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見えてきた次代 ~カーディーラー経営におけるMaaSの捉え方と事業機会~

EXECUTIVE SUMMARY

弊社は、良い経営とは、「環境、戦略、組織(人財)の一貫性が取れていること」と定義している。環境の変化を機会と捉え、適応することが、経営の基本である。2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」は、「『Society5.0』『データ駆動型社会』への変革」と称し、デジタル技術を意識した次代への変革の方針を明確にした。その重点分野の一つに「次世代モビリティ・システムの構築」がある。自動車産業に関して、長期的視点からの大きな変化として、CASEMaaSがある。現在、鉄道系の企業が中心となり、MaaSに関連する実証実験が各地で進んでいる。
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、MaaS市場を米国、欧州、中国の3地域で2017年から年平均成長率(CAGR25%で拡大、2030年までに約1527,000億円に達すると予想している。世界各地の都市部において、MaaSが急速に普及すると予想する。この環境の変化が与えるカーディーラーにおける事業機会を整理したい。

■MaaS

欧州のMaaS Allianceは、「さまざまな種類の輸送サービスが需要に応じて利用できる単一のサービスに統合されたもの」を「MaaS」と定義した。

従来、鉄道、バス、タクシーなどの移動サービスは、提供事業者が個々にサービスを提供してきた。利用者は、提供事業者などのサイトにアクセスし、情報を取得したり、実際に利用に際し料金を支払ってきた。

MaaSは、それらの移動サービスを連携、スマートフォンなどからの検索、予約、決済など統合する。統合によるメリットは、利用者視点からはカスタマイズされた移動手段が容易に選択できること、サービス提供者視点からは集約されたデータを利活用し、より精度の高い提案できること、などがある。

MaaSは、複数の移動サービスの統合による利便性向上を目的とする。鉄道やバスなど多様な種類の移動サービスが存在する都市部との親和性は高い。一方、人口密度が低く、公共交通機関などの移動サービスよりも個人が自動車を保有し、移動する都市部以外の地域は、普及が限定的または遅いと考える。

●MaaSの五つのレベル

MaaSは、その統合の程度に応じてレベル0~4の5段階で分類される。

レベル0は、「統合なし」の状態である。移動サービス提供主体が独立したまま、サービスを提供する。従来からの構造である。

レベル1は、「情報の統合」である。利用者は、料金や時間、距離など各移動サービスに関する情報を取得できる。それぞれの移動サービスの利用料金や経路などの情報が一元化される。日本の現時点の中心的なレベルであり、NAVITIMEなどがある。

レベル2は、「予約、決済の統合」である。利用者は、スマートフォンなどのアプリで目的地までの移動サービスを比較し、複数の移動サービスを組み合わせた予約や決済などが一括で実施できる。西日本鉄道、トヨタ自動車ほかのmy routeなどがある。Suicaなどの交通系ICカードは、普及率も高く、決済プラットフォームの整備も進み、事業者間連携も拡大しており、レベル2に近い。

レベル3は、「サービス提供の統合」である(図2)。公共交通やレンタカーなども含めたサービスや料金体系の統合である。新たなサービス提供者であるMaaSオペレータが、利用者に対し、移動サービスをパッケージ化し、提供する。目的地に向かう場合、手段に依存しない一律料金や月額定額料金(サブスクリプションモデル)など、事業者間提携でサービスが高度化する。Whim(フィンランドのMaaS Global社)などがある。

レベル4は、「政策の統合」である。都市計画やインフラ整備など施策と交通政策の統合である。

 

■フィンランド視察

私たちは今回、MaaSレベル3のWhimが普及しているフィンランドを視察した。Whimは、MaaS Global社が201711月にフィンランドの首都ヘルシンキでサービスを開始し、現在では、バーミンガム(英国)やアントワープ(ベルギー)で展開しているサービスである。201911月、英石油大手BP傘下のBP Venturesや三井不動産などから、約354,700万円を調達した。2020年、シンガポール、北米に進出する予定である。

日本では、201912月、三井不動産と提携し、千葉県柏市の「MaaSシティ」に関係するプロジェクトにおいて事業展開予定である。

Whimは、公共交通を軸に複数事業者の移動にかかるサービスを統合し、経路検索から決済までを提供するアプリケーションである。シームレスな環境により、利用が活発になった事例である。

決済は、都度決済やサブスクリプションモデル(月額定額プラン)など現在では四つのパターンがある(図3)。月額定額プランでは、エリア内のタクシーや公共交通機関だけでなく、レンタカーやシェアサイクルまで利用可能で、乗り放題のプランもある。

サービス開始から約1年で1.3万人のMAUMonthly Active User:月間に1回でも利用したことがあるユーザー数)、累計で400万回弱の移動サービスが利用された。「WHIMPACT」(Ramboll社)は、Whimの利用者と非利用者を比較した。比較結果を紹介する。

  • 移動平均回数 : 1日当たり4回(非Whimユーザーは3.3回)
  • 公共交通の利用回数 : 15回増加(同1.6回)
  • タクシーの利用回数 : 07回(同0.03回)
  • 他の交通機関と組み合わせてタクシーを使うケース : 非Whimユーザー比で3
  • 自転車の移動距離 : 9キロ(同2.1キロ)と短い

移動距離に関しては、Whimが、他の交通手段と組み合わせた残りのラストワンマイルに使われている結果、非Whimユーザーと比較して短くなっていると解釈できるのではないだろうか。

