2021.01.18

ジョブ型人事制度とは?メンバーシップ型との違いと導入パターン

ここ数年、日本企業では職務型人事賃金制度(ジョブ型人事制度)の導入が話題です。日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長が「1つの会社でキャリアを積んでいく日本型の雇用を見直すべき」と提言するなど、更に注目度が上がってきています。

2020年に入り、ジョブ型人事制度を検討する企業は増え続けています。ここでは、ジョブ型人事制度の導入を検討するために知っておくべきポイントを解説します。

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ジョブ型人事制度とは

ジョブ型人事制度とは、会社に必要なポジション(職務)とポジションの価値を明確にし、ポジションに合う人を配置、採用、育成し、ポジションの価値に応じて報酬を支払う制度のことです。

中途採用はこのジョブ型人事制度が一般的で、営業募集、マーケティング募集と職種を特定して採用する方法がそれにあたります。

ジョブ型人事制度とメンバーシップ型人事制度の違い

ジョブ型人事制度の導入にあたり必要なものは、ジョブディスクリプション(職務記述書)です。ジョブディスクリプションとは、あるポジションの職務内容を記した文書のことです。

ジョブ型人事制度は職務を限定した採用なので、募集する際も具体的な職務内容や職務の目的、目標、責任、権限の範囲から、社内外の関係先、必要な知識、スキル、経験、資格などを明確にする必要があります。

対して、日本の従来の新卒一括採用型の雇用システムはメンバーシップ型人事制度といわれています。

スキルがない状態で研修を通じて教育し、適性を見て配属を実施し、転勤や異動、ジョブローテーションを繰りかえすことで、会社を支える人材を長期的に育成していくスタイルのことです。

ジョブ型人事制度と比べると、会社に人を合わせていく会社基準の雇用といえます。

定年まで雇用の安定を約束する「終身雇用」とも呼ばれ、戦後の高度成長期にはこの雇用方法が合理的でした。この雇用は、この時代に完成されたといわれています。

ジョブ型とメンバーシップ型の比較
ジョブ型 メンバーシップ型
採用タイプ 就職型 就社型
基本理念 職務とその成果に応じた報酬 職場は運命共同体
人材の流動性 高い 低い
価値観 生産性重視 / 不適合の場合は離職へ 関係性重視 / 長時間労働が発生しやすい
企業タイプ 欧米 / ベンチャー / モダン産業に多い 日本 / 大手 / レガシー産業に多い
仕事の範囲 仕事範囲の境界が明確 / ジョブディスクリプションでの個別定義が容易 仕事範囲の境界が曖昧 / ジョブディスクリプションでの個別定義が困難

なぜ今ジョブ型人事制度なのか?

過去にもジョブ型人事制度の導入が注目された時代がありました。

なぜ今ジョブ型人事制度が注目されているのか、大きく分けて2つの理由があります。

  1. リモートワーク中心の労働環境への変化
  2. 専門職の採用激化

リモートワーク中心の労働環境への変化

新型コロナウイルスの流行に伴い、リモートワークが広まり、労働のあり方が大きく変わろうとしていることが1つ目の理由です。

リモートワークでプロセス型の評価が難しくなっているということが直接的な背景です。

そのため、職務内容に対してあらかじめ報酬を決めた「ジョブ型」の雇用・人事制度に人気が集まっています。

リモートワークの急増

専門職の採用激化

特にエンジニアの獲得競争が激化していることが2つの目の理由です。

以前からエンジニアの中途採用を中心にジョブ型を採用する企業は増えていました。若手から右肩上がりになる従来の日本型賃金制度では若年層を獲得できないというのが現状です。

特に2~3年前からサイバーエージェントやソフトバンク、メルカリなどのメガベンチャーが新卒一括の初任給をやめ、職務別採用を始めたことで若手人材の獲得競争が激化したという背景があります。

それによって日本型雇用を守ってきた大企業でも新卒からジョブ型を取り入れる企業が増えてきました。

ジョブ型人事制度のメリットとリスク

ジョブ型人事制度のメリット

ジョブ型人事制度のメリットは次の2つです。

  1. 賃金の適正化ができる
  2. 組織の生産性を高めることができる

賃金の適正化ができる

ジョブ型人事制度導入以前は年功序列型が中心でしたので、従業員は会社に所属していれば在籍年数に応じて一定の賃金を支払う必要がありました。しかし、成果や能力に依存しない給与体系であるため、場合によっては割高な賃金を支払う必要が出てきます。

ジョブ型人事制度を導入することことで職務難易度や業務内容に応じた賃金の支払いができ、賃金の適正化ができます。

組織の生産性を高めることができる

ジョブ型人事制度では業務を定義する必要があるため、必要な業務に対して必要な人材を雇用することができます。これにより専門知識を持った人材を必要なときに確保することができ、業務が不要になった場合には契約を終了することができます。

労働者側からすると自身の能力に見合った給与体系で業務に専念することができ、自身の業務範囲以外の仕事をする必要がないありません。そのため、企業の収益性と生産性を高めることができます。

ジョブ型人事制度のリスク

ジョブ型人事制度のリスクは次の2つです。

  1. 関係性が失われる怖れがある
  2. ジョブディスクリプション以外の業務は依頼できない

関係性が失われる怖れがある

従来の日本企業では職務を定義しないメンバーシップ型人事制度が導入されておりました。互いの関係性を重視する傾向が強く、職場は運命共同体という認識があります。必然的に業務の助け合いをおこなうマネジメントがおこなわれてきました。対して、ジョブ型人事制度では自身の業務を完遂することだけが求められるため、自身の業務以外には対応しないという環境が生まれる可能性があります。

