2022.10.19

事業ポートフォリオマネジメントとは

事業ポートフォリオマネジメントとは、事業を戦略的に組み替える経営のことです。経営資源を効率よく活用することによって、企業価値を最大化することが大きな目的です。経済状況の変化や新型コロナウイルスの感染拡大などの外部環境の影響により、自社経営方針を見直す企業は少なくありません。

複数の事業を進めている企業が苦境を超えてさらに成長をするためには、事業ポートフォリオマネジメントが重要です。

事業ポートフォリオマネジメントの基本的な考え方と現状

複数の事業を展開している企業では、事業ポートフォリオマネジメントが重要です。事業ポートフォリオに取り組むためには仕組みの構築が重要ですが、事業ポートフォリオに対する体制作りが十分ではない企業は少なくありません。

事業ポートフォリオマネジメントの基本的な考え方

経済産業省では事業ポートフォリオマネジメントは、企業理念や価値を基準として、ビジネスモデルを明確化したうえで事業ポートフォリオを見直す仕組みを作り上げることが重要であるとしています。

経営者は、事業ポートフォリオに関する基本方針の立案(取締役会への付議)、その執行、見直しの立案を行う等、事業ポートフォリオマネジメントの一義的な責任者として主導的な役割を果たすことが期待される。事業ポートフォリオマネジメントの基本は、①企業理念・価値基準に基づき、②ビジネスモデルを明確化し、経営戦略を策定した上で、③事業ポートフォリオを定期的に見直す仕組みを構築し、これを適切に運用することである。
引用:事業再編実務指針(経済産業省)

事業ポートフォリオマネジメントの現状

複数の事業を展開している多くの日本企業において、事業ポートフォリオの見直しがされていません。その理由として、それぞれの事業部門の権限が強いことや事業部門と本社が一元化されていないことが挙げられます。

ほかには、経営陣の役割や責任が不明確であったりCFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)の機能が不十分であったりとさまざまな要因が考えられます。

事業ポートフォリオマネジメントを成功させるポイント

事業ポートフォリオマネジメントを成功させるには次のようなポイントが挙げられます。

  1. 市場シェアの算出
  2. 事業の分類

市場シェアの算出

事業ポートフォリオマネジメントを進めるためには市場シェアを算出し、さらに成長率を把握することが重要です。市場規模に対しての売上高の割合を計算することによって市場シェアの算出が可能です。そして、競合他社の市場シェアを把握することも求められます。なかなか具体的なデータを入手するのは容易ではないのですが、東証プライムやスタンダードなどの企業であれば有価証券報告書を基にした数値の入手が可能です。この時点で、競合他社に対して自社のシェアがどれくらいかを知ることができます。

現状の市場シェアだけでなく、今後市場がどれほど成長できるかを把握することも必要です。市場成長率は、該当の年においての市場規模が去年度の市場規模と比較することで計算できます。市場規模に関してはシンクタンクや公的機関が統計データを発表していることが一般的であり、もし発表していない場合でも売上高を市場シェア率で割ることで想定する方法があります。

事業の分類

事業ポートフォリオマネジメントを進めるうえで、経営資源を投資すべき事業を把握することが重要です。そこで、次の4つの事業に分類をします。

  1. 資本収益性は低く成長が見込める新規事業
  2. 資本収益性や成長性がもっとも高い主力事業
  3. 収益や成長が見込めない事業
  4. 成熟しきった事業

事業ポートフォリオマネジメントを考えるうえで、もっとも投資すべきなのは新規事業です。新規事業に投資をすることで主力事業に成長することが見込まれます。また、収益や成長を見込めない事業から撤退したり、成熟しきった事業から得られる資金を新規事業に回したりするなど事業の分類によって戦略を立てることが重要です。

事業ポートフォリオマネジメントの注意点

事業ポートフォリオマネジメントには、次のような注意点が挙げられます。

  1. 判断基準が明確ではないケース
  2. 企業体制によっては実行しづらい

判断基準が明確ではないケース

事業の撤退や売却に関して、判断基準が明確ではないケースが多いのが現状です。基準が明確ではないと判断をするのがむずかしくなります。

企業体制によっては実行しづらい

それぞれの事業部門の権限が強かったりCFOが機能していなかったりするなど、企業体制によっては事業ポートフォリオマネジメントを進める環境にない場合があります。事業ポートフォリオマネジメントを進めるためには、企業体制を見直すことが重要です。

事業ポートフォリオマネジメントの事例

オムロン

オムロンではROIC(Return On Invested Capital、ロイック)経営を進めることで投資拡大時の判断をおこなっています。ROICとは銀行のような債権者や企業から調達した資本金に対して、どれだけ効率的に利益を上げているかを測定する財務指標のことです。オムロンはROICの導入で、ソーシャルニーズを満たす技術経営をおこなうリサイクルを設定することで企業価値を最大化することを掲げています。

事業ポートフォリオマネジメントにおいては、市場価値評価のほかに売上高成長率やROICを軸とする経済価値評価の2つが分析基準です。

参考:ROIC経営2.0(オムロン)

三菱ケミカルホールディングス

三菱ケミカルホールディングスでは、事業ポートフォリオマネジメントを進めるためのプロセスを明確にしています。事業モニタリングにおいての会議を上半期と下半期に開催しており、CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)とCSO(Chief Strategy Officer、最高戦略責任者)を配置しているのが特徴です。対象となる事業に関しては、指標を具体的に決定しています。

参考:事業再編実務指標参考資料集(経済産業省)

三井物産

三井物産では、ポートフォリオ管理委員会を経営会議の顧問機関の1つとして設置しています。ポートフォリオ戦略の策定のほか、定期的なモニタリングをおこない取締役会に
報告するプロセスです。

全社ポートフォリオ戦略の策定当社全体戦略、営業本部の個別戦略、市場動向・マクロ分析、当社の限りある経営資本を踏まえて、重点・注力分野、新規取り組み分野、見直し分野を特定します。
投融資方針の策定投融資基準、連結資本コスト制度設計など、全社ポートフォリオ管理に係る重要方針を策定します。
全社ポートフォリオの定期的モニタリング上場株式を含む全事業の保有意義の確認だけでなく、事業分野別・国別のアセットサイズが適切なレベルかどうかなど、定期的にレビューしています。
参考:事業再編実務指標参考資料集(経済産業省)

まとめ

事業ポートフォリオマネジメントとは、戦略的に事業の組み換えをおこなう経営です。複数の事業を経営している企業にとって、片方で資本効率がよくても、もう片方が悪いケースは散見されます。そこで、企業価値を高めるためには資本効率が悪い事業を売却する方法があります。

売却したあとは新しい事業を買収したり、資本効率がよい事業に力をいれたりするなどさまざまな選択肢があります。このように事業の組み換えをする経営がポートフォリオであり、複数の事業をおこなう企業によって重要な考え方です。

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