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中国ECの自動車販売から何を学ぶか?

EXECUTIVE SUMMARY

ECにおける高額商品と聞いて、どのような商品を想像されるでしょうか。
住宅不動産、保険などを想像される方が多いとは思いますが、中国ではインターネット上で決済まで含めた自動車販売が始まっています。デジタル化に伴い、EC事業への取り組みは、経営者として重要な意思決定項目の一つです。中国ECにおける自動車販売のケースから日本企業がEC事業において目指すべき方向性を模索していきます。

中国EC市場の実態

現在、中国のECの売上は世界の47%を占め、2020年までに1.7兆ドルに達すると予測されています。世界人口73億人のうち中国の人口が14億人と、約20%であることを考慮しても、この数字は注目に値します。

インターネットトレンド2017の報告によると、日本のEC化率は5%、米国のEC化率は10%であるのに対し、中国ではすでに15%に迫る勢いです。中国のEC市場の商品種別は、アパレル35.0%、家電26.6%、個人用品(化粧品など)4.8%、食品5.1%となっています。

日本と同様、アパレル、家電などが中心ですが、現在中国では高額商品のEC化が進んでいます。家具や家電など、通常は店舗売り、量販店販売などが主流である商品種別においても多くの取引がされており、特に近年ではオートバイのネット販売などが話題になりました。

自動車も例外ではなく、2015年10月、アリババはEC上で自動車販売を開始しました。アリババ傘下のタオバオやTモールでは、2016年11月11日(独身の日)における自動車の取引総額が2兆円を超え、約十万台が販売されたという報告がされています。これは、ディーラー1,000店舗の1カ月の販売台数に匹敵します。

中国汽車工業協会の報告によれば、中国の自動車販売台数はすでに2,800万台を超えており、ECが約100万台と、全体の3.6%を占めています。日本の新車販売台数は500万台強(2017年)、EC化はほぼ進んでいない状況を踏まえると、中国の自動車販売のEC化率が極めて高いことがわかります。

中国ではどのようにして自動車販売のEC化が加速し始めたのでしょうか。

中国EC化推進の要因

中国における自動車販売のEC化の要因には、地政学的要因、国家的要因、企業的要因の3つが挙げられます。

(1)地政学的要因

一つ目の地政学的要因について、中国では国土がそもそも広いため、インフラが整備される前にeコマース市場が出現しました。特に沿岸部にEC利用者が集中し、内陸部を牽引する形を取ってきました。下の表は調査会社が発表したEC利用者の分布図です。沿岸部の広東省が全利用者の10.5%を占めていることがわかります。内陸部の河北省では5.3%にとどまっています。

都市単位では、1級都市といわれる上海(2.5%)や北京(3.0%)などの全EC利用者に占める割合がやや高いものの、内陸部の重慶(1.9%)と大差なく、中堅都心部でのEC化が進んでいることがわかります。また中国には、内陸部などに住む農村住民が約6億人おり、その潜在的な消費力にも中国政府は期待をしています。

※1級都市9.5%、新1級都市は18.1%、2級都市は18.2%、いずれも全国平均より高い。3級都市は20.3%、4級都市は19.8%、5級都市は14.1%。

(2)国家的要因

国家的要因としては、政策面における二つの変化がEC化を推進する結果となりました。
一つが、店舗販売を行う自動車ディーラーの減少要因ともなった政策変更です。中国ではこれまで「4S店」と呼ばれる店舗形態による自動車販売が主流でした。しかしながら、上海、広州、北京など沿岸部の大都市では、環境悪化の問題や渋滞を緩和するために、乗用車ナンバープレートの発行が制限されました。その影響から販売量も制限され、4S 店は内陸部の都市に進出を余儀なくされました。内陸部の4S店舗数は多少増えましたが、事業としての魅力度は高いものではありません。調査によると、2014年、店舗型自動車ディーラーの67%は赤字でした。(出典:中国産業情報網<2016年中国汽車4S店規模分析>)

