- 経営戦略
事業継承における失敗
事業継承とは経営者が後継者へ会社を引き継ぐことであり、事業の存続に必要不可欠なものです。しかし、事業継承は簡単に実現できるものではなく、後継者の選定や教育、相続トラブルなど、さまざまな問題があります。
事業継承に失敗してしまうと廃業や業績悪化、退職者の増加を招くことにつながるため、会社に大きな損害が生じます。会社の引き継ぎをスムーズに成功させ、継承後も安定した経営を続けるには、さまざまな取り組みが必要です。
事業継承が失敗する要因
事業継承に失敗すると、企業に大きな損害が生じます。失敗する要因は多岐にわたりますが、特に多いとされるのは事業継承に向けた取り組みの準備不足や後継者不在問題、相続後の業績悪化などです。
事業を継続していくために事業継承は必要不可欠であるため、十分な準備期間と適切な後継者選定、最適なタイミングの取り組みなどにより、会社の引き継ぎを成功させる必要があります。しかし、準備不足や後継者不在などの問題解決を怠ることで、事業継承に失敗してしまうケースも少なくありません。
事業継承を成功させるには、現経営者や後継者が事業継承に失敗するとはどういったことなのか、失敗したら会社はどうなってしまうのかなど、失敗事例やその先の末路にも目を向けて対策を練る必要があります。
事業継承の失敗事例
準備が不足している
準備不足による失敗事例としては、後継者が決定していることによる安心感や経営者自身による健康状態の過信から、事業継承の準備を先延ばしにしてしまっている例が挙げられます。取り組みを先延ばしにする場合、経営者に万が一のことが起きた際に慌てて事業継承をおこなうこととなります。手続き上は問題がないとしても社内の混乱は避けられません。
特に経営者としてのノウハウや人脈、信用など本来なら時間をかけて引き継ぐ必要があるものに関しては短期間ではどうにもなりません。さらにサポートやアドバイスを求める相談先の人脈も見出せないうえ、取引先との信頼関係も崩れ落ちたりすることとなります。
相談者なしに事業継承を進める
経営者が誰にも相談することなく自身の独断で事業継承を進めて失敗する例もあります。特にM&Aによる合併や売却においては、独断によるケースが多いため速やかに話は進みますが、親族内や社内での猛烈な反発が予想されます。
また、経営者の独断により、会社の外部から適任とされる後継者を呼び込んで継承させることも、従業員の理解を得られず反発を招くことにつながりかねません。従業員が何も知らないまま、または理解できないまま事業継承がおこなわれた場合、従業員は次々と会社を離れてしまう可能性も十分にあります。
後継者が見つからない
後継者の不在による失敗事例としては、もともと親族内や社内に後継者となる人物が存在しないケースもありますが、候補者は存在しても本人たちに継承する意思がないというケースもあります。また、現状の経営状態が悪いため継承を拒否された場合は、経営状態の見直しから始めなければならず、長期の時間が必要です。後継者の選定や経営状態の立て直しに時間をかけている間、経営者が倒れ、事業の継続が困難になってしまうケースも珍しくありません。
事業継承が失敗した場合の結末
事業継承に失敗した場合の結末は次のとおりです。
- 廃業
- 業績悪化
- 退職者の増加
廃業
事業継承がうまくいかなければ、廃業せざるを得ない状況に陥るケースがあります。経営者が自身の引退について考える際、事業継承か廃業かの選択をする必要がありますが、失敗すれば廃業するかもしれないという恐れがあります。そのため、事業継承への取り組みを先延ばしにしてしまっている経営者は多いです。
近年は、早期の取り組みをしていなかったために、経営者の高齢化が進んだことによる廃業が増えています。また、廃業による従業員の解雇は経営者にとって大きな責任を感じることとなり、精神的にも重大な決断となります。
業績悪化
事業継承がスムーズにおこなわれたとしても、継承後に業績が悪化してしまうケースも考えられます。後継者となる人物が親族内や社内から厚い人望があり、何の問題もないように見えても、経営者としての能力が欠けていては事業を継続させていくことは困難です。
また、営業能力が欠けていれば取引先からの信頼は得られないうえ、会社の資金に関する知識がなければ毎月の資金繰りに苦労することにもなります。経営者が代わった途端に取引先との契約を打ち切られ受注が減少してしまい、売上が激減するという典型的な失敗例も多いため、十分な準備期間が必要です。
退職者の増加
業績悪化により会社の経営が傾くと、従業員の退職も増えてしまいます。また、継承後に新経営者による急激な社内改革がおこなわれた場合、従業員の反発を招くことになります。
事業の成長や拡大を目的として起こした行動が、結果的には退職者を増やしてしまう原因となってしまうため注意が必要です。退職者が5割を超えてしまうと業務が止まり、経営ができなくなるため廃業に直結してしまう事態となります。
事業継承に失敗しないための対策
事業継承を失敗しないための対策は次のとおりです。
- 早期から準備する
- 後継者の意思を確認する
- 専門家によるサポートを受ける
早期から準備する
事業継承を成功させるには早期から準備することがもっとも大切です。後継者の育成には5年〜10年かかるとされているため、後継者が存在するからと安心して準備を怠ってはいけません。
経営者は自身の健康を過信せず、万が一のことを考えて健康状態の良い時期から準備を進めていくことが望ましく、事業継承のための取り組みは、自身の引退する時期を設定し、逆算して考えるのが一般的です。さらに現経営者と後継者の両者で時間をかけて事業継承計画書を作成すると、お互いの認識を共有でき、スムーズに事業継承をおこなえます。
後継者の意思を確認する
継承後のさまざまなトラブルを防ぐためにも後継者の意思はしっかり確認する必要があります。後継者の育成では人事や会計、営業など、会社の業務全般から経営者としての能力を時間をかけて身に付けなければならないため、後継者自身には相当な覚悟が必要です。
親族だからという理由だけで継承を承諾してしまうと、業績悪化や優秀な従業員の流出を招くことになってしまうため、継承するという意思確認は非常に重要です。また、経営者は後継者が従業員や取引先と良好な信頼関係が築けるよう十分配慮して話を進め、できるだけ後継者の負担を減らす努力をする必要もあります。
専門家によるサポートを受ける
事業継承を成功させるには専門家によるサポートを受けることも大切です。特にM&Aによる継承を考えている場合は、自身の力だけで進めていくことはほぼ不可能であり、専門的な知識を必要とします。経営者の独断や後継者との間だけで話を進めてしまうとトラブルに発展してしまうため、親族内や社内での相談はもちろんのこと、場合によっては専門家のアドバイスを聞くことが大切です。
まとめ
事業継承とは経営者が後継者となる人物に会社を引き継ぐことを意味します。会社を続けるために必要不可欠なものであるため、取り組みには十分な時間が必要です。しかし、後継者の不在や育成が不十分であることなどから、事業継承に失敗する企業のケースは多く見受けられます。
事業に失敗すると廃業や業績悪化により会社に損害が生じるだけでなく、退職者の増加にもつながるため注意が必要です。事業継承を成功させたいのであれば、早期の段階から準備に取り掛かり、取り組みを進める必要があります。