- 経営戦略
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとは、次世代の物流システムとも呼ばれており、将来の物流業界に変革をもたらすものです。これまで物流業界では、宅配便の増加によってドライバー不足やCO2による環境問題など、さまざまな課題が生じてきました。しかし、フィジカルインターネットは、物流企業が抱える課題を解決する手段として注目されており、物流の環境を改善することでCO2削減が可能となり、環境問題への取り組みにも貢献できると期待されています。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとはインターネットの仕組みを物流に適用した新しいスタイルです。これまでの基本的な物流は、自社で大型倉庫を構え、各地へ配送をするというスタイルでした。
一方で、フィジカルインターネットでは自社に限らず目的地までのルート上にある倉庫を経由し、最適なルートでの配送を実現します。2022年には政府がフィジカルインターネット・ロードマップを発表しており、効率的な物流の実現を目指した重要なプラン内容です。
フィジカルインターネット・ロードマップ
フィジカルインターネット・ロードマップとは政府が現在から2040年までの物流システムの道筋をあらわしたものです。フィジカルインターネットのゴールイメージは効率性や強靭性、雇用の確保、ユニバーサル・サービスとしており、物流効率化や情報共有、適正な労働環境の整備などを目標として挙げています。また、パレットやコンテナなどの物流資材のサイズを統一し、標準化する点についても検討が進められており、2030年を目安にすべてのサイズ変更を完了することが目標です。
フィジカルインターネットが注目される背景
フィジカルインターネットが注目される背景には物流企業が抱える次のような課題が関係しています。
- 宅配便の増加
- ドライバー不足
- CO2による環境問題
宅配便の増加
近年、インターネット通販の利用拡大やコロナ禍の影響があり、宅配便の取り扱い件数は増加傾向にあります。以下の図のように2022年は各物流大手企業で宅配便の取り扱い個数が過去最多となった一方で、積載効率は低下しました。
出典:令和3年度 宅配便取扱実績について
消費者ニーズの多様化や製造業のデジタル化により多品種、小ロット輸送の需要が増加し、トラックの空きスペースが増えたためです。また、デジタル化の急速な進展にともない、今後も多品種、小ロットの需要は増加すると予想されるため、早急な対策が必要となります。
ドライバー不足
宅配便の件数が増えている一方で、ドライバーの数は減少している点は物流業界にとって大きな課題です。また、宅配便が増えることによってドライバーの負担も増え、離職率の増加も懸念されています。ドライバー不足の背景には、国内における労働人口の減少も一因となっており、今後ますます減少傾向は加速する一方です。
CO2による環境問題
物流による貨物自動車のCO2排出量削減は以前から要請されており、今後も環境への配慮は強く求められることが予想されます。また、環境負荷の問題により古くなった車両は税額も上がるため企業は従わざるを得ません。
政府は、CO2などの地球温暖化の原因となる温室効果ガスをゼロにする「カーボンニュートラル」への取り組みにもフィジカルインターネット実現は不可欠であると考えています。2019年より、フィジカルインターネットの実現を目指して政府も動きはじめ、これらの課題を解決しようとする動きが加速してきています。
フィジカルインターネット実現によるメリット
フィジカルインターネットが実現されると次のようなメリットがあります。
- 配送や積載効率の向上が期待できる
- コストの削減につながる
- ドライバー不足の解消になる
配送や積載効率の向上が期待できる
フィジカルインターネットにより配送効率や積載効率の向上が期待できます。これまでの配送方法では自社が請け負った荷物の量に関係なく配送をしなければなりませんでした。
しかし、フィジカルインターネットでは複数企業の荷物をまとめて積載することができるため、積載効率を上げられる点が大きなメリットです。また、配送ルートが固定化されるため納品時間も安定し、配送効率の向上にも期待できます。
