めざましコラム　第77号　一人前って何ですか？

ー この車の荷室は、今のうちの車とどのくらい違う？
ー （え！？ どのくらいって？）
あ、それはですね、えーと…
し、調べてきますので少々お待ちいただけますか？

「10年前の車の荷室サイズなんて、知っているわけないでしょ！」
そうは思いながらも、お客様からの質問だ。しっかり調べてお答えしなきゃ！

ネットに雑誌、カタログ、マニュアル、あるものすべてをひっくり返す。
だけれども、求める荷室の情報なんて出てきやしない。時間ばかりが過ぎていく。
周りを見渡すが、店長も先輩も忙しそう。
こんなことで手をわずらわせるのは半人前。一人でしっかり対応すべし。

お客様のもとへすごすごと戻る。
ー 申し訳ありません。調べてみたのですが、ちょっと広さは分からなくて…
ー ふーん。じゃあ、さっき安全性能がすごいっていったけど、それはどう違うのかな？
ー 今のお車とですか！？ 申し訳ありません、また少しだけ調べてきます。
ー いやいや、そこまでしてくれなくてもいいよ…

盛り上がりに欠けたまま、口数少なくお客様はお帰りに。私もうつむき静かにお見送り。
うつむく私の報告に、店長からはとどめの一撃。
ー そんなことしているから、いつまでたってもお前は半人前なんだよ！

いやいや、そうは言っても頑張りましたよ！

ちゃんと調べたけれど、分からなかったのです。見つからなかったのです。
店長だって、先輩だって、きっと分からないはず。
10年も前の車の荷室サイズなんて、覚えているわけがない。
それでも一人でどうにかこうにかやりきった。褒めてくれてもいいくらい。

後から考えてみれば、荷室サイズなんて偏屈な意地悪質問。
何cmとか何リットルとか聞かされても、多分何も決められない。

早く一人前だと認められたくて、一生懸命頑張っています。
だけれど、なかなかうまくいきません。
どうすれば一人前になれますか？

一人前ってなんですか？

他人の力を借りず、一人でやりきること。　それは確かにその通り。

本当の一人前ってなんですか？
誰にとっての一人前ですか？

お客様にとっての一人前を考えよう。
お客様の立場からすれば、あなたが一人でやりきっていたかどうかはどうでもいいこと。
むしろ、一人きりであたふたと、知識もスキルもつたない対応をされる方が迷惑なこと。

間違った「一人前対応」で、一人きりでつたないままの対応をされては迷惑なのです。

お客様にとって「一人前対応」とは、自分の要望を満たしてくれること。
一人だろうと二人だろうとかまわない。しっかり要望に応えてくれればよい。

一人前ってなんですか？

何を使ってでも、お客様に最大限の価値を提供すること。
お店の、会社のパワーをフル活用して、お客様に価値提供できるようになること。
それが本当の一人前。

一人前対応で、お客様の期待に応えていこう。
店長、先輩の力をフル活用して。

ーこの車の荷室は、今のうちの車とどのくらい違う？
ー（え！？ どのくらいって？）
調べてきますので、少々お待ちいただけますか？

辞去して早速店長相談。耳打ち二つ、ツールを一つ。

ーお待たせしました！　それでは一緒に測ってみましょう！
ところで気になっているのは、奥行きですか？ 幅ですか？ 高さですか？

手元の巻き尺を広げてみせる。
お客様は少し驚いた顔をした後で、笑顔になった。
一緒に寸法を測っているうちに雰囲気も盛り上がってきた。
気にされていた奥行きについても、全く問題がなく、納得していただいた。

安全装備だけは、巻き尺では測れない。これも店長には相談してみた。
調べてからお答えすることにした。
お客様は「よろしく頼むよ！」と笑顔で帰って行った。

一人で抱え込まずに、知恵を借りた。お客様のために、人の力を借りてみた。
一人前の対応のために、知恵を借りた。
一人前に一歩近づいた。