2023.03.22

三現主義とは

三現主義とは、現場現物現実の3つが重要という問題解決の考え方です。現代ではトヨタやオムロンなど、大手企業の業務体制には三現主義の考え方が取り入れられています。

便利なツールの登場や働き方の変化に伴い、人々の仕事に対する意識は大きく変わりました。そんなリモートやデータ中心の社会になる時代だからこそ、三現主義を軸とした働き方が必要です。

三現主義とは

三現主義とは、現場現物現実の3つが問題解決において重要だという考え方です。主に製造業や物流など、幅広いものづくり分野において浸透しています。

三現主義においては、次の3つが重要です。

  1. 現場に出向くこと
  2. 現物を手に取って確かめること
  3. 現実を見ること

実践している代表的な企業はトヨタやホンダなど、製造メーカーが中心です。JRやJALなど流通分野にも用いられますが、その場合は現地現物現人の3つを重視とした安全意識教育の考え方として活用されています。

原因究明に適した考え方

三現主義は、問題や原因の特定に優れたフレームワークです。現場に出向き実物を手に取ることで、正しく問題の原因が特定できるという考えに基づいています。

例えば、ある日、製造中の品物にエラー品が発生したとします。原因が不明な場合は、製造現場とエラー品の実物を見なければ、その原因を特定できません。エラー品が発生したという事実を報告されただけでは、現場にいない人間にほんとの問題は特定できないのです。

このように、問題の原因を素早く正しく特定するには、実際に現場に赴き、現物を見るのがもっとも確実と三現主義では考えます。

五現主義との違い

三現主義と似た言葉が五現主義です。これは三現主義の現場、現実、現物の3つに加えて原理と原則が加わっています。

三現主義は原因の特定を得意とした考え方に対し、五現主義は問題発生のメカニズム(原理)と、事前に防げるものか(原則)が新たに含まれます。

三現主義の重要性

三現主義は主に製造や物流で用いられる考え方です。しかし、その考えはほかの業界にも通じるものがあります。特に、リモートワークやデータ中心の業務をこなす人材にこそ、現場を重視する三現主義は必要です。

安全意識教育や企業成長につながる

三現主義の考え方は、企業の安全意識教育や企業成長を促します。

例えば、業務上で重大な事故や過失が発生した場合、その現場にいたかどうかで感じる重みや具体的な対処方法は変わってきます。他人のミスよりも自分のミスのほうが責任を感じるように、現場現物現実のリアルな状況を感じることが安全意識教育には欠かせません。

また、経営幹部が直接現場に出向くことは企業の成長性につながります。経営層や役職の高い人材が現場にいればほどよい緊張が生まれますし、人材のモチベーションも向上します。

リモート社会にこそ必要

近年、リモートワークの流行によって、オフィスや現場以外の場所でも働くスタイルがもてはやされるようになりました。たしかに、業務を現場に出向かずリモート上で完結させられるなら、効率面は現場にいるときよりもはるかに向上します。

しかしその一方で、問題が発生した場合に正しい対処や判断が下せなくなるトラブルも多発します。なぜかというと、データに依存しすぎたせいで実際の現状が正確に把握できないためです。

以下はテレワークに関する意識調査の結果です。

テレワークによるデメリット
出典:テレワークの実態!導入企業の経営者・管理職の52%が不満 ~テレワークを実施していない企業は約6 割、企業規模・地域間に格差~(株式会社 帝国データバンク)

デメリットの上位結果からも、テレワークは進捗や成果など、業務上のさまざまな要素が不透明になることがわかります。

データ基準の判断や対処法は効率的ではありますが、データでは判断しにくいものも存在すると覚えておかなければなりません。現場から離れた働き方が流行している今こそ、三現主義の考え方は必要なのです。

三現主義の事例

大手と呼ばれる多くの企業は、三現主義の考えを軸に事業を成功に導いてきました。三現主義は古い考え方ではありません。時代に合わせて三現主義の定義は最適化されつつあります。

