- 経営戦略
キャッシュレス・ロードマップとは
キャッシュレス・ロードマップとは、2019年4月に一般社団法人キャッシュレス推進協議会が発表した今後キャッシュレスが普及するための方向性を示したものです。生体認証による決済サービスをはじめとした今後活用が見込まれている技術について、実験や導入状況の調査を続けています。
経済産業省のキャッシュレスビジョンでは、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度まで上げると公表しています。キャッシュレス決済は2021年には32.5%、2022年には36%となっており順調に目標に近づいているといえます。
キャッシュレス・ロードマップとは
キャッシュレス・ロードマップとはキャッシュレス社会の将来像を定義することで、店舗や消費者、決済事業者、行政などのステークホルダーがキャッシュレス社会を実現できるような方向性を示しています。
キャッシュレスの推進
キャッシュレスを推進することで、消費者に利便性をもたらします。消費者の評価が上がることにより、事業者の生産性につながります。消費者には消費履歴をデータ化することで家計管理が楽になったり、持ち歩く現金を最小限にしたりなどのメリットがあります。
事業者にとっても、毎日のレジ締めでの負担を減らしたり、キャッシュレスに慣れている外国人観光客をよびやすくなったりなどのメリットがあります。さらに、購買情報を蓄積、分析することから効果的なマーケティングが可能です。
キャッシュレス決済の普及は、消費者と事業者の両方にとってメリットがあります。消費者は便利さや安心感を享受し、事業者は効率性や競争力の向上を図ることができます。そのため、キャッシュレスの普及を促進するためには、利便性やセキュリティに配慮したシステムの整備や普及啓発活動が重要です。
キャッシュレス・ロードマップ2022
日本のキャッシュレス決済は世界と比べると導入が遅れています。しかし、2015年に18.4%だったのが2021年には32.5%となっており、緩やかではありますが、導入が進んでいます。
世界のキャッシュレス決済比率
日本のキャッシュレス決済比率は2020年で29.8%です。韓国では93.6%、中国では83.0%となっており、日本は世界と比べて大幅にキャッシュレスの導入が遅れていることがわかります。
日本におけるキャッシュレスの動向
日本のキャッシュレス決済比率は、2008年に11.9%だったのが、2021年には32.5%と拡大中です。決済手段別で比較をすると、キャッシュレス決済は電子マネーの支払額とほとんど変わらない結果となっています。
日本のキャッシュレス決済比率推移
日本のキャッシュレス決済比率は、2008年以降年々高まっており、2021年に32.5%(対前年比で2.8%増)となっています。決済手段別では、2020年にコード決済の支払い額がデビットカードを超え電子マネーの支払い額とほとんど変わらない数値です。
画像出典:キャッシュレス・ロードマップ2022(2022年6月一般社団法人キャッシュレス推進協議会)
また、電子マネーも便利な支払い手段として広く普及しています。電子マネーはプリペイド式のカードやスマートフォンアプリなどを通じて利用され、小額の支払いや交通機関の乗車券としても活用されています。
キャッシュレス決済の普及には、消費者の利便性向上やキャンペーンなどの促進施策、さらには新型コロナウイルス感染症の影響による現金の使用減少などが要因として挙げられます。
海外のキャッシュレス決済状況の推移
2015年から2020年でのCAGR(Compound Annual Growth Rate、年平均成長率)によると、韓国が89.1%から93.6%、ドイツが63.9%から83.0%、日本は18.4%から29.8%とキャッシュレス決済が伸びています。
日本のキャッシュレス化が遅れている理由
日本のキャッシュレス化が遅れている理由として次の点があげられます。
- 現金における信頼感
- ATMの利便性
- 盗難の少なさ
現金における信頼感
日本は海外と比べて偽札の流入がほとんどありません。そのため現金に対する信頼度が高いといった特徴があります。
デジタル決済の普及も進んでおり、キャッシュレス社会への移行も進んでいますが、日本では現金の使用が根強く、両者が共存する特徴も持っています。
ATMの利便性
日本は銀行や コンビニなど様々な場所に ATM が設置されています。そのため、いつでも容易に現金を入手できることから、キャッシュレスが不要であるケースが少なくありません。これにより、現金を持ち歩く必要性が相対的に高いとされ、キャッシュレス決済への需要がそれほど高まっていないとされます。
盗難の少なさ
日本は世界と比べて盗難が少なく、現金を紛失しても戻ってくる可能性があるという特徴があります。治安の良さが日本のキャッシュレス化が遅れている要因の1つです。
キャッシュレス決済の利用状況
2022年3月に消費者庁が発表した店頭購入及びキャッシュレス決済に関する意識調査結果において、2022年2月にアンケートをとった時点で90.4%の消費者がキャッシュレス決済を利用していると答えており、ほとんどの消費者がキャッシュレス決済を利用しているといっても過言ではありません。2018年のアンケート結果では84.7%、2020年の時点では90.1%となっており年々増加しており、今後さらに需要が高まることが見込まれています。
キャッシュレス・ロードマップ2022の進捗状況
一般社団法人キャッシュレス推進協議会では2021年にキャッシュレス・ロードマップ2022を公表しています。
キャッシュレス決済加盟店舗等の状況
キャッシュレスを導入している店舗にヒアリングや計測調査をしたところ、キャッシュレスと連動したサービスを併用することで効果を実感できるといった答えが複数集まりました。キャッシュレスと連動したサービスを導入していない店舗と導入している店舗では次のように満足度が異なります。
キャッシュレスと連動したサービスを導入 | キャッシュレスと連動したサービスを導入していない | |
---|---|---|
売上増加 | 最大63.3% | 18.9% |
業務効率化 | 最大73.3% | 22.0% |
決済時間短縮等 | 最大50% | 12.2% |
ユニバーサルデザイン化の進展
ユニバーサルデザインとは多くの人が使いやすい設計やデザインのことで、多くの人に使ってもらうことが目的です。2019年より日本政府は、多くの人が快適に利用できることを目的としてユニバーサルデザインの推進に力を入れています。
物理的な障壁のみならず、社会的、制度的、心理的なすべての障壁に対処するという考え方(「バリアフリー」)とともに、施設や製品等については新しいバリアが生じないよう誰にとっても利用しやすくデザインするという考え方(「ユニバーサルデザイン」)が必要であり、この両方に基づく取組を併せて推進することが求められている。
引用:バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱(内閣府)
キャッシュレス決済により、人々は現金を持ち歩く必要がなく買い物時にATMに行く必要がありません。この観点はユニバーサルデザインの視点を含んでいます。そのため、キャッシュレス決済の導入が進むことによって、ユニバーサルデザイン化の進展が進んでいるといえます。
まとめ
キャッシュレス・ロードマップは2019年に10年後のキャッシュレス社会の将来像を提起することを通じて、キャッシュレス社会を実現するための方向性を示したものです。店舗や消費者だけでなく、決済事業者や自治体、行政なども含まれています。
キャッシュレス・ロードマップ2022では、キャッシュレス普及促進施策への取り組み状況や国内外の動向などを発表しています。海外の国と比べると決済比率は決して高くはありません。しかし、国内の決済比率は2008年に11.9%だったのが、2021年には32.5%と拡大しており、2025年までに約40%にするといった目標に向けて拡充しているといえます。