- 経営戦略
生産性向上のためのガイドラインとは
生産性向上のためのガイドラインは、企業活動における生産性を向上させることによって、少ない資源から大きな成果を目指すための指針をいいます。
生産性を向上させるための適切な施策は、業態によって異なります。そのため生産性向上のためのガイドラインでは、さまざまな具体例を用いながら、付加価値や効率の向上のために必要な手段について解説しています。
生産性向上のためのガイドラインとは
生産性の向上について重要性が強調されたのは、2017年6月9日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太の方針2017)のなかにおいてです。成長と分配の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題の1つに、事業の生産性を向上させることが決定されました。
同決定では、生産性向上に取り組む地域の中小企業、サービス業に対する支援を図ると述べられていることから、主に中小サービス事業の生産性向上が必須の課題として認識されています。このようにして生まれたのが中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインです。
一方、介護サービス事業における生産性向上に資するガイドラインは、介護事業所における生産性向上推進事業によって作成されました。両ガイドラインは、作成元は異なるものの、同じ理念のもと作成されたものといえます。
そもそも生産性向上とは
生産性向上とは少ない資源(ヒト・モノ・カネ)で大きな成果を得ることをいいます。生産性が向上すれば、企業の営利目的は果たされ、経営状況なども改善します。
サービス業においては主な資源は労働力です。サービス業における生産性向上とは、人材をうまく活用し、事業運営をより良いものにすることだといえます。
人材をうまく使うということは働きやすくやりがいのある職場をつくるということであり、働く人の幸せや人生の充実にもつなげることが可能です。
効率的な生産性向上のポイント
生産性向上を効率的に進めるためにはPDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善)のサイクルを回転させることを忘れてはいけません。せっかく策定した施策も、現場に適用するなかで改善が必要な場合は少なくないからです。良い部分はどこで、どんなところに改善点があるのかを一つひとつの施策をしっかりと振り返り、ベストな状態に近づけていくことが大切です。
中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインとは
中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインはサービス産業を運営する事業主がどのように生産性向上を目指すべきかを解説しています。
ガイドライン概要
中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインは全4章から成ります。
そのうち2章では事業コンセプトの確⽴の重要性を強調しています。中小サービス事業者の生産性を向上させるためには、自社のサービスがなんのためにあるか、誰に届けるべきなのかを事業主自身が理解し、そのうえで必要な施策を講じる必要があるということです。
サービスの特徴や魅力、顧客の属性などを具体的に設定することで、中小サービス事業者の生産性向上のための手段は自ずと見えてくると解説しています。
2章では具体的な⼿法について、付加価値の向上や効率の向上についての項目に分類して解説し、4章では中⼩企業における具体的な取組事例を紹介しており、他社の事例を参考にしながら、一つひとつ生産性向上に取り組める内容になっています。(参考:中小サービス事業者の 生産性向上のためのガイドライン(経済産業省) )
付加価値の向上
- 新規顧客層への展開
- 商圏の拡大
- 独自性・独創性の発揮
- ブランド力の強化
- 顧客満足度の向上
- 価値や品質の見える化
- 機能分化・連携
- IT利活用(付加価値向上に繋がる利活用)
効率の向上
- サービス提供プロセスの改善
- IT利活用(効率の向上に繋がる活用)
ガイドラインが作成された背景
サービス産業は日本経済の約7割(GDP・雇用ベース)を占める非常に重要な産業です。少子高齢化による社会構造の変化や業務のアウトソーシング化などが進むことを背景にサービス産業はより一層の市場拡大が見込まれています。
一方で日本のサービス産業の生産性は海外のサービス産業と比べて低いことが指摘されています。サービス分野の生産性を底上げすることは日本企業が厳しい国際競争に打ち勝っていくためにも重要です。
