2023.10.05

モビリティカンパニーへの変革に向けた組織開発を共創――トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社

1937年創業。愛知県豊田市に本社を置く、日本最大手の自動車メーカー。世界最大の自動車メーカーのひとつで、インターブランド社の発表した「Best Global Brands 2022」レポートでのグローバル・ブランドランキングTOP100で6位となった。同社のESG戦略は国内外でも高く評価されている。
話を伺った方

先進技術開発カンパニー 先進プロジェクト推進部 主査 鈴木正敏様(画像左より3番目)
先進技術開発カンパニー 先進プロジェクト推進部 グループ長 大多和明様(画像左より2番目)
先進技術開発カンパニー 先進プロジェクト推進部 統括グループ長 水野達司様(画像右より3番目)

EXECUTIVE SUMMARY

1.先進プロジェクト推進部は先進技術開発カンパニーのプロジェクト領域に属し、2019年に創設された新しい組織で、先進技術や新価値の創出が主な活動内容となっている。従来と異なるミッションを担い、上司からのフィードバックは実施するものの、メンバーにとって納得感が得られ難い状況であった

2.リブ・コンサルティングが人事支援プロジェクトに参加。評価・フィードバックスキルといった方法論だけではなく、先進プロジェクト推進部がどの様な組織なのかを明確化。求める人材像やキャリア計画を考えられる土台の構築に向けた取り組みを行った。

組織変革に伴う人材の多様化。組織の変化とともに上司部下の関係性を見つめ直す。

―リブ 皆様が所属している、先進技術開発カンパニー・先進プロジェクト推進部について教えていただけますか。

ー鈴木 先進プロジェクト推進部は2019年1月に立ち上げられました。名称の通り先進的なプロジェクトの立ち上げ・推進が主なミッションです。

活動内容は大きく二つに分けられます。ひとつは、東京2020オリンピック・パラリンピックで活躍したAutono-MaaS専用EV 「e-Palette(eパレット)」のように、モビリティ開発やサービスの領域で新たな価値を創出すること。もうひとつは、社会課題を解決するためのソリューションをゼロから考え、お客様に提供することです。

ー大多和 この部署の前身は自動車の技術開発が中心でした。現在はその役割が拡張され、技術開発もするし新規事業開発にも取り組むなど、さまざまな活動が混在しています。

―リブ これからの事業の種を作り、さらに収益化にも携わるような部署なのですね。今回、私達は先進プロジェクト推進部の人事支援プロジェクトに参加させていただきました。本プロジェクトを進めるにあたり、貴社にはどのような課題があったのでしょうか。

ー鈴木 弊社では半期に一度、メンバーや職場の状態を把握するために「職場づくりアンケート」を行っています。私たちの部署は、「成長感」「やり甲斐」といった項目が非常に高いという結果でした。一方、「成果に対して公正に評価されていると感じる」という項目は、右肩下がりになっていました

ー大多和 前身の部署は、「数年先を見据えて自動車の技術開発をする」のが主な役割でした。そこに新規事業開発という、まったく新しいミッションが追加されたことで、人材多様性も増してきました。

ー鈴木 新規事業開発というのは、メンバーのほぼ100%がエンジニアという弊部にとって、経験のない分野でもありました。自動車の開発に携わる業務が主体だったところから、新たな事業を起こし収益を出すことまで目指さなくてはいけなくなり、自身の評価が部内外でどの様な位置づけなのか分からない。そうした現実が、アンケート結果の原因のひとつだと考えています。

―リブ 事業変革と組織の在り方が問われる非常に難しい状況にあったのですね。

ー鈴木 この問題を解決する上で、ふたつ課題がありました。ひとつは、上司の説明内容や姿勢についてメンバーの納得感を高めるということです。当時は職場内で、「上がそう決めたから…」等という上司の言葉が見られました。自分の言葉に責任を持った上で、部下にフィードバックさせる習慣を身に着けてもらう必要がありました。

もうひとつは、自分の将来が見えないという不安を解消することでした。従来の開発部署のエンジニアのキャリア形成は、例えば3年後、5年後に任されている仕事が、ある程度予想できます。現状の先進プロジェクト推進部にはモデルとなる今後のキャリアイメージが確立されていないため、自身はどの様に成長すれば良いのか、また現在の自身の立ち位置はどこなのかを明確にすることが出来ずにいたのです。

これらの課題を解決するために、第三者の視点から見直していくため組織づくりに長けたコンサルティングファームの活用を決断しました。

様々な組織コンサル系の企業を模索しましたが、リブ・コンサルティングさんに依頼する決め手となったのは3つあります。一つは、大手企業のコンサルティング実績があり組織以外、特に新規事業企画も含め様々な領域をカバーしている安心感。二つ目は、大企業だけでなくベンチャー・スタートアップ企業のプロジェクト実績が多く、組織が大きく変革する企業へのコンサルティング経験が豊富ということ。三つ目は一番のポイントでもありますが目の前の課題だけでなく、議論を通じて本質的な課題気づかせてくれるコンサルティングスキルでした。打ち合わせでのやり取りから、我々の課題を、組織として一緒に解決していこうという強い意思も感じられました。

今回の依頼は、「メンバーが公正に評価されていると感じられる仕組みを構築する」という、目の前の課題からスタートしています。問題を解決する方法論を提示するだけでなく、より視野を広げて「こういう見方がある」と示していただけたらと考えました。

