COLUMN
カーディーラーにおける
「ブランディング」を考える
続・個社ブランディングの必要性
ブランディングとは、一言でいえばブランド力を高めるための戦略である。では、カーディーラーにとっての「ブランド力」とは具体的に何を指すのだろうか。自動車メーカーや商品としての「車」それぞれが持つブランド力は、自動車メーカーのものであり、カーディーラーのものとはいえない。カーディーラーにとって大切なのは、販売会社として自社のブランド力を高めることだ。前号では個社ブランディングの必要性について考えた。今回はその具体策について考えてみよう。
カーディーラーにとって重要なブランド力とは何か
カーディーラーにとってのブランド力とは、大きく三つに分けることができる。一つは自動車メーカーのブランド、二つ目は車という商品のブランド、三つ目はカーディーラー(販売会社)のブランドだ。
振り返ってみるとこの数年、メーカーや商品のブランドだけで勝負することが難しくなってきているのではないだろうか。同メーカー内や、同じ車種を扱うチャネル同士の競争も激しくなっている背景から、カーディーラー個々が自社独自のブランド力を高めることが求められている。つまり、同一商品を扱う他のカーディーラーよりも自社店舗を選択して足を運んでもらうためのブランディングの必要性が増しているのである。
ブランディングに取り組む際には、まず「自分たちはこういう存在(店)である」というメッセージを発信することが大切だ。これをブランドコンセプトという。カーディーラーの場合、例えば「気軽に行けるショールーム」「カーライフ全般をサポートするお店」といったコンセプトが考えられるかもしれない。
ただし、一方的に発信するだけではブランド力は高まらない。ブランド力があるかどうか評価するのはお客様であり、お客様がどう思っているかが重要であるからだ。これをブランドイメージという。
重要なのは、この二つ(コンセプトとイメージ)を一致させることだ。コ ンセプトとイメージが一致している好例としては、ユニクロ(安い・便利)やApple(先進的・独創的)などが挙げられるだろう。いずれもブランド力がある企業だ。カーディーラーの場合も同様に、店側が「気軽に行けるショールーム」というコンセプトを掲げるだけではなく、お客さまに「あの店は気軽に行ける」というイメージを持ってもらうことで、ブランドとして認知されるのである。
店舗のコンセプトは現場に理解されているか
コンセプトとイメージを一致させていくためには、経営層や本部が決めたコンセプトを一貫性を持って体現することが重要だ。
しかし、実態はどうだろうか。
例えば、経営層だけがコンセプトを理解し、現場で実践されていないケースがある。顧客と企業との接点は主に現場であるため、企業として目指す姿や伝えたいメッセージを店舗やスタッフの接客にしっかりと反映させておく必要がある。その部分が抜け落ちると、せっかくお金を掛けて店舗や設備を作り、チラシやCMなどでコンセプトを伝えても、顧客には中身が伴わない「張りぼて」のコンセプトであると見抜かれてしまう。
もしくは、販売現場がコンセプトを体現して購入の契約を取ったとしても、アフターサービスのスタッフがそのコンセプトを理解していなければ、一貫性が途切れてバラツキが生じてしまうだろう。結果、企業側が発信したいコンセプトと顧客が受け取るイメージが一致せず、ブランドイメージが定着していかない。このような例からも分かる通り、ブランドコンセプトは、現場スタッフ一人ひとりが理解し、バラつきなく実践することが必要である。スタッフ全員が理解と実践を徹底していくための取り組みや仕組みづくりがポイントとなってくる。
すべての顧客接点にコンセプトを反映させる
そこで重要になるのが、店舗とお客様の接点、つまり、集客、店舗外観、ショールーム、販売、アフターサービスといったすべての機会に同一のコンセプトに基づく設計・サービスを行うことだ。
例えば「女性が気軽に来店できるお店」というコンセプトを掲げるのであれば、集客では色使いや写真・ビジュアルにこだわったチラシなどを使うのがよいだろう。店舗外観は外から店内が見えるようにし、入りやすい雰囲気を作る。ショールームはカフェのようなゆとりある空間にし、店舗スタッフは清潔感ある見た目や、安心感ある話し方に気を配る。販売時の説明では難しい言葉を避けて分かりやすくし、アフターサービスはいつでも気軽に立ち寄れる体制を整えておく。これはあくまでも一例だが、一貫性のイメージをつかんでもらえるだろう(図1)。当然、コンセプトが違えば、集客方法も異なり、販売現場などで重視する点も変わる。どこか一つでもコンセプトと一致していないところがあるだけで、顧客が受ける印象は変わり、イメージを持ちづらくなってしまうものなのだ。
数ある顧客接点の中では、お客様を担当する営業スタッフとウェブサイトが特に重要といえる。購入意思決定をするための情報の多くをその2点から入手することが多いからだ。
では、この2点をブランディングに活かすにはどうすればよいのだろうか。
スタッフの伝え方一つでお客様のイメージが変わる
まずは販売時の接点から見ていこう。
お客様に与える印象や、お客様が持つイメージは営業スタッフによってを大きく左右される。この点はデータを見ると分かりやすいだろう。調査によると、車を買った人の中で、以前に車を購入した店で再び購入した人(リピーター)は33.7%。リピートした理由としてもっとも多かったのは「欲しい車種を扱っていたから」(48.1%)で、次に多いのが「担当スタッフに信頼が置けるから」(46・4%)である。この数字から、スタッフ対応の良しあしがいかにリピート獲得に影響しているかが分かる。特に車のような高額商品の場合はスタッフとの接点が重視される傾向にある。
