2022.09.27

事業承継と事業継承の違い

会社を引き継ぐ際は事業承継といった言葉がよく使用されますが、事業継承という言葉も見受けられます。2つの言葉は意味合いが似ていますが、本質は異なるため使用には注意が必要です。双方の違いは引き継ぐものの抽象度にあり、具体的だと継承が使用され、抽象度が高いと承継が使用されます。誤解を生まないようにするために、双方の本質と違いを理解し、正しく使い分ける必要があります。

事業承継と事業継承の違い

承継と継承の概要と違いは次のとおりです。

承継とは

承継には先代の人から地位や身分、仕事、精神などを受け継ぐ意味があります。理念や思想など、抽象度の高いものを引き継ぐという意味が強く、一般的なイメージでは承継のほうが正しくないと思われがちですが、法律用語として適切な表現です。

実際に承継は権利や義務を引き継ぐことを指す法律用語として使用されています。経営承継円滑化法や事業承継税制など、契約書や条文でも承継という表記が頻繁に使用されているうえ、前任者から法律上の手続きを経て会社を引き継ぐという性質から、法律上の話で使用する場合は承継のほうが正しいとされています。

継承とは

継承には先代の人から義務や遺産、権利などを受け継ぐ意味があります。前任者が得た資格や経済的価値など具体性のあるものを引き継ぐといった意味が強く、先に資産を受け継いでから、後で自分のなかで承認するというイメージです。承継のほうが法的な意味合いなどがあり使用されにくい傾向にあるため、一般的なイメージでは継承のほうが正しいと思われがちです。

事業承継と事業継承の使用例

言葉だけの説明ではイメージが湧かないかもしれないため、具体的な例文を参考にすると良いです。双方の使用例は次のとおりです。

承継の例文

承継の例文には以下の内容が挙げられます。

  1. 先祖から伝わる理念や思想を承継したい
  2. 経営に対する想いを承継する

理念や思想を承継したいなどのように、抽象度の高いものの引き継ぎをおこなう際に承継という言葉を使用します。相手に合わせて引き受けることが先行しており、相手の気持ちや考えを優先することを大切にしています。

先の人の地位や精神を引き継ぐといったように、精神的なものが関わるため、事業承継は相手の気持ちを中心にしている表現です。また、精神のほかにも、経営に対する想いを承継するなどのように、想いにも重きを置いています。

継承の例文

継承の例文には以下の内容が挙げられます。

  1. 伝統文化を継承する
  2. 王の座を子孫に継承する

継承は、承継と比較して抽象度の高いものを引き継ぐわけではなく、伝統文化を継承するなど具体性のあるものを引き継ぐ意味があります。継承という表現は引き継ぐことを重要としているため、以前からある状態のものを今後も維持することを目的とした言葉です。また、王の座を子孫に継承するといった王位などの身分に関することは具体的なものを引き継ぐことに該当するため、継承を使用します。

事業承継により後継者に引き継ぐ要素

会社の引き継ぎで後継者が取得する要素は次の3つです。

  1. 経営
  2. 資産
  3. 知的財産

経営

後継者は会社の経営を引き継ぎます。会社の経営者が持つ権利のことを経営権と呼び、事業の継承では現経営者が後継者に経営権を引き渡します。会社の経営権を完全に確立している状態として、株式の保有数が3分の2以上であることが基本です。

会社の引き継ぎをおこなったあと、今後の方針を引き受けて一貫した経営を実施してくれることが企業の存続に重要であるため、後継者の選定と育成は大切な役割を担っています。近年では、親族内だけではなく、親族外からの後継者も増えているため、選定する選択肢の幅が広がっています。

資産

資産の引き継ぎでは財産権や株式など会社が持つ資産を受け継がなければならないため、後継者は多くの大切な役割を担うこととなります。財産権とは著作権や特許権などを示した会社が持つ資産のひとつです。

一方で、株式は経営権とつながりがあり、会社を経営できる状態にするには株式の保有が必要です。後継者は経営権のほかにも、財産権や株式などさまざまな資産について引き継ぐことになるため、大きな負担がかかる点に注意しなければなりません。

知的財産

知的財産は承継に大切なものであるため、しっかりとした引き継ぎをおこなう必要があります。知的財産には経営理念や特許、人脈などがあり、無形資産と同等です。

承継という言葉は、経営理念のような抽象度の高い概念を引き継ぐものであるため、経営理念に関して一貫してくれる後継者を見つけることが大切です。また、会社の業績には多くの従業員や取引先などの関わりがあるため、人脈を大切にする後継者が求められます。

事業承継に役立つ補助制度

会社の引き継ぎは簡単なものではなく多くのコストや時間を要します。そのため、自社だけの資源で取り組みを進めずに、補助制度を利用して負担を軽減する必要があります。事業継承に役立つ補助制度は次のとおりです。

  1. 事業継承税制
  2. ガイドライン・マニュアル
  3. 補助金

事業継承税制

事業継承税制とは、非上場企業の株式など後継者の取得した一定の資産が、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けると贈与税や相続税の納税を猶予する、または免除される制度のことです。事業継承税制には会社の株式を対象とする法人版事業承継税制と、円滑に経営や資産の引継ぎがおこなえる個人版事業承継税制の2つがあります。

ガイドライン・マニュアル

ガイドラインには経営者の方向けに、事業継承の取り組み方が分かりやすくまとめられています。事業の引継ぎを検討している経営者は、ガイドライン・マニュアルを参考に、経営や資産の引き継ぎ方について学習可能です。ほかにも、初めてM&Aを検討する経営者に向けて、イラストを交えながら中小M&Aの内容を紹介している中小M&Aハンドブックや、中小M&Aの取り組み方などをまとめている中小M&Aガイドラインなどがあります。

補助金

事業承継に役立つ補助金として挙げられるのは次の3つです。

  1. 経営革新事業
  2. 専門家活用事業
  3. 廃業、再チャレンジ事業

経営革新事業は会社の引き継ぎやM&Aをもとに、経営革新をおこなうための費用を補助する制度です。一方で、専門家活用事業はM&Aについて専門家への相談に必要な費用を補助する制度です。売り手と買い手が申請できる補助金であるため、専門家に対する謝金や旅費などの幅広いものが補助対象となります。

また、廃業、再チャレンジ事業は既存事業の廃業費を補助する制度であり、後継者と被後継者のどちらも申請の機会があります。

まとめ

承継と継承は似たような表現ですが、本質的な意味は異なります。承継は理念や思想、精神などの抽象度の高いものを受け継ぐ意味が強く、継承は前任者が得た経済的価値や資格など具体性のあるものを引き継ぐ意味が強い傾向にあります。双方は状況によって使い分ける必要があり、内容を伝える相手に誤解を生まないためにも配慮が大切です。

会社の引継ぎでは経営や資産、知的財産といった具体性のあるものを後継者へ引き継ぐため、継承が使われる機会が多々あります。しかし、承継は法律用語として使われるため、書類などには承継と表記されるケースが多い傾向にあります。

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