- 経営戦略
事業継承における問題
事業継承とは会社が持つ資産を後継者となる人物に引き継ぐことです。経営者の高齢化が進むなか、後継者不在や教育不足などで事業継承の問題に多くの企業が悩まされています。
事業継承は簡単に実現できるものではなく、廃業や相続トラブルなどのリスクを抱えながら、会社の引継ぎを成功させなければなりません。そのため、従業員の生活を守る責務のある経営者は、事業継承における問題の解決策を把握し、取り組みを進める必要があります。
事業継承とは
事業継承とは会社が保有する有形資産、無形資産を後継者に引き継ぐことです。具体的には後継者に対して経営権や株式などの物的資産や経営理念や人脈などの知的資産の引き継ぎをおこないます。
事業継承の実現は簡単ではなく、黒字決算であっても、課題を解決できずに廃業の道を選択する中小企業は少なくありません。そのため、国の雇用や生産量の多くを締める中小企業の事業継承は、国全体で取り組み、解決すべき課題となっています。
事業継承における問題点
事業継承をおこなう際の問題点は次のとおりです。
- 後継者が不在である
- 後継者の教育が不十分である
- 経営状態に不安がある
- 適切な相談相手がいない
- ワンマン経営である
後継者が不在である
事業の引き継ぎでもっとも深刻な問題は後継者が不在であることです。黒字経営でありながら廃業する企業の多くは後継者の不在が原因とされています。
後継者不在は親族内や社内に跡継ぎとなる候補者がいない、または何らかの理由で継承できないことから起こる問題です。解決策としてM&Aよる事業売却が挙げられますが、個人でおこなうには資金面や取り組みにかかる負担が大きく、専門家に頼ることも必要であるため躊躇してしまう経営者も多い傾向にあります。
後継者の教育が不十分である
後継者への教育が十分におこなわれない問題もあります。後継者の育成には5年から10年かかるとされており、多くの時間を必要とするため、十分に教育できないまま継承してしまうケースがよくあります。
特に親族内継承で見られるのは身内の可愛さから能力査定が甘くなり、経営者としての能力や人間性の教育が不十分であるため、後継者が従業員や取引先からの反発を招くことです。どのような継承方法においても、後継者の教育に長期的に取り組む必要があります。
経営状態に不安がある
企業の経営状態に不安を抱き、後継者が継承を拒否する場合もあります。経営が傾いた状態で親族内や社内の中で継承がおこなわれるのは、大きな損害が発生する可能性があるため、経営者と後継者ともに避けたい状況です。一方で、M&Aによる売却を考えたとしても企業の評価が低いため売却先が見つからない可能性もあります。
適切な相談相手がいない
事業継承を考えているものの、相談できる相手がいないことも問題点です。親族や従業員、役員に話しにくい内容もあるため、1人で事業継承を考える経営者も少なくありません。
公的機関の相談窓口も多く存在しますが、大都市を中心に展開されていたり、民間業者による窓口は料金体系が業者によって異なったりしています。そのため、結局どこに行ったらいいのかわからず、経営者が1人で事業継承を考えることにつながってしまいます。
ワンマン経営である
ワンマン経営では、経営者自身が事業継承に無関心であることや経営者以外の意思決定が弱いことの2点が問題です。経営者が心身共に健康である間はまったく問題ありませんが、万が一会社を経営できなくなった場合には、事業が立ち行かなくなるうえに事業継承も困難となってしまいます。そのため、経営者自身が事業継承に対する関心を持ち、会社の引き継ぎへの対策に取り組む必要があります。
事業継承におけるリスク
事業継承におけるリスクは次のとおりです。
- 負債や個人保証も引き継ぐ
- 相続トラブルが発生する
- 遺留分を主張される場合もある
負債や個人保証も引き継ぐ
後継者が引き継ぐものは経営権だけでなく、負債や個人保証などもあります。事業継承によりすべてを引き継ぐということは、後継者にとって不必要であるものも引き継ぐということであり、負債や個人保証など、後継者がリスクと感じるものを引き継ぐことでもあります。リスクのある背景から不安を感じる後継者に対して、経営者は少しでもその負担を減らす努力が必要です。
相続トラブルが発生する
相続トラブルもリスクとして考えておかなければなりません。相続トラブルは親族内で後継者に当たる候補者が複数人存在する場合や、後継者を外部から引き入れた場合に起こります。親族でのトラブルを起こさないために、経営者は後継者だけでなく、ほかの相続人に対して納得できるよう十分な説明をする必要があります。
遺留分を主張される場合もある
事業継承では後継者が遺留分を主張されるケースもあります。遺留分とは最低限の相続権利です。経営者が亡くなった際、遺言書により後継者が別の人物に決定したとしても、親族は遺留分だけを主張できる権利があります。
そのため、相続人が複数人存在する場合に起こり得るリスクといえます。経営者がすべての資産を後継者に相続しようとしても、ほかの相続人が遺留分を求め、トラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。
事業継承における問題の解決策
事業継承における問題の解説策は次のとおりです。
- 準備は早めにおこなう
- 優遇制度を利用する
- 経営状況と財務状態を明らかにする
準備は早めにおこなう
人脈や信用、創業の思いなど知的資産を引き継ぐには長い時間が必要であるため、早くから取り掛かる必要があります。50代後半から60代半ばくらいまでで心身ともに健康な状態であるうちに、事業の引継ぎを検討するのが理想的です。
また、早期から事業の継承を準備することで、解決される問題が複数個もあります。たとえば後継者の選定に時間をかけられることや後継者を育成する時間が十分に取れることなどです。後継者が不在でM&Aに着手する場合は、もっとも重要な合併と売却先の選定に時間をかけられます。
優遇制度を利用する
事業継承をおこなう際は、さまざまな優遇制度を積極的に利用すると資金面の負担を軽減できます。支援策として挙げられるのは補助金制度や税金の納税猶予、事業継承についてのガイドラインの公表などです。
また、事業継承について相談できる窓口には商工会議所や事業引継ぎ相談窓口などがあります。日本経済を支えるため、国や自治体も中小企業における事業継承をスムーズに実行できるための環境を整えています。
経営状況と財務状態を明らかにする
経営者は後継者の不安を払拭させるため、現状における経営状況と財務状態を明確化し、後継者にしっかりと伝える必要があります。会社の重要な資源であるヒトやモノ、カネについて財務諸表などの現状を把握して、企業のプラス、マイナスとなる財産を経営者から後継者へ説明することが大切です。今後における事業の計画書を作成する際は、経営者と後継者がともに取り組むことで、経営状況と財務状態を明らかにするだけでなく教育も可能です。
まとめ
事業継承とは会社が所有する資産を後継者に引き継ぐことを意味します。会社の引継ぎを成功させるにあたって、いくつかの問題がありますが、優遇制度や体制の見直しにより、事業継承を実現可能です。
何も対策を進めないままいると、万が一経営者が会社を運営できなくなった際、廃業となり多くの従業員が生活に困ってしまいます。事業が続けられない事態を引き起こさないためにも、経営者は後継者の選定や教育に、早期の段階から取り組みを進める必要があります。