ちなみに、立地の良しあしや値引きの有無が集客や営業成績に影響力が強いと思われがちだが、「立地の便が良いから」(15.9)%、「値引きしてくれるから」(13・4%)というデータを見る限りでは、リピート獲得に対する効果は決して大きくない。それよりも、スタッフの良しあしや、4位に入っている「アフターメンテナンスの信頼」(20.6%)のほうが店舗の選択要因として重視されているのだ。
話をブランディングに戻そう。
お客様と接する時間が長く、お客様が持つ印象・イメージを左右するということは、コンセプトの伝わり方もスタッフの話し方や伝え方によって変わるということだ。では、顧客と接している時間のなかで、コンセプトについてはどのようなタイミングで、どんなふうに伝えているだろうか。
例えば、店舗として「カーライフ全般をサポートする」というコンセプトを掲げたとしよう。スタッフは「お客様のライフスタイルにぴったり合う車を選んでほしい」という思いを持っている。そのために、お客様アンケートに答えてもらい、車に対するリクエストや使い道、不明点、不安やことなど細かな情報を把握しておきたい。しかし、そのような思いがあったとしても、実際にアンケートに答えてもらえるようお願いした際に、お客様が面倒くさがったり、書かずに帰ってしまうこともある。そうなってしまう一因は、コンセプトを明確に伝えていないからではないか。
まずは「ぴったりの車を選んでほしい」という思いや、そのために「できる限り情報を知っておきたい」と伝えることができれば、お客様の印象は変わる。アンケートにも喜んで協力してくれるようになるものだろう。また、「満足して買ってもらうために十分に試乗してもらいたい」「購入後の安心のために、保険の話、メンテナンスの話もさせてほしい」など、コンセプトとひも付くことを明確に伝えることで、お客様は「この店はカーライフ全般をサポートしてくれる」というイメージが持てるようになる。つまり、コンセプトとイメージが一致しやすくなるのだ。
カーディーラーの約3割はメッセージを発信していない
販売現場と同様、自社ウェブサイトもコンセプトを伝える重要な手段の一つだ。
ウェブサイトの掲載内容は、誰かが手を加えない限り変わらない。そのため、スタッフを通じてメッセージを伝える場合と比べ、安定的に多くの人に知ってもらうことができ、伝え忘れることもない。人によって伝え方が変わることもない。
ただし、全国のカーディーラーのウェブサイトをランダムに選んで調査したところ、そのうちの約3割は自社のブランドコンセプトを打ち出していなかった。どんなふうに顧客の役に立ちたいか、どのようなスタンスで車を扱っているかといったメッセージが、自社のウェブサイトに書かれていないということだ。当然ながら、メッセージがなければ、ウェブサイトの閲覧者も、その店舗のイメージを持つことができず、同エリア内に存在する他ディーラーと区別の付けようがないのだ。
また、メーカーから表彰を受けている優良販社と一般的な販社に分けて調べたところ、優良販社のほうがメッセージを打ち出している割合が高いことも分かった。打ち出しているメッセージの傾向については、図3をご参考いただきたい。
記事の前半では、ブランディングがうまくいっていないケースとして、現場でコンセプトが理解・実践されていない例や、現場スタッフの理解度・実践度にバラつきがある例に触れた。それ以前の問題として、そもそもコンセプトが定まっていないケースもあるのかもしれない。仮にそうだとしたら、まずはコンセプトを設定し、社外と社内(社員)に向けて発信する必要があるだろう。社員への発信が重要なのは、彼らが媒体となり、コンセプトが顧客へと伝わっていくからである。
方向性が決まればおのずとそこに近づける
各カーディーラーがウェブサイト内で打ち出しているメッセージを分析していくと、例えば価値創造や革新を重視するカーディーラーがあれば、技術や品質を重視し、アフターサービスに力を入れているカーディーラーもある。接客を通じたホスピタリティ向上、親しみやすい店舗づくりなど、目指す方向はさまざまだ。
ブランドコンセプトそのものには正解があるわけではない。ただし、いかなるコンセプトも、顧客のイメージと一致するまでには時間がかかるものだ。例えばAmazonのように、より効率的に、安く商品を提供するというのもコンセプトの一つであるし、ディズニーランドのように顧客に寄り添ったサービスを提供するというのもコンセプトの一つである。そしていずれも、一朝一夕で認知されたわけではなく、勝手にでき上がったものでもない。会社があらゆる媒体を通じてメッセージを発信し、長い時間をかけて定着したものだ。
スタートは、経営層が「このような会社を目指す」という方向性を決めることだ。どこへ向かうかが決まれば、目的地に向かって進み、近づくことができる。冒頭でも触れた通り、メーカーや商品のブランドだけでは差別化が難しい時代だからこそ、カーディーラーの各社のコンセプトを明確に打ち出すことが重要だ。
さて、貴社にはどんなコンセプトがあり、その内容はどれくらいお客様に認知されているだろうか?
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- UPDATE
- 2017.03.22
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