- 組織人事
「OKR」と誤解されがちな「人事評価制度」との関係性とは
近年、ビジネス界で注目を集めている「OKR(Objectives and Key Results)」は、Googleやインテルなどの有名企業をはじめとする多くの企業で採用されています。
人事評価制度の改定を検討する際、OKRの導入も選択肢に挙がるケースが多いのではないでしょうか?
従業員の意欲を高め、組織全体で効果的に目標を達成するための手段として認知が広まったOKRをどのように人事制度に組み込むべきか、「OKRの基本」と「誤解されがちなポイント」を紹介します。
OKRは「評価制度」でも「目標管理」でもない
そもそもOKRとはなにか?
OKRはObjectives and Key Resultsの略称であり、組織として目標を達成するための「組織マネジメントの仕組み」 |
OKRは、アメリカの企業経営者であるアンディ・グローブとジョン・ドアによって提唱されました。
彼らは1970年代にインテルで働いていた際、経営戦略を具体的な目標に分解し、それを達成するためのアクションプランを立てる必要性を痛感。「Objectives(目標・目的)」と、その達成度合いを測るための「Key Results(主要成果指標)」を設定する方法を考案しました。
この手法が、後にOKRと呼ばれるようになり、多くの企業で採用されるようになりました。
OKRの神髄は”目的管理”である
OKRは「人事評価制度の仕組み」ではなく、「目標管理制度の一種」ですが、単なる目標管理制度としてだけ理解することは適切ではありません。
組織内で共有された目的や、理念の実現に向けた活動を推進するための手法であり、チームのモチベーションと主体性を高めることを狙った「カルチャーづくり」の仕組みです。
そこでは、「Key Results」で設定される定量的な達成指標と、それらを「なぜ、何のために」達成するのか、という「Objective」がセットで共有され、その関係性がチーム内で納得感をもって共有・浸透していることが重要です。
「目標管理」というよりは、むしろ「目的管理」に近い意図を持った仕組みといえます。
そのため、OKRの運用においては、目標を管理し達成することだけにとどまらず、組織内での目的や理念をオープンにして共有し、対話やフィードバック、相互承認といった組織内のコミュニケーションを活性化させることを重視します。
OKRとMBOの違い
「組織モチベーションと個人モチベーション」導入目的の違い
OKRが前述のとおり、目標の共有可視化による組織全体のモチベーションアップを目指しているものであることに対して、MBOは元々、“個人”のモチベーションアップを目的として導入されたものでした。
そのため、MBOは経営上の目標や、組織目標を踏まえて、本人が自分自身の目標を設定し、目標達成をセルフマネジメントすることによって、本人自身によるスキルアップを目指すのが本来の活用の仕方です。
しかし、日本企業においては人事考課に使われていることが多く、成果に基づいた評価の一環として「目標の達成度」の判定にMBOが活用されているのが実態です。
運用方法と特徴
運用においては、OKRは“組織単位”であり、MBOは“個人単位”という点が大きな違いになります。
MBOは、本人と上長が話しあって今期の個人目標を何にするかを決めていく運用が多く見受けられます。OKRでは組織マネジメントの観点から共通の目標をチームでいかに共有していくかが大事であり、必ずしもOKRを個人単位まで展開する必要はありません。
「評価制度」と組み合わせるポイント
OKRが人事評価として使えない理由は「手段の目的化」
OKRを評価制度として使うということは、基本的にはおすすめしません。OKRにおいては必ず「Key Results」の上位に「Objective」があり、「Objective」に沿った活動をすることが最も重要だからです。
画像引用:QastLab OKRの特徴や設定方法とは?MBOやKPIとの違いについても解説
「Key Results」の達成度が評価・報酬と結びつくことで、「Key Results」の達成自体が目的と化し、「Objective」の意味合いが薄れてしまうおそれがあるからです。
しかし、これまで述べたようなOKRの性質をふまえた上で評価制度と組み合わせて運用したい場合には、目的に応じて以下のような方法が考えられます。
1.カルチャーづくりを優先したい場合
OKR本来の効果を狙って「カルチャーづくり 」を優先した運用をしたいなら、やはり評価制度とは直接結び付けない運用をおすすめします。
OKR自体は組織単位の「Key Results(主要成果指標)」に留め、チーム単位で追いかけます。
そして、目標に対する達成度を人事評価に反映したい場合は、評価制度ではMBOを別建てで運用します。
人によってはMBOの項目の一部にチームのOKRの項目を活用して目標設定をする形でゆるく連携させてもよいでしょう。ただしその場合も、OKRとMBOの関連性を意識しすぎて理屈だけで目標を設定してしまわないよう、注意が必要です。
OKRの項目や目標をただそのままMBOに持ってくるだけでは、OKRの活動の意味合いも変わってしまい、本来狙っているOKRの運用効果が薄れてしまいます。
したがって
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など、メンバーのチーム内の役割を踏まえて、ディスカッションしながらメンバーの納得できる目標を設定していく必要があります。
2.「会社/組織の目標への貢献度に応じた報酬分配」を実現したい場合
これまで述べたように、OKRと評価を直接結びつけるデメリットはありますが、OKRで設定した目標・目的(O)が、会社の事業成長と密接に結びつく内容である場合、その達成に貢献した人に対してより手厚く賞与や昇給原資を分配したいという意向を持つのは経営陣としては当然のことです。
そこで、OKRの活動目的を損なわずに「Objectives」への貢献度を人事評価や報酬に反映したいのであれば、「Key Results(主要成果指標)」の達成度や実績をそのまま評価するのではなく、OKRの活動そのものへの取り組み方や貢献度を、別軸で間接的に評価する方法をおすすめします。
例えば以下などをパフォーマンス評価軸として据えます。
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チームマネージャーについては、結果そのものの達成度も評価対象に含めてもよいでしょう。ただしその場合も、結果の達成度のみではなく、チームとしてOKRの目的に沿った活動がどのくらいできていたのかを加味する必要があります。
なお、公平性の観点から、これらの評価軸に対する評価のガイドラインや評価基準をあらかじめ決めておくことは必須です。
また、メンバーの活動内容を評価者が適切に比較しながら評価することは難しいため、360度評価(相互評価)を活用してより客観性を担保するのも工夫のひとつです。