2022.09.26

中小企業の事業継承

中小企業の事業継承では、これまで親族内でおこなわれるケースが多かったのですが、近年は後継者不在や育成不十分などの問題から事業継承がうまくいかず、黒字経営であるにも関わらず廃業してしまうケースが多くの企業で見受けられています。

事業継承を成功させたいのであれば支援制度を利用すると良いです。日本では中小企業の事業継承を支える支援制度があるため、有効活用することで会社の引継ぎを成功に導けます。

事業継承の種類

事業継承とは経営者が後継者に会社の資産を引き継ぐことを意味します。

事業継承の種類は次の3つです。

  1. 親族内承継
  2. 親族外承継
  3. M&A

親族内承継とは血縁や親族関係の人物が後継者となり、会社を引き継ぐ方法です。事業継承について早期からの準備が可能であるうえ信頼できるなどのメリットがある反面、親族の立場から親の苦労を近くで見ることにより、経営者になりたい意志がなくなり後継者不足に陥るデメリットがあります。

一方で、親族外承継とは親族以外の人物を後継者にする事業の継承方法です。親族内継承と比較して後継者の選択肢が多いですが、後継者は自社株式を買い取らなくてはいけないため、多額の資金が必要となります。

また、M&Aとは企業の合併や買収を意味し、親族や従業員以外の第三者が後継者となる継承後攻です。事業の拡大や従業員の雇用の安定が望めますが、従業員の雇用条件や労働環境が変わるため、トラブルにつながりやすいです。

中小企業の事業継承における課題

中小企業が事業継承をおこなううえで課題となる項目は次のとおりです。

  1. 後継者が不在である
  2. 後継者の育成ができていない
  3. 相談相手が不在である
  4. 経営状態に不安がある
  5. ワンマン経営により意思決定が遅れる

後継者が不在である

経営者としての能力や資質を持つ後継者が理想ですが、双方を兼ね備える人材が多くの中小企業に不在であるという課題を抱えています。さらに少子化による子どもの減少と近くで経営者としての親の苦労を見ていることから、後継者になりたくないと考える子どもが増加しています。後継者がいないと黒字経営の企業でも廃業する可能性があるため、後継者不足は深刻な問題です。

後継者の育成ができていない

後継者の育成には社内教育やセミナーなどの様々な育成体験が必要となるため、多くの時間がかかります。後継者の育成には5から10年ほどかかるとされており、数ヶ月や数年で事業継承できる力は身に付きません。

高齢の経営者ではいつ体調を崩してしまうかわからないため、早い段階での育成が大切です。しかし、焦って後継者の育成を急かすことで、経営面での問題が生じるため慎重な判断が求められます。

相談相手が不在である

中小企業では事業継承に詳しい人材が少ないため、相談相手なしで取り組みをおこなう経営者は数多くいます。しかし、企業に後継者がいたとしても事業継承の方法が分からないと、会社の引継ぎを実現できません。事業継承税制をはじめとする各種制度について有益な情報を知っている会計士や税理士など、相談相手を見つけると事業継承の成功を実現できます。

経営状態に不安がある

事業継承では後継者が経営状態に不安を感じる機会が数多くあります。そのため、資産や負債の把握、知識資産の洗い出しなど会社の経営状況を明確にし、後継者が経営の特徴や業界の立ち位置の考え方を進められるような環境の整備が必要です。後継者が引き継ぐことを前向きに検討するような経営状況にすることが大切であり、ほかの改善策としては社内規定の整備や事業の競争力の向上などが挙げられます。

ワンマン経営により意思決定が遅れる

優秀な経営者が単独でおこなう経営体制のワンマン経営では、ほぼひとりで意思決定するため、負担や責任が集中してしまい判断が遅れる場合があります。意思決定の速度は業績を大きく左右するため、特に変化の激しい業界においては迅速な対応が必要です。しかし、事業の拡大に時間をかけすぎるあまり、事業継承の準備に時間をかけることができないケースに陥ります。

中小企業の事業継承におけるリスク

中小企業の事業継承におけるリスクは次のとおりです。

  1. 負債や個人保証も引き継ぐ
  2. 後継者と従業員が対立する
  3. 相続では遺留分を求められるケースがある

負債や個人保証も引き継ぐ

事業承継では会社そのものを後継者が引き継ぎますが、ほかにも会社の資産や負債を引き継ぐことになります。そのため、資金調達を借入に使っている場合、会社を引き継ぐことで借入も引き継がなければなりません。負債が多額なほど後継者には大きな負担がかかるため、現経営者は不在を抱えたまま事業を継承することを避けたほうが良いです。

後継者と従業員が対立する

後継者とともに経営方針が変わると、これまでの環境下で働いていた従業員が不満を抱く可能性があります。古参従業員には前の経営者と一緒に会社経営に携わってきた能力と自信があり、若い後継者は世代間の違いから対立するリスクがあるため注意が必要です。経営方針を変える、変えないことのどちらも間違っているとはいえないため、後継者のうまい立ち振る舞いが求められます。

相続では遺留分を求められるケースがある

後継者以外の相続人は会社相続の権利を得られるため、遺留分を求められるケースがあります。たとえ前の経営者が指名した後継者に会社を引き継いでも、法的にほかの相続人も相続の権利を獲得できます。株式が複数の相続人に分配された場合、株式が分かれてしまい、後継者の経営権が不安定になるリスクがあるため注意が必要です。

中小企業の事業継承における支援制度

中小企業の事業継承を支えるための支援制度は次のとおりです。

  1. 事業承継税制
  2. 事業承継ガイドライン
  3. 公的相談窓口

事業承継税制

事業承継税制とは、中小企業で事業承継をおこなった際にある条件を満たすことで、相続税や贈与税が100%猶予され、免除も可能になる制度です。事業承継税制は2008年に創設された後、2018年に改正されました。しかし、税理士などの専門家に相談しなければ、詳しい手続きを進めづらいため自分ひとりだけでなく、第三者の協力が必要です。

事業承継ガイドライン

事業承継ガイドラインとは中小企業の経営者に向けて中小企業庁が発表した事業承継への指針です。

内容としては以下が挙げられます。

  1. 事業承継に向けた準備の必要性の認識
  2. 経営状況や経営課題などの把握して
  3. 事業承継に向けた経営改善
  4. 社内へ引継ぎの場合は事業承継計画の策定を、社外へ引継ぎの場合はM&A仲介会社などに依頼してマッチングを実施
  5. 事業承継もしくはM&Aの実施

5つの段階に取り組むことで、スムーズな事業承継を実現可能です。

公的相談窓口

中小企業庁は中小企業の事業承継における全体的な公的支援機関として、各自治体に事業承継・引継ぎ支援センターを設置しており、各都道府県で取り組みが進められています。

主な公的な相談窓口として以下が挙げられます。

  1. 各自治体内の中小企業対応相談窓口
  2. 独立行政法人中小企業基盤整備機構
  3. 信用保証協会

事業承継を実現するためには公的な相談窓口の利用も大切です。

まとめ

事業継承とは経営者が後継者へと会社の資産を引き継ぐことです。これまでの中小企業では主に親族内での事業の引き継ぎが多い傾向にありましたが、後継者不在やワンマン経営などの問題から事業継承できないケースも増えてきました。

事業継承には負債や個人保証の引き継ぎ、後継者と従業員の対立などのリスクもありますが、十分な対策を取ることで問題を解決しつつ会社の引き継ぎを実現できます。特に支援制度を利用すると金銭面や経営者の抱える課題の解決につながります。

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