COLUMN
EV時代を勝ち抜く
次世代カーディーラーの打ち手
2022年3月、リブ•コンサルティングは「EV時代のディーラーにおける『電力・エネルギー商材ビジネスの事業化』セミナー」を開催しました。EV化はカーディーラーの売上低下要因となり得ます。この変化を乗り越えるには、車に関する提案にとどまらず、エネルギー関連の具体的な提案もできるコンシェルジュの機能を発揮し、地域に根ざすカーディーラーへと業態変革していくことが重要です。この記事では、EV時代で求められるカーディーラーの機能と、その機能を活かす新たな事業化の取り組み方について紹介します。
<<解説>>
株式会社リブ・コンサルティング
モビリティーインダストリーグループ
マネージャー 横山 賢治
前職の大手電機メーカーにて太陽光発電システム、蓄電池、VPP(バーチャルパワープラント)などエネルギー領域の新規事業を担当。その知見を活かし、リブ・コンサルティングにジョイン後、主にカーディーラーやモビリティ業界企業の事業開発や新規事業サポートを行う。
EV化を機会と捉える「攻め」のカーボンニュートラル
まずはEV化に向けた市場動向を押さえておきます。
自動車およびカーディーラーの市場がEVに向けて大きく動いたきっかけは、2020年10月、菅首相(当時)が2050年までにカーボンニュートラル(以下CN)を実現すると宣言したことでした。以来、自動車の電力源を再生可能エネルギーにしていくことがCNのポイントとなり、モビリティとエネルギー供給の両面をしっかり押さえていくことによってCNを実現する大きなロードマップが意識されるようになりました。
カーディーラーにとってのCNは2つの捉え方ができます。
1つは、守りのCN。企業の社会的責任を果たすことや、今後作られると予想されるカーボン税などの税対策としてCNに取り組むアプローチです。
もう1つは、攻めのCN。EVやEVに付随するエネルギー商品によってCN潮流の中での競争優位性を高め、新たに事業ドメインを広げていくアプローチです。欧州ではこの捉え方が多く、CN市場に機会を見出そうと取り組む流れがあります。市場への投資予測を見ても、2050年までのCN関連投資予測は1.36京円。日本でもCN市場は拡大していくため、その中でEVと関連した領域で新たな収益機会を創出することが重要といえます。
国内での具体的な動きとして、例えば、トヨタ自動車の豊田章男社長は、2030年までにバッテリーEVを350万台製造すると発表しています。日産自動車と三菱自動車も続々とEV車を発表し、カーディーラーは、この大きな流れによって起きる市場の変化に備えていくことが求められます。販売台数の変化としては、世界で売られる新車の約4分の1が2025年を目安にEVになり、30年までに約半分の新車がEVになると予測されています。
販売台数とメンテナンス収益が低下
EV普及の流れの中で、カーディーラー経営への大きな影響は2つ考えられます。
1つは、カーディーラーを通じた自動車販売台数の減少。もう1つは、アフターサービス関連の収益低下です。
1つ目の自動車販売台数の減少は、カーディーラーの売上で新車販売がもっとも大きなウェイトを占める一方で、自動車メーカーによるサブスクリプションモデルの浸透とEC化が進むということです。
例えば、2022年年央の発売が発表されているbZ4Xは、国内ではサブスク型のKINTOで提供されます。EC化は、本田技研工業が自社オンラインストアのHonda ONを通じて、ユーザーと直接つながりを持って販売をしています。このような変化により、カーディーラーの自動車販売台数は急にとは言わないまでも、じわじわと減少していく可能性が高いといえます。
2つ目のアフターサービス関連の収益低下は、EV化に伴う車の部品点数の減少や、自動運転技術の向上や安全装備の拡充によって整備需要が減少し、収益低下をもたらすということです。今後の見通しとして、1台あたりの整備費は現行の50%に減少するという予測もあります。
このような影響を抑えるために、カーディーラーは中長期的な収益を見据えて、バリューチェーンを強化していく必要があります。
すでに輸入車業界では、ボルボ・カー・・ジャパンがオンラインでのEV販売収益を手数料としてカーディーラーに割り当てる仕組みに移行すると発表しています。この手数料を得るためには、アフターサービスや中古車販売などによってバリューチェーンを強化することが求められ、そのような変化を見据えた上で、本業に近いところからビジネスを作り、広げていくことが重要です。
次世代のカーディーラーとなるための5つの機能
次に、カーディーラーの業態変革について確認していきます。
カーディーラーは、自動車販売台数が右肩上がりで、保有台数も伸びている市場では、自動車販売業として成立しました。しかし、CN、MaaS、CASEが進んでいく中では新たな業態へのシフトが求められます。