ジョブディスクリプション以外の業務は依頼できない

ジョブ型雇用人事制度では、ジョブディスクリプションにより業務が定義されるため、ジョブディスクリプションに記載のない業務はやらないというのが前提です。しかし、現実には業務の状況により自身の専門業務以外にもおこなう必要が出てきます。ジョブ型人事制度では記載のない業務に対し、誰も対応しないという状況が発生する可能性があります。

ジョブ型人事制度の導入 3つのパターン

ジョブ型人事制度の導入にあたり、初めから全面的に切り替えるのは難しいことが多いでしょう。

導入パターンは大きく分けると3つに分かれます。

  1. 一部職種・階層に限定した導入
  2. 全面切り替え
  3. ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッド

1.一部職種・階層に限定した導入

現在主流になっているのは、エンジニアなどの特定職種や管理職で導入するパターンです。特にグローバル展開している企業は管理職のみ役割等級やジョブ型へと切り替えている企業が増えています。

最近では、富士通が国内の課長職以上の1万5,000人を対象にジョブ型を導入するなど、大手企業が導入するときに見られるパターンです。

2.全面切り替え

全面的にジョブ型を導入するのは、以前は外資系企業やある程度まで成長したベンチャー企業で見られたパターンでした。しかし、段階的に導入し、全面的に切り替えていく日立のような国内の大手企業も出て来ました。

全面切り替えを行う際は採用の仕方から退職金などの周辺制度や上司のマネジメントなど変更することが非常に多く、ハードルは高いと言えます。そのため、日立では制度を中心とした組織のハードの部分だけでなく、タレントレビューを導入した職務と人をマッチングするマネジメントスタイルのような組織のソフトの部分も時間をかけて一緒に変革を進めていることがポイントです。

3.ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッド

日本企業で増えているのは、ハイブリッド型です。

メンバーシップ型の良さを維持しつつも、年功序列型では競争力が保てないため、ジョブ型制度の良さを取り入れた制度を導入する企業が増加しています。

例えば、あるベンチャー企業では、事業ビジョンや目指す組織カルチャーから中長期的な観点でスキルの拡張・深化が必要なため、「事業・プロジェクトコミット型」のキャリア形成を中心に考えつつ、組織変革・発展への刺激を与える「就職型」人材の1~2割参画を想定したハイブリッド型の人事制度を策定しています。

想定する人財タイプの範囲は事業・プロジェクトコミット型を中心に考えつつ、就職型も想定すること

ジョブ型人事制度の導入に向けて検討すべきこと

ジョブ型人事制度採用を検討する際に考えるべきことが3つあります。

  1. 事業戦略・事業KFSとの一貫性
  2. 組織のタイプ
  3. 採用・育成との一貫性

つまり、「ひとまずジョブ型人事制度を導入する」ことを目的にするのではなく、「自社の事業×組織×人材」のありたい姿を十分検討してから、ジョブ型人事制度が向いているかを見極めることが必要です。

特に、成長ステージにある企業の場合は、成長ステージに応じて何年後をイメージするのか検討しないと、検討している間に事業環境が変わってしまい、制度が合わないということにもなりかねないので注意してください。

ジョブ型人事制度が向くケースと向かないケース
向くケース 向かないケース
業界の変化スピード 中程度
  • 遅すぎる(役割が固定的)
  • 早すぎる(ジョブサイズの測定やジョブディスクリプションの運用が困難に)
業界の成熟度 中程度
  • 超成熟期
  • 導入期(成果創出フロー、業務の切り分けが不明確)
成果創出のプロセス
  • プロセスが明確
  • 個人別の切り分けが容易
  • プロセスが不明確
  • 属人的な要素でのブレが大きい
組織形態 ピラミッド型、フラット型、マトリクス型、ホラクラシー型などさまざまなタイプで可能 役割や職務の変更に柔軟性が乏しい組織は向かない
カルチャー 合理的、機能体型 年功序列型、共同体型
人材の育成期間(戦力化スピード) 短い 長い(成果創出に熟練が必要)
即戦力の確保の容易さ 容易(同業他社などからの流入が起きやすい、必要なスキルに他社との共通性がある) スキルの特殊性、希少性が高い

ジョブ型人事制度の導入を検討する企業様へ

ジョブ型人事制度導入の5つのステップと3つの落とし穴

ジョブ型人事制度はメリットも多く注目を受けていますが、正しく導入しないと失敗してしまいます。

エンジニアなどの専門人材の採用の強化につながることや、成果の出やすい環境を整えられる一方、会社都合の転勤・異動が抑制されたり、新卒社員の活躍の場が少なくなるなどのデメリットもあるため、離職者が増える可能性も大いにあります。

そのような背景から弊社では、ジョブ型人事制度導入企業を分析し、ご支援してきた実績から導き出した「成功要因」を押さえることが重要と考えております。

詳しい内容は、「ジョブ型人事制度導入の5つのステップと3つの落とし穴」についてプレゼント資料を送付しますので、資料請求フォームよりお問い合わせください。

また、人事評価制度や採用、育成などの組織開発について相談をご希望の際はその旨をご記載ください。

人事評価制度構築プロジェクトで実現出来ること

  1. 社員を巻き込んだ制度設計を行うため、納得度、浸透度が高い
  2. 理念・ビジョン-戦略-組織-人材を一貫した経営が実行できる
  3. 採用・育成・活性化という評価以外の組織機能にも影響し、組織全体に変革を起こす

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