- 経営戦略
私募債と公募債の違い
社債発行には私募債と公募債の2種類があります。公募の手続きを経ているのが公募債、公募以外の手続きを経ているのが私募債です。企業は私募債のほかに、広く投資家を募る場合は公募債を活用する可能性があります。
私募債とは、銀行や特定の投資家など市場に公表せず取得勧誘される債権のことです。公募債と比較してスムーズな資金調達や、原則として担保が不要である点がメリットです。対して、公募債は一般の投資家から資金調達をすることから私募債と比べて大規模な調達が可能になる可能性があります。
私募債と公募債
企業がおこなう社債発行には、私募債と公募債の2種類あります。公募債は公募で投資家を募集しており、公募で手続きせずに特定の機関や投資家に対して募集するタイプを私募債といいます。
公募債とは
公募債とは、公募の手続きにより取得勧誘される債券のことです。一般を対象に投資を募集することが特徴です。一般投資家が対象になることから金融商品販売法で、対象有価証券の性質について情報開示する必要があることをはじめさまざまな規定があるため注意が必要です。
公募債には、次の3種類あります。
- 社債
- 地方債
- 国債
企業が発行している社債のほかに、国が資金不足の補助を目的として発行している国債、地方公共団体で発行している地方債があります。
私募債とは
私募債とは、公募債以外の方法で取得勧誘される債権のことです。企業で発行している社債はほとんどが私募債です。公募と違い以前は証券取引法での規定がありませんでした。しかし2023年現在、金融商品取引法を基準として明確に規定されています。
私募債には、次のような種類があります。
- プロ私募債
- 少人数私募債
- 銀行引受の私募債
プロ私募債とは、銀行や信用金庫、証券会社などをはじめとした適格機関投資家が対象です。そのため、専門家といえる投資家をターゲットにしています。少人数私募債は一般の投資家に対して債券発行をすることが可能です。少人数私募債は経営者の友人や親族、取引先などに買い受けてもらうケースが一般的です。
銀行引受の私募債とは、銀行が投資家を集める社債のことをいいます。銀行側が私募債を買い付けたあとに、投資家へ代行して販売をおこなうシステムです。銀行で引受から保証までをおこなう銀行保証付私募債と、引受は銀行のみでおこない信用保証協会と銀行が保証をおこなう信用保証協会保証付私募債があります。
私募債と公募債の違い
私募債と公募債には次のような点で違いがあります。
- 募集人数
- 譲渡制限
- 発行市場
- 対象
募集人数
私募債は2種類あり、一般的に大口の投資家や機関投資家を対象に発行されるプロ私募債には募集人数に制限がありません。しかし、少人数私募債は限られた人数の投資家を対象に発行されることから対象人数が49人以下となっています。
一方、公募債は一般的な投資家全般を対象に発行される債券です。公募債は市場全体に公開され、多くの一般的な投資家に参加の機会を提供します。そのため、募集人数に制限はありません。公募債は、一般の個人投資家や機関投資家が比較的容易に参加し、市場の流動性を高める役割を果たします。
譲渡制限
私募債でもプロ私募債の場合は譲渡や発行総額に制限はありません。しかし、少人数私募債の場合は譲渡制限を設定する必要があります。
公募債には譲渡制限がありません。公募債は市場全体に公開され一般的な投資家に参加の機会を提供します。投資家は満期まで待つ必要なく、自由に債券を譲渡することが可能です。これにより、公募債は投資家にとって流動性が高く、柔軟な取引がおこなえる投資機会となることが特徴です。
発行市場
私募債と公募債によって発行市場が異なります。私募債の発行は、特定の投資家や関係者とのプライベートな取引に限定されます。このため、私募債は非公開市場で発行され、市場全体に公開されることはありません。企業や団体は公開されないため、より個別化された条件や取引の柔軟性を享受することができます。
対して公募債は公開市場で発行されるほか、取引は証券取引所でおこなわれます。証券取引所で価格が決まることから、透明性のある市場で投資家は享受することが可能です。公募債は証券取引所での取引がおこなわれるため、市場の流動性も高く投資家は比較的容易に債券を売買できます。さらに、公開される情報や財務状況の開示が求められるため、投資家はより詳細な情報を入手することによりリスクを評価することができます。
私募債のメリット
私募債には次のようなメリットがあります。
- 担保が不要
- スムーズな資金調達
担保が不要
私募債は、公募債とは違い特定の投資家に対して募集されるため原則として担保が不要です。公募債は一般の投資家を対象に募集されるため、多くの場合、発行会社は担保を提供する必要があります。しかし、私募債では特定の投資家との取引に基づいて発行がおこなわれるため、担保の設定は必須ではありません。
