2024.12.02

人材育成のフレームワーク

人材育成のフレームワークとは、企業が人材を効果的に育成するための体系的なアプローチのことです。代表的なフレームワークには、SMARTの法則、70:20:10モデル、カークパトリックモデルなどがあります。企業にあったフレームワークを選択する際は、企業規模や組織文化との整合性、導入コストと期待される効果を慎重に判断することが重要です。フレームワークを基に育成計画を立案し、現状分析と目標設定を行った上で、育成プログラムの設計やリソース配分、実施計画を整える必要があります。

人材育成フレームワークで活用される主なフレームワーク

SMARTの法則

目標設定で最も広く知られているフレームワークがSMARTの法則です。SMARTの法則では次の5つの要素を基準として具体的な目標を立てる手法です。

  1. Specific(具体的):目標を明確かつ具体的に設定すること
  2. Measurable(測定可能):数値や指標を用いて達成度を客観的に測定できること
  3. Achievable(達成可能):達成可能かつ挑戦的で個人の成長につながる目標
  4. Relevant(関連性のある):他の重要な目標と関連していること
  5. Time-bound(期間限定):目標に対して明確な期限を設けることで

SMARTの法則に基づいた目標設定は、従業員が自分の進捗をしっかりと把握し計画的に目標達成に向かうための指針です。5つの基準を基に目標設定することで評価基準が明確になるほか、従業員のキャリアプランを意識するためモチベーション向上に繋げられます。また、SMARTの法則は成果目標と行動目標の設定が効果的です。行動目標を達成できると、成果目標に近づけるようになります。

70:20:10モデルの特徴

70:20:10モデルとは人材育成における経験学習の重要性を示すフレームワークです。従業員の成長に必要な要素を経験や交流、学習の3つに分け、それぞれがどのように影響を与えるかを示しています。

70%の部分は実際の業務経験を通じて得られる学びのことです。日々の業務に取り組みながら実践的なスキルや知識を習得することが最も重要な学習源となり、問題解決能力や判断力を養い、成果を上げるための能力を高めていきます。

20%の部分は他者との交流を通じて得られる学びです。上司や同僚からのフィードバック、コーチング、メンタリングなどを通じて、他者とのコミュニケーションや協働の中でスキルを磨くことで、自己認識が深まり成長への促進が図られます。

10%の部分は研修や書籍、eラーニングなどの体系的な学習を意味します。OFF-JTや自己学習を通じて得られる知識は実務に役立つ情報を補完し基盤を強化する役割を果たすことが特徴です。70:20:10モデルは、従業員一人ひとりの実務経験を中心に他者からの学びと体系的な知識のインプットをバランスよく取り入れた効果的な学習方法を提案しています。

カークパトリックモデル

人材育成プログラムの評価モデルとして広く認知されているカークパトリックモデルは、学習効果を反応や学習、行動、結果の4段階で施策の有効性を総合的に検証します。

  1. 反応:研修に対する参加者の満足度
  2. 学習:知識やスキルの習得度合い
  3. 行動:学んだ内容の実務への適用度合い
  4. 結果:組織全体の業績や成果への影響

その中でも、最も難易度が高いのが行動レベルであり、研修で学んだ知識やスキルを実際の業務に適用し、行動変容を促進することが最大の課題となります。知識の獲得にとどまらず実践に移す能力を育成することが、企業の成長に直結するため非常に重要な要素です。

人材育成のフレームワーク選択ポイント

人材育成のフレームワークは、組織の規模や文化により適切な選択が異なります。大規模な企業では体系的で標準化されたアプローチが有効な一方、柔軟性を重視する中小企業では、個々のニーズに合わせた方法が重要であるほか、組織文化にも合致するフレームワークを選定することで、従業員のモチベーション向上が期待できます。

企業規模による適性判断

大企業では組織の目標や戦略に基づき、従業員に求められるスキルや行動特性を体系的に定義することで育成プログラムを設計できる包括的なコンピテンシーモデルが有効です。多岐にわたる業務に対応できる人材を育成するために、幅広いスキルや知識を体系的に整理して提供することから組織全体の人材育成の一貫性と効果を高めることが可能です。

一方で、中小企業では柔軟性のある70:20:10モデルが適していることがあります。実務経験を中心とした学びを重視し、限られたリソースで効果的に人材を育成する方法です。スタートアップ企業においては、即戦力として活躍できる人材を早期に育てることが求められるため、実践的なフレームワークが重要です。

組織文化との整合性確認

組織文化には価値観やコミュニケーションスタイル、意思決定のプロセス、イノベーションへの取り組み姿勢などの要素とフレームワークが一致していることで効果的に人材育成を進められます。

トップダウン型の組織では指標が明確なコンピテンシーモデルが適しており、上層部からの指導と評価が組織の文化に合致します。逆に、ボトムアップ型の組織では、従業員の自主性や参加型のアプローチを重視するフレームワークが効果的であり、従業員が自己主導で成長し、組織全体のパフォーマンス向上に貢献することが可能です。

人材育成のフレームワークを活用した育成計画の立案

現状分析と目標設定

人材育成計画の立案では現状分析を行い組織全体の目標との整合性を確認することが必要です。ギャップ分析を通じて、従業員のスキルや業務遂行能力の現状と理想的な状態との差を明確にし、必要な能力や成長領域を特定した後に、個々の育成目標をSMARTの法則を使って具体的かつ達成可能に設定するほか、個人の目標が組織の成長に寄与する形で整合性を取ることで従業員の成長と組織の競争力強化を同時に進めることが可能です。

育成プログラムの設計

OJTとOff-JTを効果的に組み合わせて育成プログラムの設計をすることで、学びと実践の相乗効果が得られます。70:20:10モデルを活用し実務経験を70%、同僚や上司からの学びを20%、研修や自己学習を10%に割り当て理論と実践をバランスよく取り入れることが必要です。

また、スキルマップを作成し、従業員の現在の能力と目標とするスキルを明確に示します。成長を追跡するために客観的な評価指標を設定し、定期的に進捗を確認することで、プログラムの効果を最大化し従業員のスキル向上と組織の競争力強化を実現できます。

リソース配分と実施計画

リソース配分と実施計画では人的や時間的、財務的リソースを明確にし効率的に活用することが必要です。育成プログラムに必要なスキルや知識を支える講師や教材、研修場所を確保し、業務に支障がないよう勤務スケジュールや負荷の考慮が求められます。限られたリソースを最大限活用するため、優先順位を設定しオンライン学習を活用してコスト削減と柔軟な学びの環境提供を実現します。

実施計画では短期目標と長期目標を区別しそれぞれの進捗を定期的に確認してください。計画の進捗をモニタリングするために評価指標を設定し、育成プログラムの有効性を定量的に測定することで迅速に改善点を特定できるようになり、プログラムの成功確率を高め従業員の成長に繋げられます。

まとめ

人材育成のフレームワークは企業が戦略的に人材を育成するための指針を提供します。SMARTの法則や70:20:10モデル、カークパトリックモデルなどさまざまなフレームワークが存在し、企業の規模や文化に合わせて選択することが必要です。適切なフレームワークを活用して導入コストや期待効果も考慮しながら現状分析や目標設定を行い、育成プログラムの設計と実施計画を立てることで企業の成長を支える人材育成ができるようになります。

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