限まで付帯業務を減らして高い水準の稼働率を担保しているところがヤフーの営業の1週間です。
行動量を担保する起点になるのはKPIです。ヤフーではKPI設定が非常に細かく、通常の企業では1週間〜2週間で確認するKPIをヤフーでは毎日行うというのが大きな特徴です。毎日確認しながら週次の1on1で上司と見直すというサイクルを繰り返しています。
下記はヤフーのKPI項目の一例ですが、ヤフーではこれ以外にも細かいKPIを設置しながら営業活動っていうのを行っています。
- 架電数
- 架電カバー率
- 通話時間
- 商談数
- 受注率
- 注力商品受注数
- 注力商品売上金額
- 広告売上達成率
- 流通金額達成率
- 広告比率
- 優良店数達成率
- セールス企画エントリー数
- キャンペーン商品受注件数
- 顧客の売上目標入力率
潜在課題の発見
Yahoo!ショッピングでは膨大なデータ量を扱っていて、その中で改善点を発見しながら営業活動していきます。データとして、大きくは3種類あります。
- モールデータ(Yahoo!ショッピング全体の市況感)
- 企業ごとの個別データ
- 企業ごとの商品データ
この3つの掛け合わせで顧客課題を発見していくようにしています。
課題の提案では漠然と「この辺が良くないので変えていきましょう」というよりは論理立てて提案していくように設計しています。営業担当は顧客企業がYahoo!ショッピングでどれだけの売上を作っていきたいのかという目標設定の合意をし、そのギャップがどこにあるのかを観測し、このギャップをデータを使って特定するようにしています。
ギャップを特定できた後は課題の解決をするために、どの広告を使うことでギャップを埋められるかの提案ロジックを組み立てていき、その進捗を把握しながら売上との差分を確認するといったサイクルを回していきます。このような形で常に顧客課題を先手で把握をしていきながら営業活動していく、ということをしています。
適切なソリューション提案
顧客成果にこだわることは当たり前ではありますが、ヤフーの営業では商品数が膨大であり、例えばバナー広告だけでも200種類以上ありますので、提案難易度が高いのが特徴です。しかし、逆をいえば、Yahoo!ショッピングの営業担当は扱う商材にこだわって営業しているといえます。顧客にとって最適な点が何かを考え抜くことが非常に求められます。
また、課題を解決するための提案営業をしたあとに、意思決定を促すところも難しい点です。ユーザーにはSMBが多く、無料で出店できるからという理由で使っている企業も多いのが実態です。そのような中、顧客の売上目標を達成するためには有料広告を使うという提案をし、利用を促すことが求められるためです。
そのため、数値分析によりどこに課題があるのかを膨大なデータから抽出をして、200以上ある商材の中から適切な提案シナリオを組み、意思決定を促していくような営業活動をしています。
Yahoo!ショッピング拡大の裏側にあった難しさ
ヤフーでは年間150%の成長目標が毎年課されています。非常に難易度が高い営業であるということです。競合の強さではAmazonと楽天と比較すると圧倒的に会員数が負けていた状況であり、プロダクトとしても実はそこまで強くなかったという事実があります。また、新しく立ち上がった組織でもありますので、十分な人員が確保できていませんでした。
当時の組織構成は正社員が約20%、契約社員が約80%ということで圧倒的に契約社員比率が高い営業組織でした。
しかも、この契約社員の経歴では、営業の未経験の方、新卒数ヶ月やめてしまった方、フリーター、元バンドマンなど、これまで営業に携わってなかった方を多く採用しています。
大手企業はAmazonと楽天が押さえていることもあるのでヤフーが差別化していくためにはSMB開拓をしなければならないという事情もありました。営業人員の不足を契約社員で補っていく戦略を取り、20%の正社員の中でマネージャーが中心になって、必要なKPIはどれくらいなのか、どの企業の確度が高くて、そこに対する顧客課題は何で提案内容どうしたらいいか、ということを契約社員の営業メンバーに落とし込み、半年から1年で自立をしていくというように育成をしていました。
ヤフーのセールスイネーブメント
ヤフーのセールスイネーブルメントの仕組みとしては大きく、次の3つが挙げられます。
- 営業メンバーを活躍させるマネージャーの役割
- マネジメントサポートする仕組み
- ツールと仕組みを機能させる制度
営業メンバーを活躍させるマネージャーの役割
ヤフーの平均的なチームは営業マネージャー1人に対して営業メンバー15名(正社員3名と非正規雇用12名)という構成です。一般的なマネジメント可能人数は5人から7人ぐらいといわれていますので、かなりマネージャーに負荷がかかる構成です。
営業計画、架電、提案、KPI修正、次回アクションの設定、営業メンバーがつまずくポイントに対してマネージャーが細かく考えて営業現場に落とし込んでいくことでマネジメントを実施してました。
マネジメントサポートするツール仕組み
マネージャーの力量次第で大きく売り上げが前後してしまうということもあるので、マネージャーの力量によらないしっかりと成果を出し続ける仕組みとしてこういったものを整えていました。
まずは、過去の実績や市場データなどをもとにどの顧客が重要顧客なのかがシステムで自動的に出てきます。そして、毎日の数値入力も一部の数値を入れることで目標達成度合いがすぐに出てくる仕組みがあり、目標とのギャップが出た瞬間にアラートが出ることでマネージャーが状況を把握しやすくなっています。
そして、データベースに分析したい企業名、期間などの必要項目を入れると分析結果が自動的に出てくる仕組みがあります。このデータをそのままPowerPointに貼り付けることで資料化できるため、ほとんど時間を使わずに資料作成が終わります。さらに、1on1ミーティングではマネージャーがハブとなって営業の成功事例を抽出し、他のメンバーにも共有する仕組みを作っています。
ツールと仕組みを機能させる制度
非正規雇用の営業社員が非常に多いので、正社員になりたいというモチベーションも働いています。正社員登用する条件として、KPIの入力修正やSFAへの入力が設けられてるので、評価制度と組み合わせながら促進していくというところがポイントになってきます。一般的な企業に言い換えれば、評価項目にKPI修正や入力を加えることで営業を推進していくことが考えられます。
まとめ
今回はYahoo!ショッピングの営業事例を紹介しました。ヤフーのセールスイネーブルメントがうまくいった条件として大きく3つの要素があります。
- 市場が成長期にあること
- 顧客ターゲットがSMBであること
- 商材のカスタマイズ性が低いこと
競合からシェアを奪うということではなく、ヤフーも選択肢の1つとして入れてもらうという形で成長期であったことは大きな成功要因です。大手企業では企業ごとにチューニングが必要であり、カスタマイズ性が低い商品を最適化することで解決できたことも大きな特徴です。