トヨタの現地現物主義

現地現物主義を掲げるトヨタの代表取締役、豊田章男氏は、2020年5月12日に開かれた決算説明会にて以下のように説いています。

今まではとにかく現地に出向くということが当たり前のようにやられていた。例えば商品を見る時は必ず現物を目の前にしなければだめなんだということが誰も疑問を挟まないことだったが、この1か月内で商品を映像を通じて見る機会に遭遇した。そこで思ったことはどの段階で商品を確認しているのか、どの段階で自分の意見を聞いているのかということによって、十分映像でもできる段階と、ここはやはりファイスツーフェイス、現物を前にやらないといけないということが少しずつはっきりしてきた
出典:トヨタ社長「改めて現地現物の定義をしっかりすることが必要(株式会社イード)」

上記は、現代においては、三現主義の領域とリモートの領域は分けるべきだという意見です。トヨタといえば製造業のフレームワークであるカンバン方式や自動化を生み出したことで有名です。これらの製造方式も三現主義が基本軸として構成されています。

オムロンが掲げる新・三現主義

大手電気メーカーのオムロンは、既存の三現主義の考え方に高度な監視体制を取り入れる新・三現主義を提唱しています。

以下は、オムロンが提唱する新・三現主義の概要です。
必要な時だけ効率的にメンテナンスできる『新・三現主義』
出典:新・三現主義での現場革新 デジタル技術による最新リモート監視(オムロン株式会社)

上記の図から、現場現物現実をそれぞれデジタル技術によって最適化させる取り組みであることがわかります。

新・三現主義とは、現物と現実の監視体制をデータ化することによって、現場作業を変革させる考え方です。オムロンでは、製造機器に異常を検知するシステムや劣化を予見するアプリケーションを導入し、予知保全に向けたデジタルな監視体制を整えています。

現代社会における三現主義のありかた

情報化社会では、現場中心の三現主義よりもリモートワークなど業務を効率化させることばかり注目されがちです。

一見すると、三現主義は情報化社会に相反する考え方とも捉えられます。しかし、トヨタやオムロンの事例からもわかるように、三現主義はいかに技術や時代とうまく融合させるかが重要です。

データ基準の判断に頼り過ぎない

便利なツールやネットワーク環境の整備により、数字やデータだけで物事を判断する人が増えています。重大な意思決定までデータに依存してしまい、失敗する経営層が後を絶ちません。

もちろん、業務効率の向上に便利なツールや有用なデータは利用すべきです。しかし、データでは判断できない問題もあることは覚えておかなければなりません。データ至上主義な人材にならないよう、現場や現物を自分の目で確かめる意識が必要です。

IoTやAI技術を現場に取り入れる

三現主義は現場現物現実を見つめることが大切だという考えですが、全ての業務が人為的である必要はありません。オムロンが掲げる新・三現主義のように、AIやIoT技術を現場に取り入れることも現代では必要です。

故障を検知するアプリケーションや監視体制のリモート化など、技術の導入は三現主義ともシナジーがあります。重要なのは、三現主義を貫くべき領域と、技術によって効率化させたほうがいい領域を分別することです。

経営層が現場に関与する

経営幹部と現場とで現場意識にギャップが生じるケースは少なくありません。企業の上層部にいくほど、現場に出ることを面倒くさがるものです。しかし、トヨタの事例からもわかるように、現場との協調や意識向上には、経営トップこそ率先して現場に関与しなければなりません。

まとめ

三現主義とは、現場現物現実の3つが重要だという考え方です。トヨタやオムロンを始め昨今の大手と呼ばれる歴史の長い企業は、その多くが三現主義をベースとした経営体制を実践しています。

ただ、近年ではリモートワークなど、現場を重視しない働きかたが流行しています。三現主義は古い考えだという意見もありますが、そのようなことはありません。データに依存した情報化社会にこそ、現場で物事を判断する三現主義は必要なのです。

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