私募債にて担保が不要である理由として、発行会社が事業の将来性や信用力を根拠に投資家から資金を調達できることが挙げられます。そのため、発行会社が債務を返済できる能力を持つことが重要です。
スムーズな資金調達
私募債は特定の投資家や機関などと直接交渉するため、公募債に比べて発行手続きが簡単であり、スムーズな資金調達が可能です。発行会社が特定の投資家や機関と直接交渉することから、公開市場での規制の煩雑さや手続きを回避できることも大きな特徴です。
また、私募債は独自の契約条件を設定できるため、発行会社と投資家のニーズに合わせられる柔軟性があります。公募債は一般的な条件や規定にもとづいて発行されますが、私募債では発行会社と投資家との間で直接契約がおこなわれます。これにより、発行会社と投資家のニーズや要求に合わせた柔軟な取引が可能です。
私募債のデメリット
私募債には次のようなデメリットがあります。
- 返済猶予の設定ができない
- 銀行保証付私募債の場合手数料が発生
返済猶予の設定ができない
私募債ではどのような場合であっても返済猶予はできません。企業が黒字続きであっても、業界の動向の変動や経済状況の変化によって資金戦略が影響を受ける可能性があります。私募債を発行する際には、返済能力の確保やリスクマネジメントが重要となります。
私募債は特定の投資家や機関との直接交渉によって発行されるため、発行会社と投資家との関係が密接です。発行会社は、返済能力を確保するために収益性やキャッシュフローの計画、資金使途の明確化などを十分に考慮する必要があります。
銀行保証付私募債の場合手数料が発生
銀行保証付私募債の場合手数料が発生します。例えば、三井住友銀行で私募債を発行する場合は、利息以外にも、保証料や発行関連手数料などが必要です。
また、発行に伴う手続きや書類作成、債券の登録などの発行関連の手数料も発生することがあります。これらの手数料は、発行会社と銀行との契約や取引の実現に必要な費用として請求されるものです。
公募債のメリット
公募債には次のようなメリットがあります。
- 資金調達の規模を増やせる
- 譲渡制限がない
資金調達の規模を増やせる
公募債は不特定多数の投資家に購入してもらうことから、資金調達の規模を増やすことが可能です。公募債を発行するためには厳しい規制条件があることから、上場企業が発行するのが一般的です。そのため、発行額は数百億から数千億円になる可能性があります。
公募債の大規模な資金調達は、企業の成長や事業拡大、新規プロジェクトの資金確保などに役立ちます。多くの投資家が参加することで、企業は多様な資金源を活用でき、リスクを分散させることも可能です。また、公募債の発行額が大きいため、大規模な事業計画や長期的な資金需要にも対応できます。
譲渡制限がない
公募債には譲渡制限がありません。買い手がついていれば、投資家は満期の償還を迎える前であっても債権の譲渡が可能です。私募債では譲渡制限がついていることが多く、公募債でのメリットであるといえます。
公募債の譲渡制限のなさは、投資家にとって流動性や柔軟性をもたらします。投資家は自身の投資目的や資金状況に応じて、必要に応じて債券を売買できます。一方、私募債の譲渡制限は、投資家にとって債券の所有や売却に制約をもたらすことがありますが、それは発行会社と投資家の関係や情報の管理に関わるものです。
公募債のデメリット
公募債には次のようなデメリットがあるので注意が必要です。
- 資金調達に時間がかかる
- 手続きが複雑である
資金調達に時間がかかる
公募債は私募債とは異なり、一般投資家に対して募集をすることから資金調達までに時間がかかる可能性があります。一般投資家の場合は発行者からの情報開示を待つことが必要なためです。有価証券届出書の提出をはじめ、手間もかかります。有価証券届出書とは、有価証券の募集をするときに金融商品取引法に基づいた書類の提出が必要です。
手続きが複雑である
公募債は私募債と比べて発行手続きが複雑といった特徴があります。公募債を発行するためには、有価証券報告書や有価証券届出書によって企業の財務状況を情報開示したり、社債管理会社を設置したりすることが必要です。さらに、社債管理会社の設置や投資家との契約書締結などの手続きが原則として必要です。これらの手続きは時間と労力を要し、手間やコストがかかることがあります。
まとめ
社債発行には私募債と公募債の2種類がありますが、それぞれのメリットやデメリットがあります。私募債は発行手続きが簡単であることから迅速な資金調達が可能です。また、銀行引受や少人数私募債などさまざまな種類から選べます。
公募債は、一般の投資家に対して募集をするため、私募債と比べて大規模な資金調達ができる可能性があります。公募債は手数料がかかったり、手続きが複雑であったりするため大規模な資金調達が主な目的です。