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デジタルトランスフォーメーションを取り入れた中小企業の事例
近年、ITやデジタル技術の発展によって、これまで提供することができなかった新しい価値が次々に生まれています。これまでのITのような生産性向上やコスト削減などの価値だけでなく、顧客や社会のニーズに基づいた体験価値、ヒト、モノ、カネ、情報がつながることで新しい発見や市場機会を生み出すネットワーク価値があります。
企業は、激しく変化するビジネス環境に対応するために、経営資源である情報を中核とし、顧客への提供価値の変革、さらに新たな組織能力の獲得、つまりは企業そのものの変革が求められています。そのために、デジタルトランスフォーメーションが必要になってきます。
デジタルトランスフォーメーションとは
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、企業がビッグデータやAI、IoTを始めとするデジタル技術を活かして業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに組織、企業文化、風土も改革し、競争上の優位性を確立することです。
デジタルトランスフォーメーションが求められている意味
2020年はじめから新型コロナウイルス感染症の蔓延、大規模な自然災害、世界各地における地政学的リスク(地理的な位置関係によって、ある特定の地域が受けるリスク)など、世の中はこれまで以上に不確実性が大きく高まっています。
そのようななかで競合他社だけでなく、業界の外から業界ごと破壊してしまうディスラプター(AIやIotなどのデジタルテクノロジーによって既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊してしまうもの)も登場しています。
ビジネス環境や競争の条件が大きく変化している中で競争に勝つためには、既存のサービスやビジネスモデルの変革が必要となります。さらに、近年はSDGsへの関心の高まりからも、業界、業種の枠を越えて社会問題を解決することが求められています。
デジタルトランスフォーメーションの定義
デジタルトランスフォーメーションの定義は主に3つあります。
エリック・ストルターマン氏による概念
デジタルトランスフォーメーションは、スウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマン氏によって2004年に提唱された概念です。この定義では「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」が挙げられています。
マイケル・ウェイド氏の概念
2010年、マイケル・ウェイド氏らによって、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの概念が提唱されました。この定義では「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデル(テクノロジーを活用し、既存のビジネスモデルやコアビジネスに関わる社内業務に新たな価値や収益を生み出すモデル)を用いて組織を変化させ、業績を改善すること」とされています。
経済産業省が公表した定義
2018年に経済産業省が公表した定義には「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化や風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。
デジタルトランスフォーメーションの中小企業での事例
デジタルトランスフォーメーションを取り入れている中小企業での事例について以下3つにまとめます。
株式会社IBUKI
株式会社IBUKIは射出成形用金型の設計と販売をおこなっている企業です。同社がデジタルトランスフォーメーションを始めたきっかけは、業績が落ち込む中で「家族(社員)以外を全部変える」という社員の意識改革を軸とし、急激にデジタル化を進める動きが起こったことです。
属人化してしまった知識やノウハウを社員一人ひとりから聞き出し、データ化や分類をしていくという地道な作業が必要となりました。同社はこの取り組みから知識やノウハウのデジタル化にニーズがあると感じ、新規ビジネスとして提供を開始しました。
具体的には、工場全体の管理データや設備機器のデータを活用し、工場全体の一元的な管理ができるサービスをつくりました。また、AIによる情報検索や見積もり作成システムを用いることで品質の確保、向上の自動化を可能にしました。
株式会社NISSYO
株式会社NISSYOは主に変圧器の製造をおこなっている企業です。従業員が150人ほどの中小企業ですが、すでにIoTの導入やペーパーレス化、一人一台のタブレット端末の所持を実現し、デジタルトランスフォーメーションの先駆け的存在として知られています。
はじめに同社の経営計画において重要視したのがデジタル化でした。近年、少子高齢化にともなった将来的な人手不足が考えられることから、デジタル化の推進を始めました。結果として、導入したタブレット端末を全社員が積極的に活用する風土が生まれ、デジタルトランスフォーメーションを実現しています。
また、設計図をすべてオンライン上で管理できるようにしたことでペーパーレス化を実現し、年間約300万のコスト削減を可能とし、さらに、業務プロセスも簡略化されました。
碌々産業株式会社
碌々産業株式会社は、微細加工機に特化した工作機械の製造と販売をおこなっているメーカーです。
同社は、顧客と関係が薄いことを課題に感じていました。同社の機械の耐用年数は10年以上あり、長期的な運用ができます。しかし、販売後には顧客との接点がないことから、納品先の企業が買い替えをおこなおうとしたときには関係性が途絶えてしまっていました。
そこで、顧客との継続的な関係をつくりだすために「AI Machine Dr.」を開発しました。このシステムは機械の遠隔監視ができるようになり、故障した場合の原因究明を迅速化させるというものです。
これによって、納品先企業との長期的な接点を生み出すことに成功しました。さらに同社は、顧客の機会に対するニーズや機械の故障パターンなどの情報を獲得することが可能となり、より良い製品を開発することができるようになりました。
株式会社ウチダ製作所
株式会社ウチダ製作所は主に大手自動車メーカーにプレス加工部品の製造販売をおこなっている企業です。
同社は金型の需要を調査した結果、汎用プレス金型の供給は追いついているが、高難易度プレス金型の供給が追いつかず単価が上昇しているという点に気づき、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを始めました。ですが、金型設計者の人材不足や金型産業特有の狭い取引関係がネックでした。
そこで付加価値のある金型の製作や金型製作の生産性向上を目的とした「金型共同受注サービス」を開発しました。このサービスにより連携する金型メーカーの設備機器へIoTデバイスの取り付けをおこなうことで、設備の稼働状況や仕事量のデータ化が可能となり、注文を受けた際に適切な金型メーカーを選択することができるようになりました。
その結果、金型共同受注サービスと連携する金型メーカーは、受注機会の増加によって売上が向上し、発注先企業にもワンストップで多数注文できる、納期の短縮ができるというメリットを生み出すことに成功しました。
まとめ
デジタルトランスフォーメーションとは企業が製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革しながら組織、企業文化、風土も改革し、競争上の優位性を確立することをいいます。
中小企業において人材不足や顧客との関係の薄さによる問題点がありましたが、知識やノウハウのデジタル化やシステムの遠隔監視によって機械の問題点をいち早く理解し解決策を提案したり、取引先の企業に合ったより良い製品の提案をすることが可能となった事例がみられました。
このように中小企業には、効率を良くすることで人材不足を補ったり、顧客とのより深い関係を築くことが必要となるためデジタルトランスフォーメーションを取り入れていかなくてはならないといえます。