中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインはサービス産業の9割を占める中小企業に向けて、経営課題を解決し、新たな付加価値を創出するための支援を目的に作成されました。
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドラインは施設サービス、居宅サービス、医療系サービスの区分ごとに作成されています。それぞれ性質の異なるサービスにおいて、業務改善の基礎的な知識を学び、身近な事例をもとに生産性向上に取り組める内容になっています。
ガイドライン概要
各サービスのガイドラインごとに構成は異なりますが、共通するのは業務改善活動の意義や進め方を解説し、具体的な手順やポイントの紹介、役立つツールの紹介をしている点です。
介護サービスにおける生産性向上のための取り組みについては、以下の7つが紹介されています。
- 職場環境の整備
- 業務の明確化と役割分担
- 手順書の作成
- 記録・報告様式の工夫
- 情報共有の工夫
- OJTの仕組みづくり
- 理念・行動指針の徹底
必要な項目については、調査研究によりまとめられたe-ラーニング、手引き、マニュアル等が用意されているので、現場職員が無理なく生産性向上に取り組むことが可能です。
介護サービスは自治体との連携が重要であることから、自治体向けのガイドラインも策定しています。介護現場の業務改善に対する自治体の役割や取組内容などを紹介し、官民が一体となって生産性の向上に取り組めるような内容になっています。
ガイドラインが作成された背景
少子高齢化が進むなか、日本における介護需要は高まり続けています。その一方で、介護業界は常に人手不足に悩み、現場の業務負荷の高さと離職率の高さは悪循環に陥っています。
こういった状況は介護業界の業務が属人化し、再現性が困難になっていることから生まれています。サービスを標準化し、誰でも同じ品質を維持できるよう職場環境や業務プロセスを整えれば、人手不足や現場の大変さも低減すると考えられています。
介護業界はICT技術の導入なども遅れがちであるため、業務改善のためにどのようなツールが必要なのか、しっかりと理解し、現場にとって効果的な方法で導入することも必要不可欠です。
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドラインは介護業界の常識の刷新と、現場の働きやすさを実現することで介護業界の現状を変えていこうとする取り組みでもあるのです。
生産性向上につながる主な施策
生産性向上のためには、以下に述べる5つの施策を講じる必要があります。
- 現状分析と課題整理
- 無駄な工数の洗い出し
- テクノロジーの導入
- 従業員のスキルアップ
- 情報共有の仕組み化
現状分析と課題整理
自社の現状に向き合い、課題を整理します。現場には、主な業務のほかにも見えない業務が存在しています。すべての業務を可視化したうえで、どこに課題があるのかを見極めることが大切です。
無駄な工数の洗い出し
生産性向上のためには無駄な工数を徹底的に排除することが重要です。ただし、無駄な工数といっても現場の状況からやむをえず発生している場合があります。無駄な工数が発生してしまう要因を突き止め、根本から解決することが大切です。
テクノロジーの導入
無駄な業務をなくし、より効率化するためには、ICT技術に基づくツールの導入が効果的です。最近では、単純な操作を自動化するRPA(Robotic Process Automation)技術や、管理のための労力を低減するソフトウェアが登場しています。最初の導入コストはかかるものの、現場の負荷が減り、業務の正確性も向上すれば、コスト以上の利益を得ることができます。
従業員のスキルアップ
少子高齢化による人材不足が叫ばれるなか、一人ひとりの従業員には最大限能力を発揮してもらう必要があります。個人のスキルアップが実現すれば、生産性の向上にもつながります。従業員への教育は、生産性向上のための投資と考えることが大切です。
情報共有の仕組み化
従業員が効率的に動くためには次に何をやるべきかしっかりと認識している必要があります。チームのリーダーだけでなく、メンバー全員が目的意識を持っていることが大切です。そのため、情報共有の仕組みを整え、業務に必要な情報がいつでも把握できるようにします。
まとめ
生産性の向上は企業側からの視点で語られることが多いものの、実際は現場の働きやすさや負荷の低減にも大きな影響をおよぼします。特に、労働力の質がものをいうサービス業においては、従業員の働き方に向き合い、改善できるところに手を入れていくことは重要です。
生産性向上ガイドラインは現場の働きやすさや効率性、顧客満足など、企業運営に必要なすべての項目を実現するために必要な事項をまとめています。