- 組織人事
従業員レコグニションとは
人事評価は基本、努力の結果や実績によって決定しますが、レコグニションにおいては人材の努力そのものを評価します。企業を成長させるには従業員のスキルだけでなく、企業に対する愛着心や帰属意識が欠かせません。
従業員のエンゲージメントを向上させるには、昇給やボーナスなど金銭型の報酬ではなく表彰や奨励など非金銭型の報酬が適しています。働き方改革の推進により労働のあり方が変化する現代では、大手企業を中心にレコグニションの導入が進んでいます。
レコグニションとは
レコグニションとは、従業員の活躍を適切に評価する仕組みや制度のことです。人材のメンタルやエンゲージメントをマネジメントするうえで、このレコグニション制度の有用性に注目が集まっています。
リモートワークの流行や副業の浸透など、働き方改革の浸透によって企業で働く人材のニーズが多様化しています。そのため、昇給や昇進など、金銭的な報酬や福利厚生だけで従業員のモチベーションを維持させるのがむずかしくなりました。
終身雇用が不安視されている現代では、従業員のモチベーションやエンゲージメントを保つ仕組みが必要です。レコグニションはこれまで曖昧だった人材への感謝を制度として導入することで、従業員の仕事へのモチベーションを向上させます。
非金銭的な報酬を与える
レコグニションは、評価に対して金銭的な報酬が発生しません。休暇や表彰制度、イベントチケットの授与など非金銭的な報酬や賞賛を用います。対して金銭型の報酬を伴う評価や奨励はリワードです。昇給やボーナス、賞金がこれに当たります。
リワードによる人事評価は、金銭というわかりやすい報酬が発生するため従業員のモチベーションを上げるのに効果的です。ただ、業務の少なさや職場環境などほかの要素を重視する従業員には効果がありません。
対して非金銭型の報酬であるレコグニションにより、従業員側の「認められたい」、「やりがいを感じたい」を賞賛の形で評価することで、タスクの遂行自体に喜びを見出すことができます。
数値化がむずかしい実績を評価できる
業務の評価は、営業成績や業績など数値としてはっきり表せられるものだけではありません。チームで仕事をすれば個人の実績がわかりにくくなりますし、勤務態度や人への気遣いは数値にできないものです。
レコグニションによって評価を仕組み化すれば、数値化がむずかしい実績や他人への感謝を正しく評価できるようになります。
レコグニションのメリット
レコグニションの導入によるメリットは、主に以下の3つです。
- エンゲージメントの向上
- 人材の定着
- 組織力の向上
金銭的な報酬によってモチベーションを向上させるリワードと違い、レコグニションでは人材のやる気や努力そのものを評価します。
エンゲージメントの向上
エンゲージメントとは、組織に対する愛着心や帰属意識です。レコグニションでは成果や実績だけでなく、従業員の勤務態度や他人への気遣いも包括的に評価します。自分のことを正しく見てくれているという実感が、企業に対するエンゲージメントを高めるのです。
人材の定着
従業員のエンゲージメントが向上すると、企業を給与や福利厚生の待遇面だけで判断しなくなります。そのため、人材の定着率向上にも効果的です。自分は会社にとって必要な人材だという自覚は、帰属意識の向上に欠かせません。
組織の団結力向上
仕事に対して肯定的な評価を与える取り組みは、従業員同士の助け合い意識を生み出します。仲間意識の向上は、組織の団結力や企業カルチャーの変革をもたらしてくれます。
金銭的な報酬だけの体制では、成果の奪い合いが発生する殺伐とした職場環境が生まれても不思議ではありません。部署間やチームメイト同士で価値を認め合うポジティブな雰囲気を作るにはレコグニションが最適です。
レコグニションの実践事例
大手企業では、その多くがなんらかのレコグニション制度を導入しています。そのなかでも注目されているのが、従業員同士で人事評価をおこなうソーシャルレコグニションと呼ばれる制度です。
全日本空輸
全日本空輸(ANA)は自社のグループ行動指針であるANA’s Wayにおいて、社員同士の一体感醸成を目的としたツールGood Job Cardを2001年より導入しています。
Good Job Cardは株式会社木本省美堂が提供するコミュニケーションツールで、社員同士で仕事のいいところを見つけたときや感謝を伝える際にメッセージカードを送るシステムです。
ANAは本システムに独自のポイント制度を導入し、獲得したポイント数に応じてバッジが進呈されるようにしています。獲得ポイントは児童養護施設への支援活動に充てられるため、従業員の社会貢献意識にもつながります。
以下はANAが調査した、グループ社員のエンゲージメント推移です。
出典:ANAグループ行動指針「ANA’s Way」の推進(全日本空輸株式会社)
Good Job Cardを初めとしたANA’s Wayの取り組みによって、エンゲージメントの平均スコアが上昇していることがわかります。金銭や休暇など実用的な報酬はありませんが、従業員のエンゲージメントと社会貢献意識の向上に成功した事例です。
メルカリ
メルカリはエンゲージメント施策として、独自のピアボーナスプラットフォームのメルチップを導入しています。本制度は、感謝や賞賛の言葉と一緒に、チップ形式でポイントを従業員同士で付与できるシステムです。
メルカリがおこなったアンケート調査によると、メルチップの導入から1か月で従業員の満足度を約87%にまで向上させています。本制度では人事部や経営トップなど上から下へ付与する賞与ではなく、従業員同士がチップという形式で互いを評価するのが特徴です。また、本システムでは獲得したポイント数が多い従業員にはメルチップ賞が授与されます。
チップの形で従業員同士の仲間意識と企業へのエンゲージメントを向上させた事例です。
レコグニション構築に必要な3つのポイント
レコグニション制度の構築には、以下のポイントを意識します。
- 評価基準を明確化する
- 万人に当てはまる賞賛はNG
- PDCAで見直しを図る
従業員の働きぶりを評価するレコグニションでは、従来の人事評価とは違う視点で評価の定義をおこなわなければなりません。企業風土や従業員の属性など、企業が人材面で抱える課題に合わせて仕組みを作成します。
表彰基準を明確化する
制度の導入において、まずは評価の基準や具体的な奨励制度を決定します。レコグニションの構築設計で決めるべき項目は、以下の3つです。
- 導入の目標
- 制度のルール
- 従業員への周知方法
制度の発足に当たっては、上層部からの一方的な取り組みにならないよう従業員へのヒアリングが必要です。人事で今抱えている課題や従業員の意識を調査し、どのようなアプローチが有効かを明確化してください。
万人に当てはまる賞賛はNG
賞賛の言葉は、ありきたりな感謝の言葉ではなく具体的な内容でなければなりません。個人の取り組みを評価する制度である以上、表彰対象に対する誠実さは重要です。
どんな形式なら感謝の気持ちが伝わるか、エンゲージメントやモチベーションにつながるにはどんな方法が効果的か、従業員の立場で考えます。
PDCAで見直しを図る
導入したレコグニションは、一定期間毎に成果を確認して、評価と改善を繰り返します。設定した評価基準や奨励方法は、必ずしもエンゲージメントやモチベーションにつながるとは限りません。効果は数値や従業員へのヒアリングなど、具体的な数値や声で正確に把握する必要があります。
まとめ
労働の考え方が多様化する現代では、従業員の定着や企業に対する帰属意識の必要性が高まっています。レコグニションは、従業員の業務意識やエンゲージメントを向上させるのに必要な取り組みです。
ただし、実施する場合は従業員への感謝や奨励が従業員に伝わる方法でなければいけません。金銭的な報酬ではなく、表彰や特別休暇など非金銭型報酬のほうが、従業員の帰属意識につながります。