2023.05.31

人的資本とは

人的資本とは、企業においてもっとも貴重な資産の1つであり、従業員や社員が持つスキルや知識、経験、関係性、そして企業文化への貢献度合いなどを指します。企業が人的資本を最大限に活用するためには、情報開示が重要です。経済産業省や内閣官房も情報開示に力を入れており、今後さらに人的資本における情報開示が求められる傾向にあります。

人的資本とは

人的資本とは、企業や組織に所属する個人の知識やスキル、経験、教育など、その個人が持つ有形無形の資源のことを指します。人的資本は、個人が持つスキルや知識が企業や組織の価値を高めるといった視点が特徴です。

人的資本は個人が持つ有形無形の資源が企業や組織に貢献することで、組織や企業の価値を高めることができます。個人のスキルや知識によって、生産性の向上やイノベーションの促進などにつなげることが可能です。また、人的資本は個人が持つ知識やスキルを活用することで、組織内でのキャリアアップや社会的地位の向上など個人的な成長や幸福感にもつながります。

人的資源との違い

人的資本と人的資源は似たような言葉であり混同されることがありますが異なる意味を持ちます。人的資源とは、人材の調達、配置、教育、評価、報酬など人材管理全般のことを指します。一方で、人的資本とは個人のスキルや知識、経験など、個人が持つ資源のことです。人的資源は、人材を効率的に活用するためのプロセスや仕組みを構築することで人的資本を最大限に活かすことが目的です。

人的資本の需要が高まっている背景

近年、企業にとって人的資本の重要性が高まっており、背景には次のような影響が挙げられます。

  1. 多様化した働き方
  2. ESG投資の影響

多様化した働き方

多様化した働き方によって、企業は従来とは異なる人材の活用が求められるようになりました。テレワークやフレックスタイムなど柔軟な働き方を求める従業員が増加しているため、企業は多様なニーズに対応するために従業員のスキルアップや育成に注力することが必要です。

ESG投資の影響

ESG投資の影響も人的資本の重要性につながっています。ESG投資とは、企業の環境、社会、ガバナンスに関する取り組みを評価し投資先を決定する手法です。企業は社会的責任を果たすために、従業員の能力開発や多様性の尊重、ワークライフバランスの実現など人的資本の向上につながる施策を進めることが必要です。

具体的に人的資本を重視する企業としてコカ・コーラが挙げられます。従業員のスキルアップやキャリアアップのために、トレーニングプログラムを提供しています。また、従業員の多様性を尊重し、ダイバーシティ&インクルージョン推進部署を設置している点も特徴です。これらの取り組みによって、コカ・コーラ社はESG投資の評価も高く人的資本を重視する企業として注目されています。

参考:多様性の尊重|Inclusion(コカ・コーラ)

人的資本の情報開示

人的資本とは、人々の能力やスキル、知識などの蓄積であり、企業にとっては競争力の源泉となるため情報開示が必要不可欠です。

経済産業省による動き

経済産業省は人材流動化の促進やグローバル競争力の強化のため、企業の人的資本の情報開示に注力しています。具体的には、企業に対して人的資本の評価指標の開示や、社員のスキルや経験の共有、社員のキャリアパスの明確化、社員のアンケート調査の実施などを奨励しています。また、人的資本に関する情報開示を企業報告書に記載することを求める人的資本報告指針を策定し、普及を進めているのです。

内閣官房による動き

内閣官房では、人材の育成や維持に向けた企業の取り組みを支援する制度の整備を進めています。具体的には、働き方改革の推進や人材流動化の促進、高度人材の確保など多角的な支援策が特徴です。また、企業の人的資本を計測や分析するための指標企業内部価値の評価を策定し、その普及を進めています。

人材版伊藤レポート

2019年に公表された人材版伊藤レポートでは、人的資本の活用に関する具体的な施策が提言されています。一例として、社員のスキルやキャリアアップのための教育・研修制度の整備が特徴です。また、経営者の人的資本への認識を高めるため、人的資本の計測や分析をおこない経営戦略に組み込むことが推奨されています。