本質的な課題は数字に表れていない。ヒントは現場にある。

―リブ 本プロジェクトにおいて、貴社はまずどんなゴールを設定していたのか、改めてお聞かせください。

ー鈴木 評価・フィードバックに対する納得感を上げることが、一次的な目標でした。リブ・コンサルティングとの組織評価ワークショップの後、年末賞与のタイミングでメンバーにアンケートを取りました。

アンケートでは、約8割から「(会社・上司からの評価は)納得感があった」という回答が得られたのです。この点を踏まえると、当初掲げていた定性的な目標は達成できたと考えています。

―リブ 私たちも、プロジェクト初期は皆さんの課題とどう向き合うか、社内で何度も検討を重ねました。そもそも、トヨタという大手企業に集まった優秀な方々が、なぜ上手にフィードバックすることが難しいのか。マネージャー間で話し合い、単にフィードバックスキルを身につけさせるのではなく、ひとりひとりに寄り添うアプローチを選択したのです。

ー鈴木 貴社との打ち合わせ時、「なぜマネージャーの方々は、フィードバックが難しいのか」と質問されました。この問いかけが、私にとって大きな転機だったと思っています。それまではメンバーの目線のみで課題を捉えていたのですが、ここではじめて、「マネージャーにも、フィードバックできない理由があるのかもしれない」と気づくことができました。つまり、上司部下の関係性に視野が広がったのです。

その後、マネージャーと面談して「先進プロジェクト推進部はキャリアの未来図が不透明で、部下にどう声をかければいいか分からない」という声を多く聞きました。私たちの課題はHowtoを学ぶことではなく、組織としてのスタンスや考え方を定めることだったのです。

ここに取り組んだ結果、マネージャーに「我々はこういう組織だ」という認知が浸透し、そこからどう行動すべきかを考え始めた気がします。

フィードバックのあり方を起点に、組織開発の全体像の在り方へ。

―リブ アンケート結果以外では、チームにどんな変化が見られましたか。

ー鈴木 2023年2月にマネージャー陣を集めて、リブ・コンサルティングから教えていただいたエッセンスやツールを生かしてキャリア計画について話し合いました。ワークショップ以前は、「部下をどう評価すべきか」に留まっていた視野が、キャリア計画について議論できるまでに広がったわけです

このキャリア計画を元に、個々のメンバーと「自分はどんな人生を送りたいか。それにはどんな能力が必要か」と、キャリア形成を一緒に考えたいと考えています。

ー大多和 言語化は難しいのですが、人材育成に関するチーム内での議論レベルは、一段階高まった気がします。この組織が成果を出すためにはどんな人が必要で、どう育てていくのか?という、王道の議論について、共通理解を持てるようになったという感じでしょうか。

ー水野 今はまだ道半ばですが、それでもマネージャーの意識は変化したと思います。組織としてのスタート地点に、ようやく立てたという思いです。

―リブ 貴社の既存の組織は、あるべき姿が定まっている状態で議論がスタートしていたのだと思います。先進プロジェクト推進部は、自分たちであるべき姿を作らなければいけませんでした。私たちも、その点を意識してワークショップを企画させていただきました。

ー鈴木 ワークショップ内にあった「既存組織と我々の組織の違い」というテーマは、非常に納得感がありました。ここでようやく、私もマネージャーも自分たちの組織の特殊性や、求められる人材像、考え方、仕事の仕方が今までと全く違うことを言語化することにより理解できた気がします。

実際、今回のプロジェクトでもっとも変化したのは我々、組織を作っていく側の意識だと思います。組織の特徴、求められる人材像、能力要件、そして評価といった、人材マネジメントの全体像を理解できました

ー大多和 ワークショップをはじめとした本プロジェクトを通じて、組織としての人事マネジメントの目線が少し揃ってきた気がしています。今後は個々の課題に対して、健全な議論を交わしていけるのではないかと考えています。

時代にマッチした人材育成をさらに発展させていきたい。

―リブ 先進技術開発カンパニーの今後の展望について、どんなことに重点的に取り組んでいきたいですか。

ー鈴木 2023年1月に先進技術開発カンパニーのプロジェクト領域は組織再編され、組織もやるべきことも大きく拡大しました。本プロジェクトで示していただいた人材マネジメントの全体像を、形を変えつつ他のマネージャーにも展開して、横断的な人材育成やメンバーの成長につなげていきたいです

ー大多和 求める人材像を定義することで、ある程度“レベル感”を把握しやすくなるので、「自分は今このレベルにいる」というのが見えやすくなります。その結果、今以上に納得感の高い評価やフィードバック体制を作ることができると思います。

―リブ 社内でそうした動きが生まれていることが素晴らしいですね。

ー水野 プロジェクトで学んだ考え方を引き継ぎ、進化し続けていくという世界を目指していきたいですね。

ー鈴木 「私たちの部署ではこんな能力を新たに身につけられて、将来的にこんな成長ができますよ」と、具体的に示せるようになっていきたいなと。そうすれば、今後さらに多様化が求められる人材が我々の組織に参加し活躍し易い環境になるだけでなく、自身のキャリア計画を描きやすくなり、既存のメンバーにもメリットは多い気がします。

今回のプロジェクトが起点となり組織の在り方を考え、描いた人材マネジメントの全体像を組織全体に伝達し、浸透させていく必要があります。私たちがどんな活動をしてきて、部署がどんなことを目指しているのか伝えて、働きがいを高めていければと思います。

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