業態変革の大きな方向性としては、移動と暮らしの「負の解消」と、モビリティ自体の「楽しさの発見」を2つのアプローチとして、カーディーラーが地域社会にとって無くてはならない存在になることが重要です。地域社会にどういった価値を提供していくのが良いかを考えながら、例えば、ユーザビリティや暮らしのアップデートによって、あるいは車を運転する楽しさやドライブのワクワク感を提供することによって、地域社会と共生し、地域の中での存在感を高めながら、よりよい移動体験と生活を提供していくということです。
そのために重要なカーディーラーの機能は5つです。
1つは、モビリティ体験Baseとしての機能。カーディーラーは、現状は車を中心とした事業を展開していますが、小型モビリティや車椅子なども含め、新しさと発見がある非日常なモビリティを体験できるBaseとしての機能を発揮できます。
2つ目は、モビリティとエネルギーのハブ機能です。カーディーラーの強みである店舗を活用し、移動の円卓紙を提供する、イベントなどを通じて街を活性化する、防災拠点として地域の安全を守るといった機能を発揮し、地域での認知と店舗の価値を高めていくことができます。
3つ目は、地域の移動と生活に係るコンシェルジュサービスの機能です。カーディーラーは、車の販売やメンテナンスを通じてお客さまのデータを集めることが可能です。つまり、行動履歴、生活パターンなどのデータがわかる密接な関係性を踏まえ、顧客関係性資産を使いながら、多様な相談に乗り、最適な提案を行っていくことができます。とくにEV関連では、自宅でEVを充電する人が増えていくと予想されるため、電力プランの見直しや提案といったエネルギー分野での相談窓口となれるかどうかが大きなポイントになると思われます。
4つ目は、地域コミュニティの活性化機能です。例えば、店舗でイベントを開いたり、イベント用に店舗を提供したりすることによってカーディーラーは地域の賑わいの中心となりますし、モビリティ関連のコンテンツを地域向けに発信することも、よりよい移動体験と生活の提供に結びつきます。
5つ目は、データを活用して域内経済を活性化するサービスの機能です。ここまでに挙げた4つの機能を果たし、その結果として地域のお客さま、住民、商店、企業のデータを増やすことにより、リアルとデジタルの両方で、パーソナライズされたソリューションを提案することが可能。店舗活用でリアルのつながりを生み出すだけでなく、デジタルの分野でも、地域の情報を収集、分析するプラットフォームとして域内経済の活性化に貢献できるということです。
異業種が入り混じってシェア獲得を狙う
EV化をエネルギーの観点から見ると、最も大きな変化はガソリンが電気になることといえるでしょう。この変化により、車の動力源の確保はガソリンスタンドから自宅での充電に変わっていきます。これはカーディーラーを含むモビリティ産業にとって大きな変化で、カーディーラーは、5つの機能の1つに挙げたコンシェルジュ機能を発揮し、EV乗り換えに伴う電力プランの最適化などの提案を通じて業態変革を実現できます。
これは、事業領域のスコープという点では、モビリティ産業がエネルギー産業の領域を視野に入れた業態変革を行っているということです。同様に、エネルギー供給側であるエネルギー産業も、これまでモビリティ側の領域だったモビリティサービスの領域まで視野に入れた参入に取り掛かっています。
わかりやすくいえば、従来のようなモビリティ領域とエネルギー領域といった壁が低くなり、競争が激化しているということです。競争が激化し、各領域で異業種から新たなプレーヤーが参入することにより、市場シェアが変わりますし、ウォレットシェア、つまり有限であるお客さまの財布の中身を、誰が、どれくらい取るかといった配分も変わります。
EV化は、モビリティ産業から見れば、車をきっかけとして、電力、ガス、太陽光、蓄電池といったエネルギー商材を手がける機会になります。例えば、トヨタ自動車は2020年6月の定款変更で、事業目的に「発電ならびに電力供給および販売」を追加しました。車とセットで電力を販売していくことを見据えて業態変革を始めているということです。米国では、すでにテスラモーターが自社で太陽光パネルや蓄電池を作っていますし、そのような状況を踏まえると、各社が自社のお客様との関係性資産を武器にして、新たな領域に参入していく状況はさらに激化すると考えられます。
また、電力会社、ガス会社、太陽光など再生エネルギー発電を手掛ける業者などにとっても、それぞれが持つエネルギー商材をきっかけとして、クルマという商材を手がける機会になります。例えば、出光興産はタジマモーターコーポレーションと超小型EVの開発に乗り出しています。太陽光発電パネルの販売や設置を行う新日本住設も、EV Garage SRという販売店を作り、EVの販売を始めています。
EVそのものは、カーディーラーが扱う商材というイメージが強く、車の販売やメンテナンス事業も参入障壁が高いといえますが、異業種の会社によるこの領域への参入はすでに始まっているのです。