政策面のもう一つの変化は、中国政府がEC化への流れを後押ししていることです。中国商務省は、2017年7月、自動車販売に関する規制を刷新し、既存のEコマース業者が簡潔に自動車販売に参入できる法整備を整えました。

(3)企業的要因

EC化推進のきっかけには企業的要因も深く関わっています。そもそも4S店の出店には一般的に初期投資として2億~6億円が必要とされ、流動資金は3億~4億円、損益分岐点は年間約1,000台としています。実際の店舗目標は、年間1,500台が目安といわれており、出店できる自動車ディーラーはかなりの資金力が求められます。

これまでは、自動車ディーラーとして参入するには、多大な資本、アセットが必要となり、既存事業モデルを前提とした新規参入は魅力的ではないと判断されてきました。しかしながら、政府のEC化の後押しもあり、資金面で相対的に有利となったEC事業者は、旧態依然とした自動車販売の市場や業界構造は魅力的であり、確かな事業機会があると判断したのです。

そして企業的要因には、このような経営戦略的要因の他に、技術的要因も挙げることができます。今、中国のEC化の大きな原動力となっているのが決済機能の充実化です。中国では、個人向けのモバイル決済サービスが急拡大しており、利用者はEC最大手アリババの「アリペイ(Alipay=支付宝)」が8億人、SNS最大手テンセントの「ウィーチャットペイ(WeChat Pay=微信支付)」が4億5,000万人に達し、二つを合わせると実に延べ12億5,000万人が利用しています。店頭購入などリアルの場においても、アリペイやWeChat Payが利用されスマートフォンで決済が行われています。

日本ではというと、現時点では、年代にかかわらず、いまだに現金信仰が強く残ります。インターネット上でクレジットカード番号を登録することに抵抗を感じ、躊躇する人が少なくありません。ECで自動車のような高額商品の販売が伸びない要因として、技術面での決済手段の未整備の他、こういった消費者心理面における不安も挙げることができます。

また、フィンテックは単独での提供よりも、ECでは商流や物流と組み合わせたサービス提供により拡大します。中国での自動車販売のEC化は市場創造、差別化の可能性を示した好事例として捉えることができます。

企業的要因の最後に、価格競争力を挙げることができます。4S店によるショールーム販売からEC通販形態に移行することで、人件費や店舗維持費など、多くのコスト削減が可能となり、価格優位性を維持することができます。これについて、ある購入者が、「理由は価格の安さ。ベンツのChevronをサイトから購入したときは、実店舗から買うより3,500ドルも安かった」とコメントしています。この購入者によると、車を買う際にはほとんど実店舗は訪れることなく、これまで買った車は全てオンラインだったといいます。EC事業者が4S店よりも魅力的な価格を提示していることがわかります。


<TMALL天猫,自動車カテゴリーページ:https://car.tmall.com/

まとめ

さて、中国の自動車販売におけるEC化の推進要因を考察してきました。もともと地政学的な要因があった一方で、国策として既存の店舗販売形態に歯止めがかかると同時に、かねてからのネットサービス系新興企業による新規参入の思惑が合致したこと、そしてフィンテックやモバイルネットワークなど企業努力による新たな技術発展が伴ったことで、中国における自動車販売のEC化は加速し始めたといえます。

この事例を捉えたときに、日本企業にとって、国土的な要因や国家施策による推進は関与できる範囲ではありませんが、一企業体として、中国企業が進めるEC化に学ぶべき要素は多く、日本において高額商品のEC化はまだまだ可能性があるように思われます。

今後、日本でも生産年齢人口に占めるデジタルネイティブの比率が高まってくることが明らかになっており、2015年時点で24%のところ、2030年に50%を超えるといわれています。こうしたデジタル環境の変化からも、高額商品のEC化を進めていく上で、すでに実例として挙げられる中国企業の取り組みを理解することは、日本の企業にとってに有用な参考となるのではないでしょうか。

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UPDATE
2018.04.13
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