コストの削減につながる
フィジカルインターネットは車両の稼働台数をおさえられるため、燃料費や人件費などのコストを削減できます。また、稼働台数を減らせるのであれば、所有する車両台数自体を減らすことにつながるため、大幅なコスト削減が実現可能です。フィジカルインターネットによるコスト削減が実現できれば、浮いたコストを顧客へのサービスに利用できるため、顧客満足度の向上にもつながります。
ドライバー不足の解消になる
一度に多くの荷物配送を可能にするフィジカルインターネットは、ドライバーの業務負担の軽減につながります。また、稼働台数をおさえられるため、ドライバーの人数も以前より少ない人数で運用することが可能です。
これまでドライバーの多くは長時間労働などの問題に苦しめられてきましたが、フィジカルインターネットの実現により労働環境は大きく改善され、離職率の低下も期待できます。
フィジカルインターネットを実現するためにやるべきこと
フィジカルインターネットを実現するには次のような取り組みが必要です。
- 荷物の規格を統一する
- システム構築で柔軟な対応を目指す
荷物の規格を統一する
積載効率を良くするためには荷物の大きさを統一させる必要があり、政府の方針により現在も対策が進んでいます。多品種や小ロットの荷物でも無駄なく配送するためには、荷受け側だけでなく荷主側の改善も必要とされています。パレットやコンテナなどの物流資産を企業間で共有できれば積載効率は上がり、無駄のない配送が可能です。
システム構築で柔軟な対応を目指す
フィジカルインターネットを実現するには、倉庫の空き状況や最適ルートの情報をリアルタイムで共有できるよう、企業間で情報共有システムの構築が必要です。物流業界は複数の企業で業務をおこなう体制であるため、急な変更や追加などの業務には柔軟な対応がむずかしい可能性があります。また、自社の荷物が今どこにあるのか、いつ到着するのかなどを把握するのも困難となるため、情報共有は重要です。
フィジカルインターネットの取り組み事例
大手コンビニ3社での共同配送
全国各地でコンビニチェーン店を展開するセブンイレブンやローソン、ファミリーマートの大手3社による共同配送の実証実験がおこなわれました。都内に設置した共同物流センターに各社の商品を集め、共同配送トラックにより効率化されたルートでエリア内のコンビニ全体へ配送するという実験です。共同在庫における検討をふまえて、一部商品は共同物流センターに残し、店舗別にピッキングを実施するなど、物流の共同化による効果を検証しています。
JR西日本やJR九州、佐川急便の協業
JR西日本とJR九州では、佐川急便が受託した荷物を山陽・九州新幹線で運ぶ貨客混載運送の事業化に向けた検討をはじめています。佐川急便が出発点の駅まで運んできた荷物を新幹線に積んで輸送します。
目的地の駅に到着後は現地の佐川急便が引き取り、届け先へ配送する流れです。新幹線の利用によりトラック輸送よりもはるかに時間の短縮が可能となる点や、新幹線の空きスペースを有効活用して収益を上げられる点は両社にとって大きなメリットとなっています。
ヤマト運輸と佐川急便の共同配送
ヤマト運輸と佐川急便の共同配送が長野県の一部地域で実施されています。配達については佐川急便が請け負った荷物をヤマト運輸のセンターへ引き渡し、ヤマト運輸が対象地域へ配送する流れです。
顧客が佐川急便に依頼したものについてはヤマト運輸のセンターに集約し、佐川急便がヤマト運輸のセンターから回収して配送します。そのほか、埼玉県秩父市では、2社に加えて日本郵便や西濃運輸、福山通運の計5社による共同配送の実証実験が開始されています。
まとめ
フィジカルインターネットとはインターネットの仕組みを物流に適用させたものです。物流業界におけるさまざまな課題を解決するため、政府もロードマップを作成するなどして2040年までに目標の実現を目指しています。
フィジカルインターネットが実現すれば物流業界の課題解決や、CO2削減による環境問題への貢献も実現可能です。企業の枠を越えた連携がフィジカルインターネット実現につながるとし、近年は大手企業も実証実験の実施をはじめるなど、積極的な取り組みが進んでいます。