参考:「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました(経済産業省)

人的資本における情報開示内容

人的資本における情報開示内容には次の7つが挙げられます。

  1. 人材育成
  2. コンプライアンス
  3. 健康・安全
  4. 流動性
  5. エンゲージメント
  6. 多様性
  7. 労働慣行

人材育成

企業は、人材育成のために必要な情報を従業員に提供しなければなりません。このような情報にはキャリアパスやトレーニングプログラム、評価基準、昇進の基準、教育や研究開発に関する情報が含まれます。この情報を提供することで、従業員は自己啓発の機会を得ることができ、企業にとってはスキルアップや人材育成につながります。

コンプライアンス

企業は、コンプライアンスに関する情報を従業員に提供することが必要です。コンプライアンスとは、企業が法律や規則に従っていることを意味します。このような情報には企業の規則や法律、倫理規範についての情報が含まれます。従業員はこれらの情報を知ることで、企業のルールに従って行動でき法律違反の回避につながるのです。

健康・安全

企業は、健康と安全に関する情報を提供することで、従業員の安全と福祉を守ることができます。職場の安全基準、災害時の対応、健康保険や労働災害保険に関する情報が含まれます。従業員はこれらの情報を知ることで、職場での安全と健康を確保できます。

流動性

流動性とは、従業員の能力を最大限に引き出すために企業が異なる役割やプロジェクトへの参加を促すことを指します。企業は従業員が持つスキル、経験、関係性、興味に基づいて、キャリアパスや異動の情報を提供する必要があります。また、業務の多様性や柔軟性を確保することで、従業員の流動性を促進できます。従業員は自己実現の機会を得ることができ、企業にとってもより柔軟に対応することができます。

エンゲージメント

エンゲージメントとは、従業員が企業に対してどの程度の関心を持っているかを表します。従業員が企業に対して高いエンゲージメントを持っている場合、生産性が向上することが知られています。したがって、企業は従業員のエンゲージメントを高めるために情報開示を行う必要があります。

例えば、企業が業績が好調であることを従業員に伝えることで従業員のやる気を高めることができます。また、従業員のアイデアを尊重しフィードバックを受け入れることで、従業員のエンゲージメントを高めることもできます。

多様性

多様性は、企業が持つ従業員の多様な背景や能力を指します。多様性は企業にとって大きなメリットをもたらします。例えば、異なる文化や経験を持つ従業員が集まることで、創造性が高まり問題解決能力が向上します。また、顧客層が多様化する中で多様な従業員が必要になります。

情報開示においては、企業が多様性を尊重し従業員が自分らしく働ける環境を作ることが必要です。具体的には、ダイバーシティトレーニングを実施することや採用プロセスにおいて差別を排除することが挙げられます。従業員は企業に対してより忠誠心を持ち、高いパフォーマンスを発揮することができます。

労働慣行

労働慣行は、企業が持つ従業員の働き方や待遇に関する規定を指します。従業員が適切な労働慣行に従うことで、企業の生産性が向上することが知られています。しかし、適切な労働慣行が守られていない場合、従業員は不満を持ち企業に対する信頼を失うことがあります。

情報開示においては、労働慣行に関する情報を従業員に提供することが必要です。例えば、従業員には給与や福利厚生、ワークライフバランスなどの情報が提供されることが推奨されています。また、企業は従業員の声に耳を傾け労働慣行を改善することも重要です。

まとめ

人的資本における情報開示内容は、企業の生産性を向上させるために重要な役割を果たします。エンゲージメント、多様性、労働慣行に関する情報を従業員に適切に提供することで、従業員のやる気やパフォーマンスが向上することが期待できます。企業は、情報開示を通じて従業員との信頼関係を築き、共に成長することが重要です。

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