これらの結果から、高齢化が進む住民の外出機会が増加する間接的効果もあるのはないかと仮説を持ち、フィンランドを視察した。

街並みや交通機関の見た目は、典型的なヨーロッパの街並みであり、新しい交通機関が登場したわけでもなく、日本とさほど変わらない。街で見かける人の数も、サービス開始前がどのくらいだったか比較対象がなかったが、人数もシニア比率も想像していたほど多くない。想像していたほど大きな変化があった印象ではなかった。

視察を通じて、MaaSレベル3は、ハード面ではなく、ソフト面、特に情報流、金流および商流の統合による利便性の向上であることを再確認することができた。

MaaSのレベルは、社会や事業の進化のステージであり、最終的にはMasSレベル4が次代の社会や事業のプラットフォームになるのではないだろうか。そこに向けて徐々に環境は整いつつある状況であることも、今回の視察において確認することができた。

今回の視察したフィンランドでは、Whimだけでなく、KYYTI社が注目されている。KYYTI社は、地方における移動弱者向けの交通サービス利用向上と財政負担抑制の課題解決に向けたスタートアップ企業であり、地方版ライドシェアサービスを提供している。

KYYTI社が提供する配車サービスは、乗客がスマートフォンや電話を通じて、乗車の予約が可能である。病院、学校、介護施設などの送迎客は、移動費の大半が税金で賄われており、4~5ユーロ(500600円)でタクシーが乗車可能だ。一般客は、このサービスにより、送迎客とのライドシェアにより、安価でのタクシー利用が可能になった。

交通手段が限定的な地方において、異なる目的の利用客を統合することで効率的な交通システムを実現した画期的なサービスである。タクシーの一人乗車が減少し、国や地方政府の財政負担を抑制している効果が出ている。赤字バス路線や経営の苦しいローカル鉄道を抱えている日本の地方部においても参考にすべき交通サービスではないだろうか。

KYYTI社のようなビジネスが事業化してきた背景には、フィンランド政府がMaaS推進の規制改革を進めたことで事業化に適した環境がある。

わが国の公共交通機関網は、世界ナンバーワンといわれている。Whimのような「ラストワンマイル」に関係する次代のサービスが普及しやすい環境がそろっている。現在、既存のサービスの統合や技術視点からの実証実験が実施されている。早期に次代の社会、事業を見据えた取り組みが重要と感じた。

■次代の事業

弊社では、次代の事業を「動的視点からの再構築された事業」と捉えている。

既存の多くの事業は、主に自動車などの「商品」を販売し、その対価を受け取る事業モデルである。売上に関係する代表的なKPIは、販売価格や販売台数などである。これは、商品(ハード)をベースにした「静的視点からの事業」と表現することができる。

MaaSレベル4では、新たな価値として「動的視点からの事業」を加味した新たな事業が付加されるのではないだろうか。「動的視点での事業」にかかる対価モデルとして「サブスクリプションモデル」があり、さまざまな分野で普及が進んでいる。

新たな事業として、例えば、住宅販売事業がある。住宅は、駅からの徒歩の時間により価格が変わる。これに対し、住宅の販売に加え、定額制の移動サービスを加味することで新たな価値を付加した事業や価格体系が創出される(図4)。

 

MaaSレベル4における次代の事業は、住宅、移動など個別の事業ではなく、利用者や地域視点から「活動(こと)」を含めた事業に進化するのではないか。

■カーディーラーにおける事業機会

MasSレベル4において「動的視点による事業」が付加する事業が創出される場合、カーディーラーにおいてどのような事業機会があるだろうか。ここでは、予想する二つの変化を紹介する(図5)。

 

一つ目は、ターゲット顧客の変化である。MasSレベル4を活用した社会では、個人の自動車の「利用」がより普及する。新たな「移動サービス」を事業とする企業が増加する。(KYYTI社の事例)移動サービスを提供する企業が、自動車を保有する。従来の個人顧客を中心にしたBtoC事業に対し、今後は企業に対するBtoB事業の比率が高まると予想する。主な収益源は、企業に対する自動車の供給、メンテナンスなどである。企業を顧客とした事業の最適化が重要になる。

二つ目は、事業領域の変化である。既存の「静的視点による事業」に移動サービスを付加する企業が誕生する。その企業の選択肢は、①自社で移動サービス事業を持つ、②他社が提供する移動サービスを利用し、移動サービスを付加する、の二つである。多くの企業は、「②移動サービスを提供する企業のサービス利用」を選択すると予想する。カーディーラー自体が、「移動サービスを提供する企業」となることである。一種のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の提供である。BPOは、サービスの提供における改善により、利益率を上げる事業モデルである。自社内での、サービスに関係する「改善」のノウハウが重要になる。

MaaSレベル4において、どの領域を成長領域と設定するかは自社の戦略である。戦略の強化も重要となる。

■終わりに

MaaSは、実証実験など、技術面の検討に対し、事業面での検討が遅れている。実証実験も公共交通手段を含めた統合というテーマから、鉄道系の企業が主導しているケースが多い。次代の社会における自動車、特にカーディーラー経営の視点での新たな貢献領域の検討が遅れ気味である。

2019年のモーターショーのプレスカンファレンスでトヨタ自動車の豊田章男社長は、「未来のモビリティ社会は愛馬と馬車が共存する社会になる」と発言し、トヨタブースも「人を中心とした未来のくらし」をテーマにした。愛馬が「所有」を、馬車が「利用」を示したと考える。

弊社の支援においても、従来の既存事業における戦略、現場支援に加え、次代の事業を見据えた提言やそのトライアルの支援が増えてきている。「見えてきた次代」を導くビジネスパートナーとなるべく、引き続き関わっていきたい。

 

モビリティ事業部 事業部長 KENSUKE.S

モビリティラボ ビジネスプロデューサー MASATAKA.S

 

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UPDATE
2019.12.25
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