2018.05.18

中国3大ネット大手BATの現在と未来展望

■はじめに

中国のIT産業は今や世界でもトップクラスの市場を作り出しています。中でも3大ネットサービス大手、通称BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)の成長は年々勢いを増し、世界でも類を見ない飛躍を遂げています。

ここではBATの2016年度と2017年度における株価、売上・利益、売上構成比を比較し、現在の規模や成長率について見ていきます。また日本のネットサービス大手、ヤフー、楽天、LINEと比較することで、BATの近年の業績を直感的に把握できるようまとめました。

さらに各社の最近の発表から今後の事業展望を読み解いていきます。

■中国3大ネットサービス企業BATとは?

BATは、B:百度(バイドゥ)、A:阿里巴巴集団(アリババ)、T:騰訊(テンセント)の頭文字を取っています。

各社はすでにあらゆるネットサービス市場において事業ドメインを設定していますが、バイドゥはもともと検索大手であり、日本でいうヤフーのような位置づけといえます。アリババに関しては、EC事業が活発で、CtoCのタオバオ、BtoCのTmall(天猫)、BtoBのアリババドットコムを運営しています。

日本では楽天と比較することで理解が進むでしょう。

そして、テンセントは中国版LINEともいわれる微信(WeixinおよびWechat)プラットフォームをベースにしたモバイルコミュニケーションビジネスを主軸に、広告事業や決済サービス事業、ゲーム事業などを展開しています。

■株価

まずBAT各社の株価を確認します。下のグラフは中国の大手金融系ニュースメディア「投資界」がまとめた各社の年度末における株式時価総額です。なお、中国の会計年度は、1月1日から12月31日までとして統一されています。

<出典:投資界>

さて、バイドゥは571億米ドルから813億米ドルへ42%値上がりしています。アリババは2,244億米ドルから4,407億米ドルへと96%の値上がりでした。テンセントもまた2,306億米ドルから4,959億米ドルへと115%の劇的な値上がりとなっています。

また2018年3月1日時点での各社の株価収益率(PER)は、バイドゥが34.36倍、アリババが52.82倍、テンセントが55.40倍です。一般的に日経平均PERは15倍前後といわれていますが、このことからもBATに対する市場からの期待が多大なものであることが伺えます。

■売上・利益

次に売上および利益について見ていきます。下記はBAT各社の決算報告よりまとめたものです。1人民元=16.2円として換算しています。

バイドゥは近年、アリババ、テンセントに比べ成長が鈍化するものの、AIや自動運転分野への投資を盛んに行っています。

アリババは57%の売上成長に対し、利益は42%減少となりました。前年に計上したグループ傘下企業の再評価益などを計上したためで、これを除く営業利益ベースでは65%の増益となっています。 一方、テンセントは56%の売上成長、75%の増益と好調です。

微信ユーザーが10億人を突破し、決済サービスなどこれまで力を入れてきたフィンテック領域で収益を伸ばしています。

■売上構成比

続いてBAT各社の売上構成比を確認します。下のグラフは中国大手金融ニュースメディア「新浪金融」がまとめた2017年第二四半期における各社の売上構成比です。

<出典:新浪金融>

バイドゥは、やはり広告による売上が大半を占めます。

検索連動型広告やアドネットワークなど、従来の広告モデルによる収益がメインではあるものの、成長率は比較的低く7.5%~11%に収まっています。

一方で動画配信サイト「愛奇芸(アイチーイー)」は前年度比71%成長となり、今後の収益源として期待されています。

アリババはEC事業が活況です。11月11日いわゆる「独身の日」に行われるダブル11キャンペーンはわずか1日で2兆円近くの流通総額(GMV)を立てるほどの盛り上がりを見せています。最近では通常のEC販売に加え、KOLを活用したライブ配信による商品プロモーションなども注目を集めています。またデジタルメディア領域ではYOUKU(中国版Youtubeともいわれる)を2015年に56億米ドルで買収しています。

テンセントはWechatやWeixinなどコミュニケーションプラットフォームを基盤にゲーム事業で4割以上の売上を立てています。昨今の代表作に「Honor of Kings(王者栄耀)」があり、すでに2億ダウンロードを突破したと発表されています。

またMAU1億を越える世界最大規模のオンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」を開発する米カリフォルニアのRiot Gamesを傘下に持ち、2016年にはフィンランドのモバイルゲーム開発会社Supercellの全株式をソフトバンクグループより購入しています。

■日本企業との比較

BAT各社の業績を日本のネットサービス大手と比較したものが下記の表です。

一概に日中各社をそれぞれ対比させることは難しいですが、中国勢はまさに桁違いの売上を上げ、高い成長率を維持しています。

バイドゥは他の中国2社に比べ、遅れを取っているとはいわれるものの、売上成長率にして20%増となっています。アリババは57%増、テンセントも56%増と飛躍的な成長を遂げていることが、時価総額にも大きく影響していると見て取れます。

■各社今後の事業展開

さて、それぞれに業績を伸ばすBAT各社ですが、今後の事業展開は三者三様です。
バイドゥはグループ子会社の動画配信サービス「愛奇芸」を米国で上場する方針を明らかにしました。

2018年2月15日、日経新聞の報道によると、IPOによりグループ全体の資金力を高めることで、これまでに力点を置いてきたAI分野、自動運転分野へのさらなる投資が加速させると見られています。

同社は2017年4月に自動運転の開発連合「アポロ計画」を発表しています。アポロ計画とは2020年までに完全自動運転の実用化を目指す中国政府お墨付きのプロジェクトで、同年7月には米フォード・モーター、独ダイムラーや米国のAIコンピューティング大手NVIDIA(エヌビディア)、そして米インテルなどが名を連ね、発足半年で世界約1700社が参画したと見られています。

アリババに関しては、2016年馬雲氏により打ち出されたニューリテール戦略が大きな話題を呼びました。新たなテクノロジーとデータにより、アリババはオンラインとオフラインの垣根を越えた顧客中心の全く新しいリテールエコシステムの構築に邁進しています。

同戦略に基づく投資攻勢はすさまじく、大手小売チェーン企業や決済サービス事業者などの株式を積極的に取得し、無人スーパーなど新たなサプライチェーンの開発に乗り出しています。

そしてテンセントの動きはスマートシティ開発で拡大しています。お膝元である深圳市、そして重慶市や上海市などと提携し、フィンテック化が加速する微信プラットフォームの活用により行政サービスの提供などを進めています。

光熱費など公共料金の決済、Wechat上で表示可能な電子運転免許証、パスポートなど公的書類の申請手続き、病院の診療予約など、あらゆる生活基盤がWechat上に実装され、まさに中国政府が推進する「互聯網+(インターネットプラス)」戦略に則した事業展開がなされています。さらにオンライン小口ローンの理財通や保険商品など、金融事業の拡大も顕著になってきました。

各社それぞれが既存事業の成長を維持しつつ、AIやO2O、フィンテック、ビッグデータなど次世代分野への投資を積極的に行うことで、新たな市場創出を展望しています。果敢な中国勢の動向を追うことで、日本企業が学べることも多くあるのではないでしょうか。

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