エネルギー関連のサービス提供が差別化要因になる
次に、EV化を見据えた新たなビジネスモデルの構築について考えてみます。
EV化が進み、車の動力確保がガソリンスタンドから自宅に変わっていく状況では、その変化に合わせて、お客さまに提案する商材も増やしていく必要があります。従来のように車両保険やアクセサリーなどにとどまらず、電力、太陽光、EV充電器といった商材も提案領域に含まれるでしょうし、そのような提案ができるかどうかがお客さまとの関係性構築にも影響します。つまり、EVの販売だけでなく、購入後の電力などのサポートが提案できるようになると、カーディーラーがEVに関する相談をワンストップで引き受けることができ、それが新たな収益源になるということです。中長期的に見れば、電力の小売りや太陽光、蓄電池などの販売が独立した事業として成り立つ可能性も十分にあります。
また、エネルギーや充電設備を提案できるカーディーラーとして認知されることは、EV購入を検討しているお客さまに対しては他のカーディーラーとの差別化になります。
例えば、EV購入の商談で充電設備について質問したときに、「うちでは扱っていません」「お客さまご自身で準備してください」と答えるカーディーラーと、「当社で扱っています」「設備選びのポイントを教えます」と対応してくれるカーディーラーがあれば、価格などの要素はあったとしても、ほとんどの人は後者で買いたいと思います。お客さまとリアルの接点が持てる店舗がカーディーラーの強みであるとすれば、車に関してだけではなく、エネルギーや電気などに関する相談にきちんと対応でき、説明できるようにすることが、営業品質を高めることにつながり、選ばれる店舗になる要因になるということです。
参考までに、EVを自宅で充電するとなった時の電力使用量を見てみると、年間で1,500から1,700kwhの増量となり、平均的な4人家族の場合で、電気料金が30%から40%ほど上がります。ただ、夜間に充電するなどして夜間料金が安いプランに変えれば、電力料金の負担を抑えることができますし、従来よりも下げることもできるかもしれません。お客さまはそのような情報を知りたいと思います。だとすれば、情報提供や電力プランの提案をしないことがお客さまにとって不利益になりますし、不利益を解消できることが、選ばれる理由になるということなのです。
エネルギー商材を扱う新たなビジネスモデルとしては、カーディーラーがコンシェルジュとなってエネルギーとモビリティの両面で相談を受ける立ち位置となり、電力会社やエネルギー商材の販売会社と代理店契約を結ぶなどして、EV購入のお客さまや、地域の人たちに向けて電力や設備などを販売していく形が作れます。前述した5つの機能を踏まえながら、地域に向けてどんなサービスを提供していくか考えていくことで、まずは業態変革に向けたビジネスモデルを作っていくことが重要です。
事業化までのスピード感が重要
EV化とエネルギービジネスへの参入はカーディーラーにとって競争優位性がある組み合わせです。まず使用中の電気の料金プランや、エネルギー商材の導入や買い替えなどは、手続きの負担が大きく、引っ越しなどの機会がない限りなかなか着手しない部分です。しかし、引っ越しと同じくらい大きなきっかけとなるのがEVの購入です。車をEVに買い替える時こそ光熱費を見直すタイミングであるとお客さまにきちんと伝えることができれば、相談のニーズを引き受けることができ、サービス提供に至る可能性も十分に期待できます。そこに業態変革の成功要因があるといっても良いでしょう。
ただし、多くのカーディーラーにとってエネルギー商材は初めて扱うものですし、電気や光熱費削減などは目に見えないため、ノウハウの蓄積に時間がかかります。ビジネスモデルを固め、現場で使える営業ノウハウをしっかり蓄積していく必要性を考えると、事業としてスタートさせるまでに2年ほどかかるのが一般的です。
そのため、取り組みは早く始めるのが良いといえますし、遅くなればなるほど、他のカーディーラーのみならず、異業種の競合も増えていきます。
何から手をつければ良いかわからない場合や、スピード感を持って事業化を進めたい場合などは、例えば、ノウハウやナレッジの提供、現場を巻き込んだ営業体制の構築、電力会社などとのアライアンスサポートなどにおいて、リブ・コンサルティングがサポートすることができます。
EV化は、短期的にも中長期的のもカーディーラにとって重要な経営アジェンダで、エネルギー関連のサービスを通じてお客さまへの提供価値を高めていくことが求められています。地域にとって「なくてはならない存在」となり、業界と地域を盛り上げていくために、既存のカーディーラービジネスの変革が求められています。
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- UPDATE
- 2022.04.06
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